車のサスペンションとは? 役割・種類・構造を解説【自動車用語辞典】

■車のサスペンションとは

サスペンションは、タイヤとボディの間に位置して車を支える機構です。乗り心地と操縦性の両立が求められ、車のサイズや性格などによって、さまざまなタイプの機構が採用されています。

多種多様なサスペンション機構とその特徴、関連する構成部品を解説していきます。

サスペンションの役割

サスペンションには、ボディを支えるという基本的な役割のほか、以下の3つの役割もあります。

・タイヤの動きをある程度自由にして、路面からの衝撃を吸収して乗り心地を向上させます。
・サスペンションをストロークさせることによって、タイヤの路面への追従性(接地性)を高める。
・旋回時には、車体をロールさせることによってタイヤのグリップ力を高める。

高速性能や乗り心地、操縦性などをどのレベルまで求めるか、すなわち車のコンセプトや性格など目的によって、相応しいサスペンションが選択されます。

サスペンションの仕組み

主要な構成部品としては、車軸の位置決めを行うサスペンションアーム、車重を支えて衝撃を吸収するコイルスプリング、コイルスプリングで吸収した振動を減衰させるショックアブソーバーなどです。

サスペンションの基本的な形式としては、車軸懸架(リジットアクスル)式と独立懸架(インディペンデント)式に分けられます。

車軸懸架式は、両輪を1本の車軸で連結した形式です。左右が連結しているので、片方のタイヤが突起などで持ち上がると車体が傾きやすくなります。シンプルで頑強な構造なので、トラックやバスなどの大型車のほか、悪路走破性が要求される4WDに採用されています。

一方独立懸架式は、両輪が独立している形式です。片輪が突起に乗り上げても、独立して動くので車体の傾きは抑えられます。車体姿勢が安定しやすいので、多くの乗用車で採用されています。

サスペンションの形式
サスペンションの形式

サスペンションの種類

車に採用される主要なサスペンションとしては、ストラット方式、ダブルウィッシュボーン方式、マルチリンク方式、トーションビーム方式などがあります。

・ストラット方式
コイルスプリングとショックアブソーバーを同軸上に置き、垂直に近い形で車輪を指示します。1本のロアアームで車軸の位置を固定します。シンプルな構造なので、小型車を中心にフロントサスペンションの主流となっています。

・ダブルウィッシュボーン方式
アッパーアームとロアアームの2本の平行リンクで構成されています。剛性を高めやすく、乗り心地と操縦安定性両立しやすく、マルチリンクとともに高級車のサスペンションの主流になっています。

・マルチリンク方式
リンクあるいはアームが3本以上で車軸を支持して、上下のストロークに対して安定した動きをします。複雑で重量やコストが上がりますが、ダブルウィッシュボーン方式の発展型として機能が高いので、中型以上の車の採用が増えています。

・トーションビーム方式
左右のトレーリングアームをビーム(梁)で連結し、ビームのねじり剛性により挙動が変わるため半独立式ともいわれます。構造が簡単でコストも抑えられるため、FF車のリアサスペンションに使われています。

サスペンションの種類
サスペンションの種類

一般の乗用車への要求は、運転を楽しむ「ファントウドライブ」よりも、安全で高いレベルの乗り心地を実現するほうが優先されています。今後も、乗り心地と操縦安定性の両立を目指すサスペンションの高度化は、重要なテーマのひとつと考えられます。

本章では、サスペンション機構の基本から多様なサスペンション方式について、詳細に解説しています。

■サスペンション特性と車体挙動

走行中の車は、サスペンションのスプリングを介して4本のタイヤでボディを支えています。旋回時や加速・制動時には、サスペンションの伸縮やタイヤの特性によって、車体にはさまざまな方向の力が働き、揺れが発生します。

サスペンションの特性と車体の挙動について、解説していきます。

車の挙動

旋回時や加速・制動時の車は、車の前後(X)軸方向と車の左右(Y)軸方向、車の上下(Z)軸方向に力が加わり、揺さぶられます。

車にかかる重力や慣性力によって、その方向は決まり、サスペンションの仕様やホイールアライメントによってその大きさが決まります。

例えば、乗り心地を良くするために柔らかいスプリングを設定すると、旋回中のローリングや加減速時のピッチングが大きくなり、操縦安定性が悪化します。逆にスプリングを固くすると、乗り心地が悪くなります。

車体姿勢
車体姿勢

ローリング
車の前後(X)軸を中心に回転する動きです。旋回時に、遠心力によって外側のタイヤが浮き上がり、内側のタイヤが沈み込むような動き、また路面の凹凸によって同じような動きが発生します。

