目次
■コネクテッドカーと高度道路交通システムとは
コネクテッドカーという表現が使われ始めて久しいですが、車がいろいろなネットワークと繋がることによって、多くのメリットが享受できます。自動車メーカーを中心にした自動車側からのアプローチとともに、重要なのは道路側のインフラ整備です。
コネクテッドカーのベースとなる高度道路交通システム、ITSについて、解説していきます。
ITS(高度道路交通システム)
ITSは、最先端の情報通信技術を利用して「人」と「道路」と「車」を一体のシステムとして構築し、渋滞や交通事故、環境悪化等の道路交通問題の解決を図るシステムです。
2006年に、総務省と警察庁、経産省、国交省、日本経団連、ITS Japanが参画する「ITS推進協議会」が設置されました。それ以降、ITS推進協議会において民間および関係省庁が一体となり、最適なシステム構築のため総合的な検討を進めています。
具体的な施策としては、ナビゲーションシステムの高度化(VICS)、有料自動車道路での自動料金支払いシステム(ETC)、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化などです。
VICSによるナビゲーションシステムの高度化
VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)では、各都道府県警察と道路管理施設が収集した交通情報を、VICSセンターからFM多重放送やビーコンを介してカーナビに提供します。
VICSによって提供される交通情報は、渋滞情報や通行止めなどの交通障害情報、車線規制等の交通規制情報、高速道路や幹線道路での所要時間、駐車場情報などです。
ドライバーは、常時VICSによって提供された周辺の交通情報をカーナビで確認しながら、最適なルートを選択できます。
進化するETC
ETC(有料自動車道路の自動料金支払いシステム)は、すでに利用率が90%を超える高速道路の自動料金支払いシステムです。料金所に設置した路側通信機器と車に搭載したETC車載器の間で情報を授受することによって、後日自動的に高速料金が支払い口座から引き落とされます。
また、ETCの機能をさらに進化させたのが、ETC2.0です。
従来から進められていたITSスポットサービスやDSRC(Dedicated Short Range Communication:狭域無線通信)技術を統合したETC2.0は、サービス内容を拡大し利便性を高めました。
ETC2.0では、通常の自動料金支払いサービスに加えて、渋滞情報を受信して最適ルートを選択するダイナミックルートガイダンス、危険を予知して注意喚起によって安全運転を支援する機能など、さまざまなサービスが受けられます。
その他の基盤技術
適正なナビゲーションの大前提は、正確な自車位置の認識です。現在は、アメリカが運用するGPS(全地球測位システム)衛星から発射される電波を使っています。測位誤差は、10m程度です。
日本でも準天頂衛星「みちびき」と呼ばれる独自の衛星システムが2010年9月に打ち上げられました。この衛星システムは2023年度から2024年度にかけて7機体制構築が予定されています。
ほとんどの自動車メーカーは、車の通信機を介してさまざまな情報をリアルタイムに入手できるテレマティクスシステムを独自に開発して運用中です。トヨタの「T-Connect」、日産の「カーウイングス」、ホンダの「インターナビ」などです。これらも、ITSと連携しながら高度化を目指しています。
道路側の通信インフラ整備が進めば、メーカーが進めるコネクテッド技術との相乗効果によって、安全性と快適性、輸送効率の向上が実現できます。また自動運転の技術分野でも、大きな躍進が期待できます。
本章では、ITS技術を中心に車のための情報通信技術について、詳細に解説します。
■ITS(高度道路交通システム)とは
ITSコネクトは、車載したカメラやレーダーなどのセンサーでは検知しづらい状況下でも、安全運転を確保するインフラ協調型の運転支援技術です。車とインフラを通信で繋ぐ「路車間通信システム」と、車同士を繋ぐ「車車間通信システム」が、その代表例です。
インフラを利用した運転支援システムであるITSコネクトについて、解説していきます。
ITSコネクト
ITSコネクトは、産官学の連携と協力のもとに進められているITS(高度道路交通システム)の推進項目のひとつです。狙いは、最新の通信技術を駆使した安全運転支援システムの構築であり、ITSコネクト推進協議会を中心として推進されています。
最新のカメラやレーダーを搭載した車でも、見通しの悪い道路や交差点内の車や歩行者の存在は検出できず、事故を回避することは困難です。
