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2014年にトヨタ「ミライ」、2016年にはホンダ「クラリティ」の燃料電池車(FCV)が、700万円台で市販化され、再び燃料電池車が注目されました。
「究極のエコカー」と呼ばれ、技術進化を続けている燃料電池車の最新技術やメリット、課題について解説していきます。
■燃料電池車(FCV)とは
燃料電池車は、車載タンクに充填した水素と、大気中の酸素を反応させて発電する燃料電池の電力を使って、モーターで走行します。EVの2次電池の代わりに燃料電池を搭載したシステムで、通常のガソリン車がガソリンを補給するように、水素を補給します。
燃料電池車は、以下のような多くのメリットがあり、究極のエコカーと呼ばれています。
・燃料を燃焼させないので、原理的には発生するのは水のみで有害な排出ガスが出ない。
・エネルギー効率が、ガソリンエンジンの約2倍と高い。
・水素を製造するために天然ガスやエタノールなど、石油以外の多様な燃料が利用できる。
・充電が不要で、1回の水素補給(5分程度)でガソリン車並みの走行ができる。
燃料電池車の基本構成
燃料電池車は、燃料電池スタックと高圧水素タンク、発生した電気を充電する補助電池、駆動モーター、モーターへの電力供給を制御するコントローラーで構成されています。
燃料電池スタックは、水素と酸素を化学反応で発電する燃料電池セルを、数百枚ほど直列接続して1ユニットにまとめたものです。高圧水素タンクには、通常70MPaの高圧水素が充填されており、耐圧強度を確保するために炭素強化繊維プラスチックなどで構成されています。補助電池は、充放電可能な2次電池で、減速回生エネルギーによって充電、加速時にアシストします。
燃料電池の作動原理
自動車用には、小型軽量化の固体高分子型の燃料電池が使われます。電池セルは、水素が供給される水素(-)極、酸素(空気)が供給される酸素(+)極と、2つの電極に挟まれた固体高分子の電解質膜で構成されています。
水素極に供給された水素は、電極中の触媒によって2個の電子(e-)が放出されて水素イオン(H+)になります。その電子が外部回路を通じて反対側の酸素極に流れることで、電流が流れて電気が発生します。
一方酸素極では、供給された空気中の酸素(O2)が、外部回路から流れてきた電子(e-)を受け取り、酸素イオン(O2-)になります。この酸素イオンは、電解質を移動してきた水素イオン(2H+)と結合して、水(H2O)になります。
燃料電池車の課題
2014年発売のトヨタ「ミライ」と2016年発売のホンダ「クラリティ」の燃料電池車は、技術的、性能的に大きな違いはありません。
販売価格は、723.6万円(ミライ)/766万円(クラリティ)、FCスタック最高出力114kW(ミライ)/103kW(クラリティ)、タンク容量122.4L(ミライ)/141L(クラリティ)、航続距離650km(ミライ)/750km(クラリティ)です。
燃料電池車の技術的な課題は、依然としてコストと耐久性です。車両価格はガソリン車の概ね2倍ですが、これは燃料電池のシステムコストの高さに起因しています。HEVと同等の価格競争力を有するためには、システムコストを2015年時点の1/4程度まで低減する必要があります。
最大の課題は、技術的な課題よりインフラ整備かもしれません。水素ステーションの整備と安価で安定した水素供給体制の構築が、販売価格に大きく影響し、普及のカギです。
究極のエコカーと言われて久しい燃料電池車ですが、注目されては沈静化することを何回も繰り返しながら、技術は着実に進化しています。将来有望な環境技術であることは確かですが、水素インフラの拡充など課題解決のための具体的な筋道は、いまだ不透明です。
■トヨタ・ミライの燃料電池システムとは
燃料コストはまだ内燃機関よりも高い
トヨタ・ミライは、2014年12月に世界初の量産型燃料電池車(FCV)として販売が始まり、再び燃料電池に注目が集まりました。かつては1億円/台かかると言われた燃料電池車ですが、ミライは性能を大幅に改善しつつ、販売価格を723.6万円まで下げました。
最新の燃料電池技術を集約させたミライの燃料電池システムについて、解説していきます。
ミライ燃料電池車のシステム構成