旋回中の遠心力による傾きに耐える力をロール剛性と呼びます。ロール剛性を高くする(車体の傾きを抑える)ためには、スプリングやショックアブソーバーを固くする、車体重心を低くするなどの方法がとられます。

ただし、乗り心地とタイヤのグリップ力を確保するためには、ある程度のローリングも必要で、バランスが重要です。

ピッチング
フロントとリアのスプリングの振動の位相が180度ずれた場合に、車の左右(Y)軸を中心に回転するような動きです。例えば、ブレーキを踏み込むと、車体が前のめりになり、ブレーキを離すと反動でリアが沈み込み、ちょうど前後方向にシーソーのように揺られます。

ローリングと同様、サスペンションを固くするとピッチングは抑えられますが、乗り心地は悪化します。

ヨーイング
車の重心を通る上下(Z)軸を中心に、コマのように回転する動きです。旋回時の操縦安定性と密接な関係があり、積極的にヨーイングを制御する必要があります。

滑りやすい路面では、ヨーイングが発生しやすく、ヨーコントロール制御や4WS制御を採用している例があります。

バウンシング
4輪のサスペンションのスプリングが同位相で振動することによって、車体が上下振動する動きです。大きく波打っている路面を高速で走行するとき、突起を乗り越えた後などに発生しやすいです。

車体をバネで支えている以上避けられない挙動ですが、ショックアブソーバーの減衰力を強めることである程度は抑えることができます。ただし、路面からの突き上げ感が目立ちやすくなるので、チューニングが必要です。

スクワット
急発進や急加速の時に、急激な駆動力によってリアのスプリングが沈み込み、フロントが浮き上がるような動きです。

ノーズダイブ
スクワットとは逆で、急ブレーキをかけた時に慣性力によってフロントが沈み込み、リアが浮き上がる動きです。

車は、走行中に条件によってさまざまな挙動を示します。これらは、車の重量や重心の高さ、重量の前後配分、ボディの構造や剛性、スプリングなどのサスペンションの仕様や設定によって、大きく変わってきます。

車の性格に合わせて、操縦安定性と乗り心地をバランスさせるチューニングが求められます。

■コイルスプリングとショックアブソーバーとは

サスペンションは、乗り心地と操縦安定性の両立を図るため、さまざまな機能の部品で構成されています。その中でもコイルスプリングとショックアブソーバーは、サスペンションの核となる重要な部品です。

コイルスプリングとショックアブソーバーに注目して、その機構と効果について解説していきます。

サスペンションのスプリング機能

サスペンションには、路面からの衝撃を吸収して乗り心地を向上させる機能と、サスペンションをストロークさせてタイヤの路面への追従性(接地性)を高める機能があります。これらの機能によって、乗り心地と操縦安定性を両立させます。

いろいろな種類のサスペンションがあり、さまざまな機能の部品で構成されています。その中で、重要な役目を担っているのは、衝撃を吸収するスプリング機能です。

サスペンションのスプリングとしては、コイルスプリングやトーションバー(ねじり棒)、リーフスプリング(板バネ)、スタビライザーなどがあります。

トーションバーは、棒の捻じれの応力をバネとして利用したものです。FF車のリアサスペンションに使われ、左右のロールを抑えるスタビライザーにも利用されます。また、板を重ねたリーフスプリングは、強度はありますが重くなるのでトラックやオフロード車で使われます。

サスペンションのスプリング機能
サスペンションのスプリング機能

コイルスプリングの仕組み

車用として主流は、コイルスプリングです。バネ鋼線をコイル状に巻いたスプリングで、バネの太さや長さ、巻き数でバネ定数や応力などの基本的なダンピング特性が決まり、軽量コンパクトで使いやすい利点があります。

コイルの間隔が同じ等ピッチコイル、間隔を変えた不等ピッチコイル、コイル径を変えた非線形ピッチコイルがあります。等ピッチは全体でショックを吸収しますが、不等ピッチはピッチの狭いところでショックを柔らかく吸収し、広いところで強いショックを受け止めます。非線形は、巻き径の大きい方が柔らかくしなやかに反応します。

ショックアブソーバー

コイルスプリングは衝撃を吸収しますが、振動が収まるまでに時間を要します。ショックアブソーバーは、その振動を素早く抑える減衰の役目を担い、コイルスプリングと組み合わせて使います。

ショックアブソーバーの標準的な構造は、筒状で中に粘度の高いオイルが封入されています。穴の開いたピストンが内蔵され、ピストンが上下するときにこの穴をオイルが通過するときに抵抗となり、減衰力が発生します。封入しているオイルにある程度の圧力をかけるため、窒素ガスを封入したガス封入式もあります。

