目次
■車の視認性とは
スタイリングや構造などを優先させると、視界が阻害されて安全性が低下する場合があります。安全性向上のため、ドライバーが確認でない死角は、ミラーやカメラ、各種センサーを使って可視化します。
安全運転に直結する視界確保のための最新技術について、解説していきます。
ウインドウガラス
ウインドウガラスは、運転者の視界確保および衝突時の乗員保護のため、保安基準によって種類や品質が規定されています。車用のガラスは、一般のガラスに対して割れにくく、割れても飛散しにくい「安全ガラス」であることが規定されています。
一般的には、強化ガラスと合わせガラスが使われます。
視界と安全を確保するだけでなく、多くの機能を持たせています。特にUV(紫外線)カットやIR(赤外線)カットガラスのような断熱性能を重視した仕様は、快適性だけでなく燃費にも大きな影響を与えます。
ミラー
1983年以前は、フェンダーミラーが主流でした。1983年に、空力やデザインに有利なドアミラー装備が解禁されました。
さらに、2018年にはドアミラーの代わりにカメラとディスプレイを用いて後側方の状況を確認する電子ミラーが、トヨタ・レクサスESで実用化されました。通常のドアミラーに対して死角が減り、視認性が向上するなど、多くのメリットが期待できます。
安全運転のために不可欠なミラーですが、空力やデザイン、車室内空間確保の観点からは目障りな存在かもしれません。最近の運転支援技術や自動運転の大きな流れの中で、ミラーはデジタルデータに変換できるカメラやモニターに置き換わりつつあります。
カメラモニター
ミラーでも確認できない、車両周辺の死角を映像で見せてくれるのが、カメラ映像のモニターです。カーナビ画面に後方死角を映すリアモニターに始まり、最近は車両の全周囲を確認できるアラウンドモニターも一般的になりました。
車の運転で苦手な上位2つは、縦列駐車とバックです。モニターシステムは、これらの運転が苦手なドライバーにとっては、ほんとにありがたい救世主のようなシステムではないでしょうか。
ヘッドライト
ヘッドライトの光源としては、ハロゲン(電球)からHID(キセノン)、LED(発光ダイオード)へと進化し、さらに最近レーザーを使った光源も実用化されました。
LEDの普及率が急速に増えています。デザイン性や配光性に優れ、省電力なことから、燃費向上やEVの航続距離の延長が期待できるからです。
ヘッドライトのHIDやLEDの採用によって明るさが向上する一方で、対向車にとっては眩しさによって危険な状況になる場合があります。明るさを確保しながら眩しさを避ける方法として、さまざまな配光制御が採用されています。
最も一般的な配光制御は、ハイビームとロービームを切り替える自動ハイビーム制御です。さらに、対向車や歩行者などを眩しくさせないように配光制御するADB(配光可変ヘッドランプ)、ステアリングを切った方向に照射して視界を確保するAFS(配光可変型前照灯システム)、車両の上下動に応じて照射方向を水平に保つオートレベリングシステムなどがあります。
安全運転の大前提である視界の確保のためには、どんな環境下でも自車の周辺が良く見えること、遠くがよく見えることが基本です。そのためドライバーの目だけでなく、カメラやレーザー、各種センサーを駆使して死角を解消しています。
本章では、視界を確保するさまざまな技術について、詳細に解説します。
■ウインドウガラスとは
ウインドウガラスは、運転者の視界確保および衝突時の乗員の安全確保のため、保安基準によって種類や品質が規定されています。車用のガラスは、一般のガラスに対して割れにくく割れても飛散しにくい「安全ガラス」であることが規定されています。
車で使われる安全なウインドウガラスについて、解説していきます。
安全ガラス
ウインドウガラスは、安全ガラスが義務付けられており、合わせガラスや強化ガラス、部分強化ガラスなどがあります。一般的には、強化ガラスと合わせガラスが使われます。
