パワフルだった80年代! コスモREターボで最高速樹立

〈MONDAY TALK星島浩/自伝的・爺ぃの独り言22〉 「夏がくれば思い出す」—-と書き出せれば旨いのだが、今は冬。マツダRE関連の訪問取材を受けたのを機に、自慢したくなった。

 1982年だから私はまだ50歳。若手ではないが、コスモ・ロータリークーペには発売前から胸を膨らませていた。折しもオイルショック後遺症が癒え、日本が経済成長ブームに向かう時期である。

                                                          

 期待は当然。ロータリーエンジンが電子制御燃料噴射を導入、加えてターボチャージャー付き、ときた。レシプロエンジン・ターボは実用化されていたが、2サイクルに似て吸排気バルブがないREは、より低速域から過給効果が顕れる。日本の市販車で最高性能は疑いない、と。

 

 スタイリングは2ドアハードトップ。全長4640㎜、全幅1690㎜の小型車規格は一般的。全高1360㎜が低く、おまけにリトラクタブル・ヘッドランプ採用で前面空気抵抗を抑えている。事実上2+2で、後席は狭いものの、3人乗りならロングドライブも付き合えそうだ。

 

 もう一つ、胸が膨らんだのは—-マツダも自信があったのだろう、発売直前に報道関係者を谷田部(JARI=日本自動車研究所)に招いてゼロヨンと最高速の公開テストを実施。ワークスドライバー・寺田陽次郎さんが起用された。

 

 なるほど2名乗車でゼロヨン15秒16は日本車最速。最高速も5.5㎞オーバル1周で1分33秒75=211.2㎞/hを記録—-実験部長曰く「当社の三次コースは最高速テストが無理なので、計算上210㎞/hと発表したが、谷田部で実証でき「してやったり」と。

 朝8時開始のテストは薄日が差す好天で、22℃強の気温も7月下旬としては低め。路面温度が高まらない時間帯が選ばれた。

 

「谷田部はあまり走っていない」と言いながらも、さすが寺田陽次郎さん。走行ライン取りの巧さに感心した。でも、私には疑問があった。

 

 9時から報道関係者によるテストが始まる。

 疑問は陽次郎さんの最高速が5速MTの④速で記録された点だ。

 計算上では④速で発揮すると判っていたのだろう。が、私は⑤速のほうが望ましいのでは? と疑った。厳密に計算できる資料が手許になく、時間的余裕もなかったので、単なる思いつきだが—-。

 

 時速210㎞は④速だとエンジンが7000rpm超だろう。ギヤ比を10:8として⑤速なら5700rpm弱と思われる—-念のためコースインした1周目で車速と回転数を確かめればよろしい。

                                 

                                           

             コスモREターボ。パワー競争まっただ中。驚異的な速さに驚いた。

 

 発生トルクが、7000rpmで16㎏mなら、5700rpmで20㎏m。

 つまり8:10である。発揮するパワーは同等か、④速7000rpm時点のほうが僅かに優るかもしれぬ。だから計算上④速を選んだ。

 しかし谷田部の周回路は直線部4割、バンク部6割。バンク部分が長く、当然、下向きGがかかって転がり抵抗が直線部走行より増える。

 単純にトルク×回転数=パワー(車速)だとして、転がり抵抗に対抗するには、この場合、発生トルクの大きいほうが有利ではないか?

 

 7000rpm時点のトルク16㎏mは過給圧が頭打ち。一方5700rpm時点の発生トルクは過給圧が頂点を過ぎているとはいえ、余力十分と思われる。だったら⑤速が良し—-至極単純な「計算」だった。

 

 走行ラインは陽次郎さんと同じく。210㎞/h強となれば、ガードレールに触れない範囲でギリギリ外側を走る。バンク部分は僅かにハンドルを切った状態になるが、極力、修正しないですむよう心がける。

 修正がステアリングリム上1~2㎝であっても、ラップタイムがコンマ2秒落ちるのをモーターフファン・ロードテストで経験済みだ。

 

 果たして、コースインして最初のバンクを④速で抜けた後、次のバンクに⑤速で入ったら、④速使用時と比べて車速の落ち方が小さい。

 

 なんと! 手許の時計で、いきなり1分32秒4!

 

 まさか、と思いつつも正式計時を頼んで、もう1周したら1分32秒60=213.8㎞/hだった。持ち時間内ではここまで—-クルマに慣れれば214㎞/hもマークできたろうが、その後、現役レーシングドライバー数名のトライでも1分34秒を切るタイムは得られず。毎月のように走ってコースに馴染んでいただけ、私が有利だった。

 

 今は谷田部のコースなし。RE生産も2012年で終わっている。★