例えば、片輪が突起に乗り上げると、スプリングが吸収しショックアブソーバーとともに縮みます。突起を乗り越えると、スプリングは一旦伸びてその反動で再び縮もうとします。このとき、ショックアブソーバーが突っ張り、サスペンションの振動を収束させます。

ショックアブソーバー
ショックアブソーバー

サスペンション設計の中でも、スプリングの柔らかさとショックアブソーバーの減衰力をどうするかは非常に重要です。スプリングを柔らくすると乗り心地は良くなりますが、旋回時はロールが大きくなってしまいます。

両者のバランスとともにサスペンションリンクの構成などで、採用する車の目的に合わせて最適化する必要があります。

■フロント用サスペンションとは

フロントに配置されるサスペンションとしては、コストや重量面ではコンパクトなストラット方式が有利です。一方、性能を重視するならダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式が優れています。

フロント用サスペンションとして代表的な3つの方式の特徴とメリット・デメリットについて、解説していきます。

フロント用サスペンション

フロント用のサスペンションには、衝撃吸収や路面追従性だけでなく、操舵という役割もあります。また、一般にエンジンとトランスミッションはフロントに搭載されるので、スペース的な制約もあります。

コストや重量面では、コンパクトなストラット方式が有利です。一方、乗り心地や操縦安定性など性能面からみれば、ダブルウィッシュボーン方式、その進化型のマルチリンク方式が優れています。

以上のことから、小型車のサスペンションとしてはストラット方式が主流であり、車のサイズや狙いによっては、特に高級車ではダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式が採用されています。

フロント用サスペンション
フロント用サスペンション

ストラット方式

コイルスプリングとショックアブソーバーを同軸上に配置して、それ自体を懸架装置として車輪が取り付けられた構造です。上部をボディに下部をホイールのナックルに固定して、1本のロアアームで支えます。

1本のロアアームで車軸の位置を固定するので、重量車や高出力車には向きません。

シンプルな構造で軽量なので、市街地走行中心の小型車では十分な乗り心地が得られます。低コストのメリットもあり、乗用車特に小型車を中心にフロントサスペンションの主流となっています。

また重量がフロントに集中するFF車では、前後輪のバランスが取りやすいというメリットも大きいです。

ダブルウィッシュボーン方式

アームの形が鳥の胸骨(ウィッシュボーン)に似ていることから、ネーミングされています。上側のアッパーアームと下側のロアアームの2本で構成されています。2本のアームがあるため、前後剛性や横剛性も強く、乗り心地を高めやすいです。

ジオメトリーの設定自由度が高いですが、その分構造が複雑になりコストも高くなります。

サスペンションの剛性を高めやすく、衝撃吸収と操縦安定性を両立しやすいことから、後述のマルチリンクとともに高級車のサスペンションの主流となっています。

マルチリンク方式

リンクあるいはアームが合計3本以上で構成されます。上下のストロークに対するタイヤの向きの変化を理想的にしやすく、乗り心地と高速安定性、運動性能などを高次元にバランスさせることができます。

機能が高い分、複雑で部品が増えることになり、重量とコスト面では不利です。

メルセデスベンツ・Sクラスやアウディが、ダブルウィッシュボーンを進化させたマルチリンク方式を採用するなど、各メーカーはそれぞれいろいろなタイプのマルチリンクを高級車で採用しています。フロントにもリアにも使われています。

フロント用として普及しているストラット方式では、軽量かつ低コストという大きなメリットがあります。一方でステアリングの安定感と乗り心地、操縦安定性をバランスさせるためには、ある程度妥協しなければいけません。

妥協しづらい中・高級車では、相反する特性を両立させやすいダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式の採用例が増えています。

■リア用サスペンションとは

リア用のサスペンションは、フロント用のように操舵に関わる役目がない分、シンプルな機構が採用されていました。ただ最近は、多様化する車への要求に応えるため、リア用のサスペンションも複雑化しています。

リア用サスペンションとして代表的な3つの方式の特徴とメリット・デメリットについて、解説していきます。

リア用サスペンション

リア用のサスペンションは、かつてはフロント用のように操舵に関わる役目がない、またエンジンとトランスミッション搭載の制約がないため、比較的シンプルな機構が採用されていました。

最近は、多様化する車への要求に応えるため、リア用のサスペンションも複雑化しています。

リア用のサスペンションは、FF車とFR車で異なります。FF車では、比較的簡単な構造のトーションビーム方式が採用され、FR車ではダブルウィッシュボーン方式やマルチリンク方式が採用されるケースが増えています。

