レクサスの新しいおもてなしは”気づかせない”こと。運転がうまくなった気がするレクサスNew GS~その2~【Lexus New GS Test Drive】

事前にクルマのことをまったく調べずにこのイベントに参加したため、スペックもどのようなメカニズムなのかも全く知らなかったので、試乗の合間にあった安全性能開発担当エンジニアと話す時間に、LDHについて色々訊いてみました。

レクサスの言葉を引用すると、「LDHはVDIM(*1)コンセプトのもと、ギヤ比可変ステアリングVGRS(*2)、EPS、後輪の切れ角を制御するレクサス初のDRS(*3)を統合制御するシステムです。通常の走行域から制御していることを意識させずにドライバーの操作に対し理想的な車両挙動を実現すべく、車速やステアリング操作などに基づき4輪のタイヤ切れ角を最適に制御。高速走行時の高い車両安定性、山岳路での軽快なステアリングレスポンス、パーキングなど低速時の扱いやすさを実現し、あらゆるシーンでこれまで経験したことのない走りの歓びを提供します」とのこと。

実際運転してみてどうだったかというと、低ミュー路のコーナーで、危険回避の局面で、”何か安全装置が働いている感”がありません。ESPやTCSなどと呼ばれる安全装置が働いた場合、何となく違和感のある挙動でそれを感じるものですが、腰から伝わるクルマの挙動も、手から伝わるステアリングのフィードバックもありません。このため、挙動が乱れた感=ちょっとした怖さ、を感じずに駆け抜けることができました。全く気づかないため、「俺って運転うまいやん!」と思ってしまいます。特に驚いたのは、明らかにアンダーステアでコーナーに突っ込んだ時の挙動です。どうやってもまっすぐコースアウトするか、運良くしかなったとしてもヨタヨタとしたり、ほとんど止まるようなスピードになってしったりと、もし後続車がいたら事故を誘発するのではないかという局面です。しかし、あれ?と思うほど何ごともなかったかのようにコーナーを曲がっていきました。しかも”装置が作動している感なく”です。

この点が比較試乗したBMWと大きく異なる部分。そしてこの点こそがLDHのトピックなんだそうです。前後輪のステア角、操舵トルクを自由に制御することによって、車両の平面運動(ヨーレート・横G)を自由に制御できることが。何か起こったときに立て直すだけではなく、ドライバーの操作やクルマの挙動から、何か起こりそうな予兆を察知し、その手前で手を打つ、そしてそのことをドライバーに悟られないように制御するか。そこがポイントだと。実はドライバーが気づかないうちにステアリングの切り角、切るスピードもEPSが制御しています。大きく切っても小さく切っても、クルマ側で別の判断をして加減しているとのこと。初期のBMWのアクティブステアリングのようにカウンターステア(現行車はしないらしいですが)をしないこともドライバーに悟られない理由の一つでしょう。

そしてこのシステムは特許で押さえられているため、他社は簡単にまねができないそうです。アドバンテージですね。5月に論文発表があるそうなので、その頃にはもっと詳しく勉強できると思います。
今回は体験できなかったのでデータだけ見せてもらいましたが、VDIM強調制御の効果で、左右でミューが異なる路面での急加速でもスピードが落ちず、急制動でも修正蛇角が最も小さく、最も短い距離で停止できるんだそうです。低ミュー路旋回でアンダーステアに陥ったときにスピードが落ちた感覚がなかったのはこのためだっだようです。

上様を知らないところで守る公儀お庭番のようなシステムですが、体感して、話を聞いていてふと疑問がわきました。LDHに慣れてしまった(平和ぼけしてしまった)あと、LDHがついていないクルマに乗り換えたとき、危険なことにならないのか?あるいはまた、挙動をドライバーに知らせないことが本当にいいことなのか?

BMWはドライバーの操作を尊重して、ギリギリまで待ってから安全デバイスが作動しますし、挙動をドライバーに伝えることを良しとしています。メルセデス・ベンツは端からドライバーを信用せず、AMGモデルであってもかなり早い段階で制御されてしまいます。と、各メーカーの思想がはっきり別れています。機会があれば、ライバル2社の話も聞いてみたいと思います。普通の日本人ドライバーが普通に日本を走るなら、きっとレクサスの考え方が合うのだとは思いますが。

以上のように難しいことを聞いてはいましたが、開発担当エンジニアの方によると、狙いは一般道。日常的なシチュエーションで安全に楽しく運転できるためにこのシステムを開発したので、「ぜひ一般道で効果を体感してもらいたい」とのことでした。では早速!

注:
(*1) VDIM: Vehicle Dynamics Integrated Management
(*2) VGRS: Variable Gear Ratio Steering
(*3) DRS: Dynamic Rear Steering.

(Autanacar)