ITSコネクトでは、路肩に送信器と、車や歩行者を検知するセンサーを設置して、見通しの悪い交差点などでの車や歩行者の有無、信号情報を検出します。それらをドライバーに送信することによって、ドライバーに注意喚起して安全運転を支援します。
ITSコネクトの実用例としては、路車間通信システムと車車間通信システムがあります。路車間通信システムは車とインフラとの連携によって、車車間通信システムは車同士の連携によって、安全運転を支援します。
道路と車を繋ぐ路車間通信システム
路車間通信システムでは、路側に無線通信器と車両検知センサーや歩行者検知センサーを設置し、周辺の交通状況とともに信号情報、規制情報なども車に提供します。これを受けて、車は以下のような運転支援を行います。
・右折時注意喚起
交差点右折時に対向直進車や右折先に歩行者がいる状況で、ドライバーがブレーキペダルから足を離して発進しそうな場合、モニター表示と警告音で注意喚起
・赤信号注意喚起
走行中に直前の信号が赤の状況で、アクセルを踏み続けて止まる気配がない場合、モニター表示と警告音で注意喚起
・出会い頭衝突注意喚起
交差点進入時に左右から車が近づいているのに、ドライバーがブレーキペダルから足を離して発進しそうな気配がある場合、モニター表示と警告音で注意喚起
車同士を繋ぐ車車間通信システム
車車間通信は、専用の無線車載器が搭載された車同士の情報交換によって運転支援を行います。無線通信によって周囲の車の位置や速度、車両制御情報などを入手して、必要に応じて以下のような運転支援を行います。
・オートクルーズコントロール
先行車の車速状況などを後続車に伝え、車間距離や速度の変動を抑えてスムーズに追従走行
・緊急車両の存在通知
周辺の緊急車両(救急車)の存在を知らせる緊急車両の接近通告
また、路車間通信と組み合わせて出会い頭衝突や追突防止支援システムにも適用されます。
トヨタは、ITSコネクトに積極的に取り組み、プリウス、プリウスPHEV、クラウン、アルファード、ヴェルファイヤといった車種に、路車間通信システムと車車間通信システムをメーカーオプションで設定しています。
車車間通信システムはインフラ整備を必要としませんが、自車が通信器を搭載していても周辺の車が通信器を搭載していなければ、サービスは受けられません。当面は、通信器搭載車のみの限定サービスです。
普及が進んでいる各種センサーを使った自律型の運転支援システムでは、死角になる部分については危険予知ができません。通信技術を使ったインフラ協調型の運転支援システムと組み合わせれば、より安全性は高まります。
普及にはまだ時間がかかりそうですが、車側の技術開発とともにインフラ整備も着実に進んでいます。
■VICS(道路交通情報通信システム)とは
VICS(Vehicle Information and Communication System)は、道路交通情報通信システムです。VICSは、渋滞情報や交通障害情報、交通規制情報などをリアルタイムでカーナビに提供します。
FM多重放送を利用するFM-VICSと、光または電波を利用するビーコンVICSそれぞれの役割と仕組みについて、解説していきます。
VICSの概要
VICSは、各都道府県警察と道路管理施設が収集した交通状況に関する情報を日本道路交通情報センターが受け取り、VICSセンターからFM多重放送やビーコンを介してカーナビに情報を提供するシステムです。
VICSによって提供される道路情報は、渋滞情報や通行止めなどの交通障害情報、車線規制等の交通規制情報、高速道路や幹線道路での所要時間、駐車場情報などです。情報は、ラジオや道路掲示板、カーナビを通してドライバーに提供されます。
ドライバーは常時、VICSによって提供された周辺の交通情報を確認しながら最適なルートを選択できます。カーナビの地図上に、文字情報や渋滞箇所、規制箇所が分かりやすく表示されるので、道路表示板のように見過ごすことがありません。
VICSの仕組み
VICSには、FM-VICSと電波ビーコンVICS、光ビーコンVICSの3種類があります。
FM-VICSは、NHKのFM多重放送を使ってデータの通信が行われます。電波ビーコンVICSは高速道路に設置された電波ビーコンという発信機から、光ビーコンVICSは一般道路に設置された光ビーコンから、情報が発信されます。
一般的なカーナビには、FM-VICS用の受信機が標準装備されていますが、ビーコンVICSに対応するためには別途ビーコンユニットが必要です。
FM-VICS
FM-VICSは、FM多重放送を利用し広域エリアの道路交通情報を提供します。情報は、全国のNHK放送センター(53の基幹局と465の中継局)から提供されます。
FM多重放送では、エリアごとに区切られた情報が発信され、カーナビを搭載した車が移動する範囲で最も受信感度の高い(最寄りの)放送局の電波情報を自動的に受信します。