合わせガラスは、2枚のガラスの間に柔らかで強靭な樹脂製中間膜を挟んだ3層構造です。衝撃を受けても、破片がほとんど飛び散らないのでフロントウインドウに使われます。側窓に使われることもありますが、強化ガラスより高価です。
強化ガラスは、板ガラスを熱処理して割れにくくしたガラスです。衝撃抵抗が同厚の普通ガラスに対して3~5倍大きく、割れにくい特徴があります。割れると細かな粒状になり、鋭利な部分が少ないため乗員への危害が少なく安全です。
しかし、衝撃を受けると無数のヒビが入り、視界が悪くなるのでフロントウインドウには使えません。
ウインドウガラスのさまざまな機能
ウインドウガラスに使われている代表的な機能ガラスは、以下の通りです。
・IR(赤外線)カットガラス
断熱ガラスとも呼ばれ、赤外線の透過量を減少させて夏場の車室内温度の上昇を防ぎます。特殊な中間膜を使用する合わせガラスタイプと、強化ガラスの表面にコーティングしたタイプがあります。
・UV(紫外線)カットガラス
紫外線の透過量を減少させ、乗員の日焼けを防いで内装の劣化も抑えます。
・遮音ガラス
車室内の静粛性を向上させるため、音の透過を抑える中間膜を使った合わせガラスです。
・プライバシーガラス
可視光線の透過率を調整したスモークガラスです。外から車内が見えにくくなりますが、同時に視認性も低下するので、フロントとフロントドア用への採用は禁止されています。
・トップシェードガラス
フロントウインドウの上部の限られた部分に、日よけのために濃色にしたガラスです。
・撥水ガラス
雨粒を走行風で飛ばして視界を確保します。ガラス表面をコーティングすることで、2~3年効果が持続します。
ウインドウの場所に適用されるガラス
・フロントウインドウ(ウインドシールド)
可視光透過率が70%以上の合わせガラスが義務付けられています。面積が大きく直接日射を受けることが多いため、UVカット仕様やIRカット仕様によって、暑さを抑えて冷房機能を発揮させます。また、エンジンフードから放射される騒音を、中間膜によって遮断する遮音ガラスも多用されます。
・サイドウインドウ
割れにくい強化ガラスが主流です。視認性を確保して車室内を快適に保つため、UVカット仕様やIRカット仕様、また撥水ガラスが使用されます。また車上荒らしなどの防犯のため、容易に割れないことも重要です。
・バックウインドウ
強化ガラスが主流ですが、合わせガラスが採用されている例もあります。アンテナ線をプリントしたアンテナ付きガラスや防塵、防霜のための伝導体プリントガラス、電熱線入りガラスを組み合わせて使う場合が多いです。
ウインドウガラスは、視界と安全を確保するだけでなく、多くの機能を持たせています。特にUVカットやIRカットガラスのような断熱性能を重視した仕様は、快適性だけでなく燃費にも大きな影響を与えます。
最近普及し始めたHUD(ヘッドアップディスプレイ)対応ガラスなど、さらに進化が進んでいます。
■いろいろなミラー
走行中のドライバーには、後側方など多くの死角があり、それをカバーするため多くのミラーが装備されています。通常は、車外に取り付けられたドアミラーと車室内のルームミラー、また車高の高い車にはアンダーミラーが付いています。
後側方の視界や死角をカバーするさまざまなミラーについて、解説していきます。
フェンダーミラーからドアミラーへ
車外に装備されるアウターミラーとしては、後側方を確認するドアミラーとフェンダーミラーがあります。現在、ほとんどの車はドアミラーですが、タクシーなど一部の車ではフェンダーミラーを採用しています。
1983年以前は、日本ではドアミラーは禁止されていました。フェンダーミラーの方が死角が少ないこと、目線の移動が少なく後側方を確認できるため安全であると考えられていました。当時、すでに海外では、空力やデザインに有利なドアミラーが採用されていたため、1983年、日本でもドアミラーの装備が解禁されました。