燃料電池車は、車載タンクに充填した水素と大気中の酸素を反応させて発電する燃料電池の電力を使って、モーターで走行します。EVの2次電池の代わりに燃料電池を搭載したシステムで、通常のガソリン車がガソリンを補給するように、水素を補給します。
燃料電池車は主として、燃料電池スタック(詳細については別頁で解説)と高圧水素タンク、発生した電気を充電する2次電池、駆動モーター、モーターへの電力供給を制御するコントローラーなどで構成されています。
個々の機能と役目については、以下で解説します。
燃料電池スタック
固体高分子型の燃料電池スタックは、水素と酸素を化学反応で発電する燃料電池セルを、数百枚ほど直列接続して1ユニットにまとめたものです。
電池セルは、水素が供給される水素(-)極、酸素(空気)が供給される酸素(+)極と、2つの電極に挟まれた固体高分子の電解質膜で構成されています。
水素極で発生する水素酸化反応と酸素極で発生する酸素還元反応によって、電気が発生します。
水素酸化反応) H2 → 2H+ + 2e-
酸素還元反応) 2H+ + 1/2・O2 + 2e- → H2O
高圧水素タンク
高圧水素タンクを2基搭載して、122.4Lの水素を高圧70MPaで貯蔵します。水素を密閉するプラスチックライナー、耐圧強度を確保する炭素繊維強化プラスチック層、表面を保護するガラス繊維強化プラスチック層の3層構造になっています。
炭素繊維強化プラスチックが高価で、コストアップの要因のひとつであるため、ライナー形状の見直しなどによって、炭素繊維強化プラスチック量を減らしています。
パワーコントロールユニット
燃料電池で発生した直流電圧を交流に変換するインバーターと、駆動用バッテリーの電気を出し入れするDC/DCコンバーターなどで構成され、あらゆる運転条件で燃料電池スタックの出力と2次電池の充放電を制御します。
燃料電池昇圧コンバーター
燃料電池スタックの発電電圧を、650V程度まで昇圧するコンバーターです。
エアコンプレッサー
ヘリカルコンプレッサーで、発電に必要な空気(酸素)を燃料電池スタックに供給します。
駆動用モーターと2次電池
駆動用モーターは交流同期モーターで、減速時には発電機として機能させます。減速エネルギーは、充放電可能なニッケル水素電池に充電して、加速時には燃料電池の出力をアシストします。
ミライとガソリン車の燃料費比較
燃料電池車の燃料費をHEV車、ガソリン車と比較しました。
※2023年5月30日に情報更新しました
・ミライ
水素販売価格 1000円/kg、水素4.6kgで航続距離650kmなので、燃料費は7.1円/km
・4代目プリウスHEV
ガソリン価格 130円/L、プリウスの燃費 40.8km/L、燃料経費は 3.2円/km
・初代C-HRガソリンターボ車
ガソリン価格 130円/L、C-HRの燃費 16.4km/L、燃料経費は 7.9円/km
燃料電池の燃料費は、ガソリンターボ車とほぼ同等です。
燃料電池車として注目されたミライですが、販売価格がまだ723.6万円(補助金込みで520万円程度)と高く、水素インフラが進まないこともあり、2017年までの累計台数は約5000台と伸び悩んでいます。
2020年にフルモデルチェンジした新型(2代目)ミライは、車両価格は710万~805万円とまだ高価ですが、水素タンク容量を122.4Lから141Lに拡大し、満タン時の航続距離は650km(JC08モード)から最大で850km(WLTCモード)へと大きく改善されました。水素搭載容量が4.6kgから5.6kgへと増大し、システム効率が向上したことが寄与しています。
これにより、2代目ミライの燃料費は、初代の7.1円/kmから6.6円/kmに改善されています。
・2代目ミライ(2020年)
水素販売価格 1000円/kg、水素5.6kgで航続距離850kmなので、燃料費は6.6円/km
・新型プリウスHV(2023年)
ガソリン価格 165円/L、プリウスの燃費 32.6km/L、燃料経費は 5.1円/km
この結果から、最新のミライと新型プリウスを比較すると、ミライのタンク容量増大やシステム効率の向上と、ガソリン価格の上昇によって、FCVとHVとの燃料費は初代が登場した2015年当時よりも、その差が縮小しています。
