BMW M6はこだわり抜いた専用パーツで華麗な走りを極めた高性能スポーツカー

3代目となるBMW M6の国際プレス試乗会がスペインのマラガで開催されたので、M6の解説とクーペのサーキット走行も含めた試乗インプレッションをお伝えしようと思う。まずはM6の解説をしておこう。

M6の外観はオリジナルの6シリーズとは異なり、多くがM6専用パーツに換えられている。特徴的なのはボンネットの先端にあるキドニーグリルの桟のデザインが異なることだ。Mデザインのホイールのスポークと同じくダブルになっていてMモデルらしさを醸し出している。

エアロダイナミクスも考慮されているフロントバンパーは空気取り入れ口が大きく開いて、キドニーグリルのデザインと相俟って精悍なイメージが強くなっている。

Mクーペのフロントスカートの下には、ゴムのリップスポイラーが追加されている。クーペもカブリオレも空気の取り入れを優先するため、M6にはフロントフォグランプは付かない。

リヤは床下を流れる空気でダウンフォースを得るべく、ディフューザー効果が出るように床下からリヤバンパーまでは徐々に高くなるようにデザインされている。

M6クーペのルーフはMモデルクーペの定番になったCFRP(カーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスチック)になる。これを採用した目的は、重量の軽減だけでなく重心を下げる(上が軽くなるから)というメリットも狙っている。室内にもCFRPが使われているが、これよりルーフ用は対UVに強い特性にしてあるという。今回の試乗車のM6クーペは渋い赤色のメタリックだったので、ルーフの黒とのコントラストがきれいだった。黒色のメタリックの場合にはCFRPが目立たなくなるだろう。
このようにエクステリアだけでもオリジナルのM6から大きく変えてあるが、Mモデルらしさでもある。

サスペンションに関しては、バネやダンパーだけでなくアーム類もM6専用パーツになっている。ダンパーは電子制御による減衰力可変タイプで、スイッチによってコンフォート、スポーツ、スポーツ・プラスを選ぶことができる。コンフォートといっても走行スピードに合わせた減衰力を出してくれるから、ただソフトなだけではない。
ちなみにハンドルの手応え、アクセルペダルのレスポンスもコンフォート、スポーツ、スポーツ・プラスをそれぞれのスイッチで独自に選ぶことができ、これらをすべてプリセットで覚えさせることができる。iDriveの画面を見ながらプリセットするか、実際にそれぞれをセットしたときにハンドルの左側スポークのところにある○M1または○M2のスイッチを長押しするとコンピュータが覚えてくれる。

サーキット用に好みのセットをしておけば、サーキットについて走り出すときにこの○Mボタンを押すだけでいいのだ。

タイヤはミシュランのパイロット・スーパー・スポーツで、クーペの試乗車はオプションの20インチで前265/35/ZR20(99Y)XL、後295/30ZR20(101Y)XLを履いていた。

オリジナルの6シリーズはランフラットタイヤを履くが、Mモデルはランフラットではない。バネ下重量を少しでも軽くするためと、ハンドリング性能や細かい手応えなどのフィールを大事にするMモデルのこだわりだ。
M6になってサブフレームがゴムブッシュを介さず、ダイレクトにボディと接続されている。もちろんハイグリップタイヤによる強いGを受けてもサスペンションの取り付け部が動かずしっかりと走れるようにするためだ。

 BMWのオリジナルモデルがみな電動パワーステアリングになっているが、M6はわざわざ油圧パワーステアリングを採用している。

やはりハイグリップタイヤで高Gコーナリングしているときには、大きな負荷が掛かるから電動より油圧が有利らしい。こういう装備の違いもMモデルらしいところだ。

M6のフロントシートは、シートベルトが3点ともシートに取り付けられたインテグレーテッドタイプである。

これはオリジナルの6シリーズカブリオレ、クーペ、グランクーペも同じだが、このスポーツシートをベースにサポートのクッションを多少アレンジしてM6用に仕立てたものだ。
インテグレーテッドタイプのシートはシートフレームの強度だけでなく、シートレールやフロアの剛性も衝突に耐えられるものでなくてはならないので、相当なコストが掛かる。そもそもBピラーがないカブリオレから始まった三代目の6シリーズだから、このシートが標準になったのだろう。

先代はF1を思い起こさせるV10のノーマルアスピレーションエンジンだったが、一転してV8気筒4.4Lツインターボエンジンに切り替わった。

560PSを発揮するこのエンジンは、X6M、X5Mで採用しているV8ツインターボエンジンとは別のものだ。次期M3もターボエンジンになると云われているから、Mモデルはすべてターボチャージャー化することになる。
これも時代の流れかもしれない。大トルク、高出力と低燃費、低公害を両立させるためには過給の力を借りなければならないのだ。エフィシェント・ダイナミクスの実践はMモデルでも同じなのだ。

タコメーターは6800rpmからイエローゾーン、7200rpmからレッドゾーンが始まるが、これまでのノーマルアスピレーションのMのエンジンと比べると低い回転数である。

先代のV10エンジンのオーナーがドライブしたら、刺激が小さく感じるかもしれない。それでも軽くアクセルペダルを踏み込むだけでDSCがなければ、いとも簡単にお尻を降り出しそうになるトルクとパワーを感じるとこれも有りかなあと思ってしまう。

先代のM6はV10エンジンと組み合わされたのはシングルクラッチのセミオートのSMGであったが、新しいV8ターボエンジンと組み合わされたのはツインクラッチのM・DCTである。

強大なトルクに耐えられるだけでなく、シフトアップ/ダウンが素早くしかもスムースになった。ほとんど通常のトルコンATに近い感覚だ。

M6カブリオレにはフル電動のソフトトップが備わる。

このソフトトップは走行中でも30km/h以下なら作動可能である。止まっているときなら、 リモートコントロールキーで車外からの操作もできる。クルマに乗り込むときにオープンにしたいのなら、キーのアンロックのボタンを長押しすれば全部の窓ガ ラスが開き、トランクリッドの下側に収納される。

クルマから降りたときにソフトトップを閉めたいなら、これもリモートコントロールキーのロックボタン (BMWマーク)を長押しすればいい。通常のドアロック/アンロックはかなり遠い距離からでも作動可能だが、ソフトトップの開閉はクルマのそばでないと作 動しない。これは安全対策である。このシステムはオリジナルの6シリーズカブリオレでも同様だ。しかしMモデルになっても、このエレガントさを持ちつつ高 性能を発揮できるところがいい。

次回はM6クーペ、M6カブリオレの試乗レポートをお届けする。
(菰田 潔)

BMW M6クーペ
価格:1650万円
公式サイト
http://www.bmw.co.jp/jp/ja/newvehicles/mseries/m6coupe/2012/showroom/index.html

BMW M6カブリオレ
価格:1760万円
公式サイト
http://www.bmw.co.jp/jp/ja/newvehicles/mseries/m6convertible/2012/showroom/index.html

 【写真ギャラリーをご覧になりたい方は】 https://clicccar.com/2012/09/30/200048