ドアミラーの鏡面には、広い範囲が見れるように凹面鏡が採用されています。電動で視界を調整するリモコンミラー、可倒式ドアミラーが一般です。
その他、ワイドビューミラーや雨でも見やすい親水ドアミラー、電熱線を埋め込んで鏡面を温めるドアミラーデフォッガーなどの視界改良仕様があります。
さらに最近ドアミラーに代えて、カメラとディスプレイを用いた電子ミラーが実用化されました。なお、電子ミラーについては別頁で解説します。
ルームミラーで使う防眩ミラー
ルームミラーは、天井の最前部に取り付けて後方および後続車を確認します。座席の位置や体格によって角度の調整を手動で行いますが、電動で調整する仕様も出現しています。
ほとんどのルームミラーは、防眩ミラーを採用しています。
夜間には、後続車のライトの光がルームミラーに反射して眩しくなることがあります。防眩ミラーでは、ミラーの角度を切り替えることによって、反射率を低下させ暗めに映して眩しい光を抑えます。
一般的なミラーは、ガラスの裏面にある反射面を利用していますが、ガラス表面でも反射は起こります。防眩ミラーでは、反射面とガラス面が並行ではなく一定の角度がつけられています。通常は反射面で見やすいように角度を調整し、眩しいときにはレバーで角度を切り替えてガラス表面の反射が目に届くようします。この表面反射は、通常の反射より反射率が低いので眩しくなくなります。
SUVやワンボックスカーで必須のアンダーミラー
SUVのようなボンネットの高い車では、左のフロントフェンダーやフロントドアの下部に大きな死角ができます。この死角を見えるようにするのが、サイドアンダーミラーです。目立たないように小さなミラーですが、凹面にすることで広範囲をカバーしています。
サイドアンダーミラーの代わりに、左側ドアミラーの下部に小さな2面鏡や、プリズムによる屈折を利用したプリズムアンダーミラーを備えた車もあります。
ワンボックスカーや車高の高い車では、後方下部に死角ができます。この死角をカバーするのが、リアアンダーミラーです。最近は、リアモニターを装備して、目視できるようにした車が増えており、ミラーを装備した車は減っています。
当然のように車に装備されているミラーですが、空力やデザイン、車室内空間の確保の観点からは目障りな存在かもしれません。また、最近の運転支援技術や自動運転の大きな流れの中で、ミラーはデジタルデータに変換できるカメラやモニターに置き換わりつつあります。
ミラーのない車が出現するのも、時間の問題かもしれません。
■電子ミラーとは
2018年10月、ドアミラーの代わりにカメラとディスプレイを用いて、後側方の状況を確認する電子ミラーが、トヨタ・レクサスESで実用化されました。通常のドアミラーに対して死角が減り、視認性が向上するなど多くのメリットが期待できます。
電子ミラーのメリットと課題、今後の展開について、解説していきます。
電子ミラーの解禁
2016年、EU/ECE(国際連合欧州経済委員会)でミラーに関する法規が一部改定されました。それに準じて道路運送車両の保安基準が改定され、日本で遂に電子ミラーが解禁されました。今のところ、規制対応しているのは日本と欧州だけですが、米国や中国も追従する予定です。
2018年10月に、トヨタ・レクサスESが量産車では世界で初めて電子ミラーを実用化しました。また2019年には、アウデイの電気自動車「e-tron」にも電子ミラーが採用されました。運転支援技術や自動運転技術との親和性が高いため、今後世界中で普及することが予想されます。
電子ミラーの構成
電子ミラーの機構自体は、最近普及しているバックモニターや、映像で後方を映すルームミラーと同様のシステムです。ドアミラーの代わりに、広角CMOSカメラによって後側方を撮影して、ECUで映像を画像処理して室内のディスプレイ(レクサスは5インチ液晶)に映し出します。ディスプレイは、ドライバーが見やすい室内のAピラー部付近に設置されます。