電波ビーコンVICS
電波ビーコンは、高速道路の高度な道路管理システムを完成させる上で欠かせない存在です。
電波ビーコンの受信エリアは、ビーコン直下の約20mの範囲です。FM多重放送や光ビーコンに比べると、伝送速度が遅く送信できるデータ容量も少ないですが、前方1000km内の渋滞情報や規制情報、インターチェンジ間の所要時間が提供されるメリットがあります。
光ビーコンVICS
光ビーコンは、一般道路(主に交通量の多い市街地)の前方30km内と後方10km内のVICS情報を提供します。提供される情報は、渋滞情報や規制情報、所要時間、駐車場の空き状況などです。
特徴は、センサーも兼ねた双方向通信で、情報提供だけでなく車両を特定し区間所要時間も計測できます。双方向通信を行うためには、1つのセンサーで1台の車を検知する必要があるので、受信エリアはビーコン設置場所直下の3.5mの狭域です。
ビーコンVICSの情報を利用して、渋滞を回避するダイナミックルートガイダンスが可能なカーナビもあります。
VICSは、人と車と道路の間で情報をやり取りする一体化システムを構築する「ITS(高度道路交通システム)」推進項目のひとつです。
VICSの高度化が進めば、ドライバーにとっての利便性だけでなく、渋滞が解消され輸送効率が上がり、交通事故も減少するなど運転環境と道路環境の大幅な改良が期待できます。
■テレマティクスとは
テレマティクスは、テレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報処理)を組み合わせた造語です。通信を利用して車にさまざまなサービスを提供する、自動車用情報通信技術の総称です。
テレマティクスの仕組みやメリットについて、事例を上げて解説していきます。
テレマティクスの概要
「コネクテッドカー」という表現が使われ始めて久しいですが、そのベースになるのがテレマティクスです。テレマティクスは、車などの移動体に通信システムを搭載して、さまざまな情報をリアルタイムに提供する技術です。車にリアルタイムの情報を提供することによって、安心や安全を高め、利便性を向上させることを目的としています。
VICSでも渋滞や規制情報などを収集して提供できますが、車両検知器のある周辺場所の情報に限られます。テレマティクスは、サービス登録されたさまざまな車から情報が得られるので、より広範で多様な情報が収集できます。
テレマティクスの役割
ほとんどの自動車メーカーは、すでに独自開発したテレマティクスシステムを採用しています。トヨタの「T-Connect」、日産の「Nissan Connect」、ホンダの「Honda CONNECT」などです。テレマチックを利用したコネクテッドサービスは、メーカーによって異なりますが、トヨタを例に上げると、次のようなサービスが提供されます。
・ヘルプネット:事故発生の際に、エアバッグ作動状況を検知して自動で緊急通報
・マイカーセキュリティ:遠隔監視システムでドアこじ開けなどの異常を検知通報、盗難時には位置検出機能で追跡
・eケア:走行中に何らかの警告灯が点灯した際に適切にアドバイス
・ロードアシスト24:走行中のガス欠、パンク、エンジン不始動などのトラブル発生時に、JAFへ救援を要請
・ルート情報の音声対応:ナビに話しかければ、目的地やルート検索などの情報を音声で対応
・マップオンデマンド:新しい道路情報をダウンロードしてマップを最新化
・Apps(アップス):T-Connect対応のカーナビに好みのアプリをインストールしてカスタマイズ化
・スマホ連携によるリモート操作:スマホをデジタルキーとしてドアロックの開閉やエンジンの始動、さらにスマホからエアコン操作
メーカーのテレマティクスは、純正カーナビの付加価値を高める目的で組み込まれており、新車購入から一定期間は無料で使用できます。
サービス内容は各社で異なりますが、一般的にはナビゲーションの向上や交通情報、事故時の緊急通報、盗難時の自動通報などをリアルタイムで提供します。
トヨタ「T-Connect」
テレマティクスサービスの代表例として、トヨタのT-Connectを紹介します。サービス登録車は、スマホの回線や車載通信機を介して、クラウド上にある「トヨタスマートセンター」と繋がります。そこで多くのサービス登録車の情報をビッグデータとして収集処理して、各種のサービスを提供します。主なサービスは、以下の通りです。
・交通情報サービス
一般的な交通情報だけでなく、過去の情報をもとに行き先を予測しながらルート上の事故や渋滞状況、天気情報などを提供します。
・対話型オペレーション
オペレーターとの対話によるナビの操作や、AI(人工知能)との対話による目的地設定ができます。
・目的地や関連情報の推奨
