最新エコエンジンを読み解くキーワード その3「EGR」

エコエンジンのキーワード「ポンピングロス」において、その低減に役立つテクノロジーとしての高膨張比エンジンという話をしましたが、ミラーサイクルなどの高膨張比エンジンでなくともポンピングロスを低減することは可能です。

 一般的なオットーサイクルでポンピングロスを低減する方法のほうが普及していますし、オットーサイクルにおいてポンピングロスを減らすことができるなら、よりエコエンジンにとっては重要なテクノロジーといえましょう。

 その技術とは?

 「排気再循環、アルファベットではEGR」

 ハイ、正解!

 というわけで、最新エコエンジンを読み解く、最後のキーワードは「排気再循環=EGR(Exhaust Gas Recirculation)」です。

 単純にいうと、吸気に排ガスを混ぜるというもの。

それだけを聞くと燃焼効率に悪いような印象もあります。なにしろフレッシュエアを吸い込むほど効率がいい、というイメージもありますから。

 ただし、ここでテーマとしているのはポンピングロスの低減です。

 ガソリンエンジンの吸気におけるポンピングロスを減らすには吸気抵抗を減らすのが効果的。そして吸気のボトルネックといえるのがスロットルバルブなのです。基本的にはスロットルバルブを全開にしている状態がポンピングロスが最小というわけ。

 ここで逆転の発想。

 たとえばスロットルバルブを全開にしておいて、吸気量のコントロールをEGR率で制御するというのはどうでしょうか。

 排ガスというのは酸素のない状態といえますから、EGR率を上げるということはスロットルバルブを絞った状態に近いといえますし、またパワーが必要な状況ではEGR率を下げることでフレッシュエアの比率が高まるので必要な出力を得ることが出来ます。

 

もっとも、スロットルバルブを全開にしておいて、すべてをEGR率でコントロールできるほど単純な話ではなく、燃焼状態などを確認しながらスロットルバルブ開度とEGR率を決めていかなければいけません。

 そんな高度な制御ですが、ダイハツが間もなく発売する省燃費軽自動車にも採用されるほどで、高価で特別なテクノロジーというわけではありません。

 

ダイハツ工業eSテクノロジー技術解説より

ダイハツ独自のイオン検出システムによって燃焼状態を把握、EGR量をコントロールするというシステム。

この構造は、まさに吸気に排ガスを混ぜているもので、外部EGRと呼ばれるシステム。

 

このほかに、吸気行程で排気バルブを開いておくことで排ガスを取り入れる内部EGRというシステムもありますが、いまどきのエコエンジンでは外部EGRが当たり前という状況です。

 

 しかしEGRの効果はポンピングロス低減だけではありません。

 

排気再循環をすることにより、シリンダー内の温度を下げることができます。

 

これは圧縮時の温度を下げることにつながるわけで、つまりはノッキングの抑制にもつながるのです。

 

マツダSKYACTIV-1.3技術解説より

それを示したのが、こちらのグラフ。

圧縮比14.0でEGRなしの状態では赤い点線ですが、EGRありは黒い実線と熱効率が改善されています。

 

ポンピングロス低減に効くだけでなく、ノッキング回避にもEGRは有効というわけ。

さらに、燃焼温度を下げることでNOx(窒素酸化物)の低減にも効いてきます。

 

まさに、現代のエコエンジンにとって、なくてはならない技術。

それがEGRなのです。

 

 

(山本晋也)

 

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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