電子ミラーは長細い棒状で、先端部の窪んだ部分にカメラが配置されています。雨水が流れやすいように配慮され、カメラが曇らないようにヒーターも内蔵しています。
電子ミラーのメリット
ミラーを小さなカメラに代えることによって、空気抵抗が改善してデザインの自由度も向上します。さらに、以下のような機能的なメリットがあります。
・現行のドアミラーの視野範囲(20度程度)に対して、視野範囲が2倍程度拡大
・カメラユニットがコンパクトになるため、ドアミラーによる死角の低減、また風切り音の低減による静粛性の向上
・ディスプレイが室内にあるので、左右の目線の移動量が小さく安全性が改善
・高速走行中は車両後方にフォーカス、交差点などの左右折時および後退時には自動で画像をズームして視認性を向上
・画像が明るいので、夜間の視認性が向上
・雨天時、サイドウインドウへの水滴による視認性不良の回避
電子ミラーによる視野範囲の拡大や死角の減少は、交通事故の減少や自動運転技術の向上に大きく貢献します。
電子ミラーの懸念点
電子ミラーには、まだ十分な実績はありません。以下のような懸念事項があります。
・ドアミラーと異なる距離感や視界に対するドライバーの違和感
・ディスプレイを設置する場所の確保(レクサスESはAピラー下部に設置しているが、ディスプレイの後付け感が強く不評)
・激しい雨や豪雪時でのカメラの視界の確保
・カメラが壊れる、システム異常があった場合の応急的な対応
・システムコストが、現行ドアミラーの約10倍と高価
コスト低減の余地はあるものの、ドアミラーと同等になることはないので、単なる映像機能だけでなく付加機能が必要です。
付加機能として期待されているのは、運転支援技術や自動運転技術との融合です。
例えば、周辺車両や歩行者、白線の検知による衝突回避や車線維持機能との連携、また、360度サラウンドビューカメラと組み合わせて自動運転のための周辺状況の認識などです。
まだコストが高く、採用は高級車に限定されます。
単なるドアミラーの代替でなく、運転支援技術や自動運転技術のセンサーとしての役割も担えるので、将来的には大きく普及することが予想されます。
■超音波センサーとは
装備するミラーやカメラを増やせば、車両周辺の死角をある程度なくすことはできますが、現実的ではありません。死角の情報を比較的容易に補う手法のひとつに、超音波センサーがあります。
超音波を利用して障害物との距離を感知する超音波センサー(ソナー)について、解説していきます。
超音波センサーの原理
超音波センサーは、物体に超音波を発射して、反射して戻ってくるまでの時間から距離を測定する装置で、ソナーとも呼ばれます。超音波は、犬やこうもりには聞こえますが、人間の耳には聞こえない20kHz以上の周波数の音波です。
超音波センサーは、圧電効果を利用した圧電素子で構成されます。
圧電素子は、電圧を印加すると超音波を発生し、超音波を受けると起電力を発生する特性があります。この原理を利用して、電気信号を超音波に変換して対象物に発射し、対象物によって反射してきた反射波を電気信号に戻して、対象物の有無や距離を測定します。
非接触かつ小型で対象物の材質を選ばないので、バンパーなどに埋め込んで障害物との隙間を検出するセンサーとして活用されています。一般的な使い方は、車両の後方の隙間を測定するバックソナーや、四隅との間隔を測定するコーナーソナーなどで、駐車時に障害物の距離が一定以下になると警告音で知らせます。
超音波センサーの応用例として、自動駐車やAT誤発進制御について以下で紹介します。
自動駐車での超音波センサーの役目
自動駐車のために必要なセンサーは、一般的には超音波センサーとカメラです。
駐車のスペースを検知するために、車両の前後と四隅のバンパーに超音波センサーを埋め込みます。超音波センサーによって、夜間や悪天候でも障害物を検知でき、距離が認識できます。画像として認識できるカメラは、白線や駐車枠を認識し、移動物体を検知するために必要です。