過去の走行/行動パターンなどを学習して、推奨目的地や施設を提案します。
・地図の自動更新(マップオンデマンド)
その他の最新機能として、車の運転状況を販売店やセンターに送信して故障診断するリモートメンテナンスサービス、盗難防止のためのアラーム通知や車両追跡をするマイカーセキュリティなどがあります。
e-Callシステム
欧州では、2018年4月から販売されるすべての新車に「e-Call」システムの装着が義務化されました。事故発生時にエアバッグと衝突センサー、発生場所の情報を、車載通信ユニットを介して事故センターへ自動的に連絡するシステムです。
すでに営業車では、車両診断や膨大なデータの解析による走行時の危険予知や運転管理のために、テレマティクスが活用されています。
一般車の場合は安心安全な走行に加えて、ドライバーの意図を先読みして目的地や音楽を提供するサービスなど、ドライバーの好みに合わせた快適なドライブのためにテレマティクスが利用されています。
■ETC2.0とは
ETC(有料自動車道路の自動料金支払いシステム)は、すでに利用率が90%を超える高速道路の自動料金支払いシステムです。料金所に設置した路側通信機器と、車に搭載したETC車載器の間でデータを授受することによって、自動的に高速料金を支払うシステムです。
現行のETCと普及し始めた進化版ETC2.0の仕組みとメリットについて、解説していきます。
ETCの役割
ETCは、ITS(高度道路交通システム)の中で最も身近なシステムで、すでに利用率は90%を超えて定着しています。料金所に設置した路側通信機器と、車に搭載したETC車載器の間で無線通信して、自動的に高速料金を支払うシステムです。
ゲート進入時には、入口料金所で路側アンテナから車のETC車載器に、入口情報(IC名称、時刻等)が送信されます。走行後の退出時には、出口料金所でETC車載器から路側アンテナに、入口情報が送信されます。その情報をもとに通行料金が計算され、路側アンテナからETC車載器に料金情報を送信します。
後日、料金は支払い口座から自動的に引き落とされます。
ETCゲートは何km/hまで通過できる?
ETCゲート通過時には、車速20km/h以下で走行するように規定されていますが、実際のところ何km/hまで認識できるのでしょうか。
設計上は80km/h程度までは認識可能のようですが、20km/h以下というのは安全を考慮してのことです。例えば、前車がカードの挿入忘れや通信エラーなどによってバーが開かなった時に安全に止まれること、また前車が急ブレーキをかけた時に後続車が安全に止まれるように20km/h以下に設定されているようです。
ETC2.0への進化
ETCの機能をさらに進化させたのが、ETC2.0です。
従来から推進されていたITSスポットサービスやDSRC(Dedicated Short Range Communication:狭域無線通信)技術を統合したETC2.0は、サービス内容を拡大し利便性を高めました。
ETC2.0路側通信機器は、全国の高速道路上の「ITSスポット」(約1700箇所)に設置されています。車に搭載されたETC2.0対応車載器との双方向通信によって、さまざまなサービスを実現します。周波数5.8GHz帯のDSRC通信は、従来から使われていた電波ビーコン(2.5GHz帯)に比べて高速で大容量の双方向伝送ができます。
ETC2.0のメリット
ETC2.0の主要なサービスは、以下の3つです。
・通常の自動料金支払いサービス
・渋滞データを受信して最適ルートを選択するダイナミックルートガイダンス
県境を超えるような広範囲の道路交通情報がITSスポットからリアルタイムで配信され、最新情報に従った最適ルートの案内。
・危険を予知して注意喚起によって安全運転を支援
例えば、落下物情報を事前に通知して安全に誘導、事故多発地点の注意喚起、地震情報の通報、さらに、これから向かう地域の天候状況や渋滞状況を画像で提供します。
その他にも、サービスエリアや道の駅などでカーナビからインターネットに接続できます。地域観光情報や施設情報にアクセスして、周辺の最新情報などが入手できます。
ETCに使われているDSRC(狭域無線通信)技術は、有料道路の自動料金支払いシステムの利用に限定されていました。2001年に法律が改正されて、ETC2.0に進化して種々のサービスに使えるようになりました。
ETCを進化させたETC2.0の狙いは、車と道路が協調することによる快適な運転と、道路交通システム全体の効率化の実現です。
■GPS(全地球測位システム)とは
カーナビや携帯では、自車位置を正確に確認するためにGPS(全地球測位システム)が使われています。GPSは、地球の周回軌道上にある人工衛星からの電波を受信して、正確な位置を特定するシステムです。
