〈MONDAY TALK星島浩/自伝的・爺ぃの独り言20〉 旧聞ながら、捨てがたいメモが残っている。作冬は積雪や路面凍結が心配な2月前半に新型車試乗会が連続。ツインリンクもてぎで、今をときめくスバルBRZ試乗会があった。
この時季は天候と路面状況に左右されがちだ。
例年1月末~2月初めに行われる輸入車試乗会は、梁瀬次郎さんが組合の会長でいらした第1回から欠かさず参加している。意外に大磯から小田原にかけての冬は暖かくなく、近くの箱根ターンパイクを頂上まで走れた記憶がない。ときおり西湘バイパスでは風が強く吹く。
比べて、さほど大磯に遠くない観音崎は暖かだ。最低気温が大磯より3、4℃高く、高速道路や屈曲路も近いので走りやすい。
余談さておき、この時季、最も案じたのはツインリンクもてぎ。積雪こそ6、7年に1回くらいだが、朝は零下5℃に下がり、路面凍結も珍しくない—-大丈夫かと心配したものの、今回は日差しに恵まれた上、風も穏やかで嬉しくなった。もちろん前夜は茨城の隠居小屋泊。
試乗はオーバル半分を含むレーシングコースと外周路。トヨタ86と機種構成が異なるが、最も多く売れると思しきRを6速ATと6速MTで、ホットなSはMTが払底していたため、ATで試乗した。
試乗印象は既に多くのレポーターが報告済み。80歳寸前の爺ぃに出る幕はない。周りの猛者に迷惑を掛けないよう努めたが、それでも興奮した。味こそ異なれジュークGT four以来である。
スバルBRZ。2012年登場の魅力的モデルだ。
新しいプラットフォームが86とBRZだけで終わるはずはない。
スバルを冠するならパワープラント搭載位置と前部骨組みを工夫すれば4WD化できるし、インホイールモーターを加える手もありそうだが、その話は機会を改めよう。要するにHV四駆である。
開発エンジニアと話していて引っかかったのが装着タイヤだ。
RではないSに標準の17インチ版ミシュラン—-開発中、タイヤメーカーに注文つけたら「車のほうを直せば?」と返されたとか。
そりゃそうだろう。月100台単位のオーダーで、タイヤに手を加えるわけにもいくまい。が、ミシュランだと月1万台単位でもOKしたかどうか疑わしい。その場合もミシュランは「開発最終段階の車両3台を寄越せば最適タイヤを供給できる」と応えたかもしれぬ。
私はオイルショック前の1970年代前半にミシュランを訪ねた。
クレルモンフェランに本社・工場があり、近郊ラドゥにある広大なテストエリアに案内された。面積は旧JARIの2倍以上だろう。舗装が異なる長い直線路が数本、水深を調節できる長いウェット路も数本並んでいた。大小スキッドパッド、ハンドリング路のほか、各種石畳や目地、マンホールの蓋など—-。オーバルコースは言うまでもない。
これだけなら驚かないが、小スキッドパッドは普通の靴で立っていられないほどミューが低かったし、悪路に敷くために砕石プラントが稼働していたのにビックリ。オーバルを含む高速コースでは超大型トラックが横風試験用と思しき大きな可動板を立てて走行中。ルマン24時間レースが近づくとレーシングマシンがやってくるとも聞いた。
タイヤには何が求められるのか? われながらアホな質問をしたものだが、一般用は水はけ性能が第一。次いで転がり抵抗低減と乗り心地、操縦性・安定性確保との兼ね合い—-と続いたが「なんといってもタイヤは円いことが基本」だと。最後の一言が強く印象に残る。
帰り際、乗っていた日本車用にと、せっかく4本頂戴したのに「真円を目指した造り」が気になり、某研究所に託してバラしてもらったのも思い出—-「車のほうで直せ」とは尊大な言い方だが、あれから40年。今、訪ねたらもっと驚いて帰るかもしれない。因みに、その時点で本社を訪れた日本人はメーカー関係者が数名。テストコース走行を許された日本人は初めて、と聞かされた。
日本でもタイヤメーカーのテストコースは数カ所、訪れているが、規模は雲泥の差。申し訳ないが、今なお試乗会でミシュランタイヤに接すると、ラドゥを思い出す。ご馳走になった鹿料理も絶品だった。★