2017年発売の日産・リーフの自動駐車システム「プロパイロット・パーキング」では、車両周辺に12個の超音波センサーと4つの高性能カメラによって、周辺状況を認識しながら自動駐車を実現しています。
起動スイッチを押せば、駐車可能なスペースを検出して、ステアリングとアクセル、ブレーキ、シフトを自動制御して、並列・縦列駐車、前向き駐車、後向き駐車をしてくれます。
AT誤発進抑制制御での超音波センサーの役目
すべてのメーカーは、アクセルとブレーキの踏み間違い事故防止のため、AT誤発進抑制制御を採用しています。誤発進抑制制御のためには、車両の前方または後方の障害物を正確に認識する必要があります。障害物の検知手法はメーカーによって異なりますが、超音波センサーか赤外線レーザーが多用されています。
AT誤発進抑制制御は、一般的には以下のように作動します。
駐車操作など停止、または車速約10km/h以下の低速走行時、進行方向に建物や壁などの障害物を検出した場合に、アクセルを一定以上強く踏み込んだときに、制御が作動します。警報とともに自動的にエンジンの出力を抑え、急発進や急加速を抑制します。さらに障害物に接近すると、自動ブレーキが作動します。
近距離の障害物の検出法としては、超音波センサーの他にも赤外線レーザーやカメラがあります。それぞれ一長一短ありますが、超音波センサーはもっとも小型安価で使い易いですが、検出距離が2m程度までの近距離しか対応できないという使用制限があります。
超音波センサーは可視化する技術ではありませんが、どんな隙間でも検出できるという利点があります。自動運転では必要不可欠なセンサーですが、自動運転車でなくてもすでに10個以上装着している車は珍しくありません。
■カメラモニターとは
ミラーでも確認できない車両周辺の死角を映像で見せてくれるのが、カメラ映像のモニターです。カーナビ画面に後方死角を映すリアモニターに始まり、最近は車両の全周囲を確認できるアラウンドモニターも一般的になりました。
急速に進化を続けるカメラによるモニターシステムについて、解説していきます。
いろいろなカメラモニター
車の運転で苦手な上位2つは、縦列駐車とバックです。モニターシステムは、これらの運転が苦手なドライバーにとっては、ほんとに有難い救世主のようなシステムではないでしょうか。
リアモニターに始まったカメラ映像のモニターは、後方だけでなくサイドモニターやフロントモニター、さらに全周囲の状況が確認できるアラウンドモニターへと進化しました。
表示についても、カーナビ兼用のモニター表示だけでなく、ルームミラーに映し出す方法も増えています。
リアモニター
現在普及しているリアモニターは、リアビューモニターやバックビューモニターとも呼ばれます。車庫入れや縦列駐車時にリアにシフトチェンジすると、自動的にリアモニターが表示されます。一般には、車幅や距離の目安表示や超音波センサーと連動して警告音を発する機能も付いています。
また、駐車場からバックで出るときに、後方を通り過ぎる車を確認するために視野を広くしたワイドリアモニターの採用例もあります。さらに、夜間でも映像感度を上げれば、見やすい映像にできるなどの利点があります。
サイドモニターとフロントモニター
SUVのようなボンネットの高い車では、左のフロントフェンダーやフロントドアの下部に大きな死角ができます。この死角を目視するために、サイドアンダーミラーを装備している車がありますが、ミラーの代わりにカメラを使うのがサイドモニターです。
モニター用のカメラは、左ドアミラーの下部に装備して左側面全体をモニターします。
路地から左右の見通しがきかない幹線道路に出るときは、非常に危険です。このような時に左右の死角を補うのが、フロント先端部に装備した視角180度のワイドフロントモニターです。
アラウンドモニター
リアモニターやサイドモニターなどを進化統合させたのが、アラウンドモニターです。アラウンドビューモニターやパノラミックビューモニターなど、各社で呼び方は異なります。