リア用サスペンション
リア用サスペンション

トーションビーム方式

左右のトレーリングアームで車軸を固定して、コイルスプリングとショックアブソーバーで上下振動を吸収します。さらに、左右のトレーリングアームをトーションビーム(梁)で連結して、左右の捻じれを許容します。車軸懸架式ですが、左右の動きがある程度連動するため、半独立的ともいわれます。

構造がシンプルで軽量、低コストなので、小型FF車のリア用サスペンションとしては主流です。左右を連結するトーションビームがないタイプは、トレーリングアーム方式と呼ばれます。

ダブルウィッシュボーン方式

アームの形が鳥の胸骨(ウィッシュボーン)に似ていることから、ネーミングされています。上側のアッパーアームと下側のロアアームの2本で構成されています。2本のアームがあるため、前後剛性や横剛性も強く、乗り心地を高めやすいです。

ジオメトリーの設定自由度が高いですが、その分構造が複雑になりコストも高くなります。

サスペンションの剛性を高めやすく、衝撃吸収と操縦安定性を両立しやすいことから、後述のマルチリンクとともに高級車のサスペンションの主流となっています。

マルチリンク方式

リンクあるいはアームが合計3本以上で構成されます。上下のストロークに対するタイヤの向きの変化を理想的にしやすく、乗り心地と高速安定性、運動性能などを高次元にバランスさせることができます。

機能が高い分、複雑で部品が増えることになり、重量とコスト面では不利です。

メルセデス・ベンツやアウディが、ダブルウィッシュボーンを進化させたマルチリンク方式を採用するなど、各メーカーはそれぞれいろいろなタイプのマルチリンクを高級車で採用しています。フロントにもリアにも使われています。

リア用サスペンションとしては、構造が簡単でスペースを取らないトーションビーム方式が主流です。しかし、乗り心地と操縦安定性のレベルアップを図るため、コストはかかりますが、4代目プリウス~のようにダブルウィッシュボーン方式に変更する車が見受けられます。

またマルチリンク方式は、さらに高いレベルの要求に応えるために採用されています。

■アクティブサスペンションとは

走行状況や路面状況に応じて、ショックアブソーバーの減衰力を自動的に制御することで、乗り心地と操縦安定性の両立を図る方法として、アクティブサスペンションがあります。

コストがかかるため、採用は一部の高級車に限られますが、アクティブサスペンションの仕組みと効果について、解説していきます。

アクティブサスペンションの役割

一般的なサスペンションは、ショックアブソーバーによる減衰力は一定です。

ショックアブソーバーの減衰力が弱い場合、コイルスプリングの伸縮はゆっくり収まり、乗り心地は良好ですが、ロールが大きくタイヤの追従性が損なわれます。一方減衰力が強いと、コイルスプリングの伸縮は素早く収まる、車体姿勢は安定しますが、乗り心地は悪化します。

一般に乗り心地と操縦安定性は相反する関係にあり、また運転条件によって最適な減衰力は異なります。この乗り心地と操縦安定性を両立するために、アクティブサスペンションが開発されました。

アクティブサスペンションでは、車速や車体姿勢、操舵角、路面状況などを検出して、状況に応じてショックアブソーバーの減衰力を自動的に最適化します。

ショックアブソーバー
ショックアブソーバー
ショックアブソーバーの効果
ショックアブソーバーの効果

アクティブサスペンションの歴史

アクティブサスペンションを日本で最初に採用したのは、1983年の初代トヨタ・ソアラのTEMS(Toyota Electric Modulated Suspension)です。

上下G(加速度)センサーや舵角センサー、車速センサーなどで走行状況を検出して、減衰力を3段階に可変化するシステムです。減衰力の切り替えは、ロータリーバルブの回転によって、ショックアブソーバーのオイル通路のオリフィスを切り替えることで実現しました。

その後、油圧制御による油圧式アクティブサスペンションや、バネの代わりに空気圧を使う空気バネ式サスペンションなども実用化され、センシングと制御を高精度させたAVS(Adaptive Variable Suspension System)へと進化しました。

最新のものでは、ピエゾアクチェーターを用いて、よりきめ細かい高精度制御ができるAVSを実用化しています。

トヨタだけでなく、1980~1990年代には多くのメーカーから油圧式や空気バネ式など、様々なタイプのアクティブサスペンションが実用化されました。

油圧式アクティブサスペンション

油圧式アクティブサスペンションは、ショックアブソーバーの代わりに油圧アクチュエーターによって、走行状況に応じて最適な車高や減衰特性を実現します。アクチュエーターは、パワーシリンダーと内蔵のピストンロッドで構成され、油圧によってサスペンションのストロークを制御します。