また、初代ミライの燃費計測法はJC08モード、新型ミライの計測法はWLTCモードと異なります。参考ですが、新型ミライの燃料費をJC08モード相当に置き換えると6.6円→5.3円/km相当、新型プリウスは5.1円→4.1円相当と推察されます。(WLTCモードは、JC08モードより燃費が2割悪化すると仮定)
水素燃料費もかなり改善され、あとは水素価格の低減がポイントです。さらに残る課題としては、燃料電池スタックのコストが高く車両価格が下がらないことと、水素ステーションが不足していることです。
■燃料電池の構造と原理とは
自動車には固体高分子型が最適
燃料電池車(FCV)の心臓部である燃料電池(FC)は、充放電を繰り返して使う電動車用の2次電池とは異なり、自ら電気を発電する「発電装置」です。
水素を燃料として酸素との化学反応によって発電する燃料電池の基本原理から課題まで、解説していきます。
燃料電池の種類
燃料電池には、いくつかの種類がありますが、基本的な概念や仕組みは同じで、使用する電解質によって作動温度や効率が変わります。代表的なものとしては、固体高分子型(PEFC)とリン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体酸化物型(SOFC)の4種類があります。
その中で、小型で軽量な固体高分子型燃料電池(PEFC)が、家庭用エネファームや自動車用燃料電池として使われています。PEFCの発電効率は30~40%と他に比べて低いですが、小型軽量に加えて作動温度が常温~90度と低く、起動が速いといった取り扱い易いメリットがあります。
燃料電池の仕組み
燃料電池は、「水の電気分解」と逆の反応を利用します。すなわち、水素と酸素を化学反応させて電気を取り出します。
一般に化学エネルギーは、いったん機械エネルギーに変化してから電気エネルギーに変換する場合が多いですが、燃料電池は化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するので効率が高いというメリットがあります。
電池セルは、水素が供給される水素(-)極、空気中の酸素が供給される酸素(+)極と、2つの電極に挟まれた固体高分子の電解質膜で構成されています。1つのセルで発生する電圧は、1V以下と低いので、数百のセルを直列接続して電圧を高めます。セルを集めたユニットは、電池スタックと呼ばれます。
燃料電池の作動原理
高圧水素タンクから水素極に供給された水素は、電極中の触媒作用によって2個の電子(e-)が放出され、水素イオン(H+)になります。その電子が外部回路を通じて反対側の酸素極に流れることで、電流が流れて電気が発生します。
水素酸化反応) H2 → 2H+ + 2e-
一方、酸素極では、供給された空気中の酸素(O2)が、外部回路から流れてきた電子(e-)を受け取り、酸素イオン(O2-)になります。この酸素イオンは、電解質膜を移動してきた水素イオン(2H+)と結合して、水(H2O)になります。
酸素還元反応) 2H+ + 1/2・O2 + 2e- → H2O
水素電極の水素酸化反応と酸素極の酸素還元反応は、常温~120度程度では起こらないので、これらの反応を促進するため、電極(カーボン)には白金などの触媒層が担持されています。これが、燃料電池の高コストの一因であるため、白金などの貴金属を減らすことが現在重要な課題のひとつになっています。
エネファームと車載用燃料電池の違い
「家庭用燃料電池コージェネレーションシステム」のエネファームは、既に実用化が進んでいます。一般家庭用の自家発電設備で、都市ガスやLPガスなどから水素を取り出し、燃料電池を稼働するシステムです。水素の取り出しは、触媒を使った燃料改質器で行います。
自動車用の燃料電池でも、かつては改質器を搭載したオンボード型の開発が進められていましたが、効率の課題が解決できず現在はほとんど採用されていません。
燃料電池は、水素を燃やすことなく直接的に電気を取り出せるため、理論的には水素の持つエネルギーの80%程度を電気エネルギーに変えることができ、ガソリン車の2倍以上の効率があります。
技術的な課題は克服されつつありますが、高価な電極触媒と電解質膜の低コスト化が今後の開発のカギとなっています。
(Mr.ソラン)
クリッカー自動車用語辞典 https://clicccar.com/glossary/