一般的には、車両前後の中央と左右ドアミラー下の計4ヵ所にカメラが装備されます。それぞれの映像の切り替えや同時映像に加えて、合成処理して車を真上から見た映像も映し出せます。
最新のアラウンドモニターの中には、車の周囲で動くものがあるとディスプレイ表示と警告音を発する機能があります。日産のアラウンドビューモニター「移動物検知機能」、トヨタのパノラミックビューモニター「左右確認サポート機能」がその代表例です。
またトヨタのパノラミックビューモニターの中には、真上からの映像に加えて、鳥が車の上空で一周するような「ムービングビュー」を表示できる機能もあります。さらに、ドライバー目線でボディやシートを透視したような映像を表示する「シースルービュー機能」もあり、より分かりやすいモニターへと進化しています。
ほんの十数年前までは、車庫入れの時には後ろを振り返って、あるいはドアを開けて身を乗り出して後ろを確認しながら駐車していました。
今は体を動かすことなく、モニターで確認するだけで誰でも簡単に駐車できるようになりました。近いうちに自動駐車が一般的な技術になれば、車庫入れや駐車の煩わしさから解放されることになります。
■ヘッドライトの進化とは
ヘッドライトの光源としては、ハロゲンライト(電球)からHID(キセノン)ライト、LED(発光ダイオード)ライトへと進化し、さらに最近、レーザーを使った光源も実用化されました。ヘッドライトには、遠くまで明るく照射でき、一方で電力消費が少なく寿命が長いことが求められます。
それぞれの光源の特徴とメリット、デメリットについて、解説していきます。
進化するヘッドライト
ヘッドライトの主流は、今から2000年代以前は電球を使うハロゲンライトでした。現在でも安価なので、廉価な車を中心に多用されています。
一方で、1990年代から約2倍の明るさと20%以上広い照射角を持つHIDライトが出現し、明るいプレミアムなヘッドライトとして普及し始めました。
高級車を中心にLEDライトが登場して以来、現在では一般車にも急速に普及しています。さらに、次世代のヘッドライトの本命とされるレーザーライトが、遂に量産車に搭載されました。
以下に、それぞれの特徴について紹介します。
ハロゲン(電球)ライト
HIDが普及する2000年頃まで、ヘッドライトと言えばハロゲンライトでした。不活性ガスとハロゲンガス(ヨウ素・臭素など)を封入した電球のフィラメントに電流を流し、発光する仕組みです。
明るさではHIDやLEDに劣り、発熱量と消費電力が多く、寿命が短いのが欠点です。一方で、雨や霧の時には視認性が良く、発熱が大きいので、ヘッドライト表面の凍結した雪を解かすので、雪に強い特徴があります。安価なので、数多くの廉価車で今でも採用されています。
HID(キセノン)ライト
アーク放電を利用したライトで、最大のメリットは明るいこと、ハロゲンライトに対して約2倍の明るさと20%以上の広い照射角を持ちます。消費電力が少ない、フィラメントがないので球切れの心配がない、光の色が変更しやすくカラーバリエーションが多いこともメリットです。
また寿命は、ハロゲンライトの3年に対して5年と長いです。
一方で明るい分コストは高く、点灯や放電のための制御ユニットが必要です。
最大の弱点は、点灯してから最大光量を発するまでに5~10秒かかることで、使用する場合はその遅れに対する配慮が必要です。
LEDライト
LEDは、電気を流すと発光する半導体の発光ダイオードです。
2007年レクサスLS600hによって世界で初めて採用され、一般車での採用が進んでいます。明るさはHIDよりやや劣りますが、最大の特徴は15年という圧倒的な長寿命で、消費電力はハロゲンライトの1/3程度と少ないです。
さらに、小型化によるデザイン性の向上や、配光の制御性の良さも大きなメリットです。
弱点は、発熱量が少ないので表面の雪を解かすことができないこと、価格がまだHIDよりやや高いことですが、普及の拡大とともに低コスト化が進んでいます。