以下のような作動原理によって、車体を安定させます。

車が窪みに入った場合、タイヤ下降分に相当した油圧をパワーシリンダーに供給し、ピストンロッドを持ち上げて車高を一定に保ちます。逆に突起部に乗り上げた場合は、タイヤ上昇分に相当するオイルを排出してピストンロッドを下げて車高を保ちます。

油圧式アクティブサスペンション
油圧式アクティブサスペンション

空気バネ式アクティブサスペンション(エアサス)では、コイルスプリングの代わりにエアチャンバーを用います。エアチャンバーに供給する高圧空気を制御することによって、減衰力を最適化します。バスでは積極的に採用されていますが、乗用車では構造が複雑なため一部の高級車の採用にとどまっています。

アクティブサスペンションは、コストが標準的なサスペンションの2~3倍はかかるため、さらに油圧方式や空気バネ式では油圧ポンプやコンプレッサーが必要なため、燃費の悪化を招きます。

コストパフォーマンスの良い技術とはいえず、採用は一部の高級車にとどまっています。

■ホイールアライメントとは

ホイールアライメントとは、タイヤが進行方向や路面に対してどのような角度で取り付けられているかの総称です。

車の操縦安定性に大きな影響を与えるホイールアライメントの4つの要素について、解説していきます。

ホイールアライメントの役割

ホイールアライメントとは、進行方向や路面に対するタイヤの傾きの総称であり、タイヤは路面に対して垂直に取り付けられているわけではありません。

軽いステアリングの操作でまっすぐ進み、また旋回後にはステアリングが自然に戻ろうとするような直進安定性や操縦安定性が実現されているのは、ホイールアライメントの最適化のおかげです。

例えば左右のタイヤは、車と乗員の重さによって「ハの字型」に傾きます。このまま走行すると、タイヤには無理な力がかかり、また左右のバランスが崩れると操縦性は大きく悪化します。

このような、走行中に発生する様々なタイヤの角度変化を見越して、タイヤの取り付け角を設定するのがホイールアライメントの役目です。ホイールアライメントの4つの要素であるキャンバー、キングピン、トーイン、キャスターについて、以下で解説します。

ホイールアライメント
ホイールアライメント

キャンバー角

キャンバーとは、車を前方から見たときのタイヤの左右方向の傾きです。

前述のように左右のタイヤは、車と乗員の重さによって「ハの字型」に傾きます。この特性を見越して、あらかじめ「逆ハの字型」に傾けて設定することを、ポジティブキャンバーと呼びます。

以前は、一般にポジティブキャンバーが設定されていましたが、最近はゼロキャンバー(垂直)から若干ネガティブキャンバー(ハの字型)が採用されるようになりました。車の高速化に伴い旋回時の安定性を重視して、旋回内側のタイヤ接地面積を大きくしたいという理由からです。

キングピン角

キングピンとは、操舵輪の向きが変わるときに回転する中心軸のことです。実際にキングピンという部品はないので、仮想キングピンと表現する場合もあります。

キングピン角とは、タイヤを前後方向から見たとき、キングピン軸の垂直方向に対する傾きです。

傾いたキングピン軸を中心にタイヤは回転するので、直進から旋回したときに片側のタイヤが下がろうとして、反力で車体片側を持ち上げる力が働きます。

この車体を持ち上げようとする力が、タイヤを自ら直進状態に戻そうとする復元力になります。

トーイン角

タイヤを真上から見たとき、その中心は直進方向ではなく、若干内側に向く(トーイン)か、外側に向いて(トーアウト)います。

トーインは、ポジティブキャンバーの車のタイヤが外に向かって進もうとするのを、相殺するために使われます。現在主流のゼロ近傍のキャンバーでも、走行抵抗によってタイヤが外に広がろうとするため、それを抑えるためにトーインが設定されています。

キャスター角

キャスターとは、タイヤを横から見たときのキングピンの後方への傾きを表します。

この傾きが大きいほど、直進性が向上します。また、キャスターによって旋回時にカーブ外側のタイヤ接地面中心と、回転軸の距離が長くなり、元に戻ろうとするモーメントが働きます。これが、直進状態に戻ろうとする復元力になります。

ホイールアライメントの4要素は、単独でなく一体となって効果を発揮します。

よりレベルの高い直進性や操縦安定性の向上を実現するために、ホイールアライメント全体でバランスを取りながら最適化を図っています。

(Mr.ソラン)

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