LEDライトの普及率は、2020年以降に10%から30%を超えるまで伸びており、今後は主流になると思われます。その理由は、省電力化による燃費の向上や、EVの航続距離の延長、さらに複数の小さなLEDを組み合わせることによる配光調整の自由度の高さです。
レーザーライト
2015年、BMWとアウディはオプション設定でレーザーライトを実用化しました。照射範囲は、LEDの300mに対して約2倍の600mと格段に広く、デザイン自由度もさらに高められます。
半導体レーザーは高価なので、普及にはまだ時間がかかりそうですが、将来に向けた次世代光源の本命と位置付けられています。
LEDライトの普及率が急速に伸びています。デザイン性や配光性に優れ、省電力で燃費向上やEVの航続距離の延長が期待できるからです。
さらに、運転支援技術や自動運転技術との親和性が高いことも、LEDライト普及の後押しをしています。
■配光制御とは
ヘッドライトのHIDやLEDの採用によって明るさが向上する一方で、対向車にとっては眩しさによって危険な状況になる場合があります。明るさを確保しながら眩しさを避ける方法として、照射エリアや照射量を最適化する配光制御が採用されています。
さまざまな状況で夜間の適正な視界を実現する自動配光制御について、解説していきます。
いろいろな配光制御
ヘッドライトの役割は、単に遠くまで明るく照らすだけでなく、対向車や歩行者を眩しさによって幻惑しないことが重要です。夜間の幻惑による事故を防ぐため、さまざまなヘッドライトの配光制御が開発されています。
もっとも一般的な配光制御は、ハイビームとロービームを切り替える自動ハイビーム制御です。さらに、対向車や歩行者などを眩しくさせないように配光制御するADB(Adaptive Driving Beam)、ステアリングを切った方向に照射して視界を確保するAFS(Adaptive Front-Lighting System)、車両の上下動に応じて照射方向を水平に保つオートレベリングシステムなどがあります。
以下に、それぞれの制御内容について紹介します。
自動ハイビーム制御
道路運送車両法の保安基準では、通常はハイビームで走行して、対向車とすれ違うときや前方に先行車がいるときにはロービームに切り替えること、またロービームの照射距離は40m、ハイビームの照射距離は100mと定められています。
自動ハイビーム制御では、前方車両(先行車と対向車)をカメラなどで検知して、ハイビームとロービームを自動で切り替えます。切り替える手法としては、複数のLEDの発光箇所を切り替えるブロック制御方式と、遮蔽板で切り替える遮蔽板方式があります。
ADB(配光可変ヘッドランプ)
自動ハイビームの進化版として、ADBがあります。ハイビームで走行中に対向車や先行車の位置をカメラなどで検知すると、前方車両のエリアのみ遮光して、他の領域はハイビームのままで照射します。前方車両のドライバーに眩しさを与えることなく、ハイビームで遠方の視界が確保できます。
同様のシステムとして、AHS(アダプティブハイビームシステム)、ALH(アダプティブLEDヘッドライト)、マトリクスLEDヘッドライトなどがあります。
切り替え手法としては、複数のLEDの発光箇所を切り替えるタイプと、可変シェードによって部分的に遮光する2つのタイプがあります。
AFS(配光可変型前照灯システム)
AFSは、コーナリング走行中にステアリング操舵の方向に合わせて、光軸を移動させて進行方向前面を照射するシステムです。いち早く、死角の車両や人などの障害物を発見して、安全に回避行動を取ることができます。
具体的な手法は、ロービームの光源をステアリング舵角、車速に応じて自動で左右に動かします。また、コーナリング時には左右に内輪差があることを考慮して、左右のライトを異なる角度で動かして視認性を上げます。
オートレベリングシステム
ヘッドライトの水平方向の照射範囲は、車の傾きや高さで変わってきます。
オートレベリングシステムは、車両の前後傾斜を検出してヘッドライトの上下方向の照射範囲を適正に調整します。
2006年以降に生産された車両で、HIDとLEDヘッドライトが標準装備されたすべての乗用車には、オートレベリング機能を装備することが義務付けられています。
ハイビームだと視界は確保できますが、対向車を幻惑するので危ない。ロービームだと照射距離が短いため歩行者や障害物の発見が遅れて、やはり危険です。
これを解決するのが、自動で配光制御する技術で、夜間の事故低減に大きく貢献することが期待できます。
■フォグランプとは
フォグランプは、文字通り濃霧や激しい降雨、降雪で視界が悪いときに点灯させて、車両前部の視界を確保し、同時に対向車へ自車の存在を知らせる役割を担っています。ヘッドライトと異なり、装着の義務はなく、通常はオプション(中には標準)設定されていることが多いです。
フォグランプの役割や機能について、解説していきます。
フォグランプの役割
保安基準では、「ヘッドライトは必ず備えなければならない」、「フォグランプは備えることができる」と規定されています。
濃霧や激しい降雨、降雪の際には、ヘッドライトの光が空気中の水滴で乱反射して遠くに届かず、視界が遮られます。フォグランプは、このような状況下で視界を確保し、同時に対向車へ自車の存在を認識させる役目を担っています。また、広い照射角で路肩を見えやすくするので、暗い夜道などでも効果を発揮します。
最近は、ヘッドライトがハロゲンからHIDやLEDへと進化して、十分な明るさと視界を確保できるようになりました。したがって、フォグランプはあくまでヘッドライトをサポートする役目であり、フォグランプ単体としての重要性はやや薄らいでいます。
フォグランプの搭載位置と光色
搭載位置と光色については、保安基準で規定されています。
フォグランプの個数は2個以下、左右は車両最外側から400mm以内の位置に対称に、最上部が800mm以下、最下部が地上250mm以上でヘッドライトより下であることが規定されています。
前方の視界を確保するヘッドライトとは異なり、比較的近距離前方の広い範囲の視認性を確保するため、照射角を広くしたレンズを使っています。ヘッドライトの照射角が70度程度に対して、フォグランプは100度以上です。
高さ方向については、前方の霧や雨の水滴に直接照射して眩しくならないように、ヘッドライトより狭く低く設定しています。
フォグランプの色は、白色または淡黄色と規定されています。一方、ヘッドライトの色は2018年の保安基準改正によって、それ以前の白色または淡黄色から白色のみに改定されました。
黄色いフォグランプが普及した理由
波長の長い赤色光は水滴を透過する霧中透過性が高く、波長の短い青色光は水滴で散乱して遠くへ飛ばない性質があります。赤色光は法規上使えないので、その次に波長の長い黄色光がフォグランプの主流として使われていました。
ただし黄色光は、距離感がつかみにくい、色の違いを区別し難いという理由から、最近は蒼白い白色系の光が主流になっています。
リアフォグランプ
視界の悪い霧中で後続車に自車の存在を知らせるのが、リアフォグランプの役目です。欧州に比べると日本の採用例は少ないですが、点灯することによって後突回避などの安全性は高まります。
ただし、視界が良い状況でむやみに点灯すると、後続車のドライバーは眩しく、ストップランプと混同する可能性もあり、事故の原因になるので注意が必要です。
霧の発生や降雪の多い地域では、安全運転を確保するためにフォグランプは必要な装備です。
一方で、対向車のハイビームの次にドライバーがストレスを感じるのは、フォグランプの点灯と言われています。ファッショナブルな意図で不必要に点灯しているドライバーが多いようですが、対向車や後続車に迷惑をかけて非常に危険なので止めるべきです。
(Mr.ソラン)
クリッカー自動車用語辞典 https://clicccar.com/glossary/