カーナビだけでなく、自動運転の開発においても重要な役目を担うGPSの仕組みや測位原理について、解説していきます。
GPSの概要
GPS衛星はアメリカが軍事目的で打ち上げた衛星で、現在31機がアメリカ国防総省によって運用されています。衛星は、6つの軌道上を約12時間で地球を一周するので、地球上のどこでも衛星の電波を受信できます。
GPS衛星からは、軍事目的の高精度の電波と民生用の精度を下げた電波が常時発射されています。軍事用の測位精度は20cm未満、民生用は10m程度です。
現在、日本でも準天頂衛星「みちびき」と呼ぶ独自の衛星システムを開発中です。2018年11月から4機の衛星体制でGPSを補完する運用を開始しました。
使い方によっては測位誤差を小さくできますが、精度は現行GPSの10m程度と同等です。ただし、ビルの間や山間部での位置情報が安定して得られるメリットがあります。
2023年からは7機の衛星体制になり、常時4機が日本の上空に存在するので現行のGPSに頼らずに、測位誤差は数cmレベルまで改良されます。
GPSによる測位の仕組み
自車位置の特定方法は、電波の時間差を利用した「三角測量法」を利用します。
GPS衛星から自車までの距離は、電波速度(約30万km/秒)×時間で求められます。ただし、これは衛星を頂点とする円錐底辺の円周上のどこかであることを意味するだけで、特定には至りません。位置を特定するためには、あと2つの衛星からの電波が必要です。3つの円錐底辺が交差する点が、自車位置です。
ただし正確に自車位置を特定するためには、上記3機の衛星電波に加えてもう1機の衛星電波が必要です。
GPSには、セシウムまたはルビジウムの原子時計が搭載されていますが、車のカーナビには普通の時計しかありません。4機目の衛星から正確な時間情報を受け取って、はじめて精度の高い自車位置が特定できます。
GPSの精度向上手法
GPSによる測位の弱点は、トンネルやビル群などの障害物によってGPS電波が途絶えた瞬間に位置情報が消えることです。カーナビでは、GPSを補完するために自立航法と組み合わせて、どんな悪条件でも測位ができるようにしています。
自立航法とは、車の動きを検出して車の位置を特定する方法です。車速センサーで移動距離(車速×タイヤ外径)を、ジャイロセンサーで移動方向を検出して自車位置を求めます。
ただし、GPSと自立航法を組み合わせても、どうしても誤差は生じます。そのまま地図上に表示すると、自車が道路から外れることもあり得ます。
カーナビには、自車を強制的に道路上に移動させるマップマッチング機能が組み込まれています。マップマッチングはその修正加減が重要で、強すぎると駐車場に入ったのに自車が道路上を走行しているように勘違いし、弱すぎるとフラフラと走行経路が安定しません。
GPSの測位精度の向上は、各社が取り組んでいる自動運転技術には不可欠です。
2023年には、米国GPSに依存しない数cmレベルの測位精度が実現するので、自動運転技術の大きな進化が期待されます。
■カーナビゲーションシステムとは
多くのドライバーは、初めての場所に行くときにはカーナビ(ゲーション)を使うのではないでしょうか。カーナビは、GPS(全地球測位システム)の電波をベースにルート検索をして、画面と音声で目的地まで案内してくれます。
「方向音痴」の人でも無事目的地に誘導してくれる便利なカーナビシステムについて、解説していきます。
カーナビの基本構成
カーナビの主要な役目は、自車位置の確認、周辺状況の認識、目的地の検索、経路案内です。またVICS(道路交通情報通信システム)を使って、周辺道路の事故や渋滞情報の入手ができます。
カーナビはGPSの電波を受信して、自車の位置を常時モニターしながら地図上に表示して、音声案内で目的地まで誘導します。地図には、住所や施設、店舗なども表示されるため、目的地検索が容易です。
車には、GPSの電波を受信するアンテナ、地図データを記録した媒体を読込む装置、モニター、CPUが装備されています。
GPSによる自車位置の確認
自車位置の確認のためには、GPS(全地球測位システム)は欠かせません。GPSは、アメリカが軍事用に打ち上げた複数の衛星からの電波を使っています。軍事用目的の測位精度は20cm未満ですが、民生用途の精度は約10mです。
現在、日本でも「準天頂衛星システム」と呼ばれる独自の衛星システムを開発中で、2023年には4機の衛星体制となり精度の高いGPSとして使える予定です。
電波がトンネルやビル群などの障害物によってGPS電波が途絶えた瞬間位置情報が消えてしまいます。そこでカーナビでは、GPSと自立航法を組み合わせて常に測位を繰り返します。自立航法とは、車速センサーで移動距離を、ジャイロセンサーで移動方向を求めて自車位置を求める手法です。
リアルタイム交通情報の入手
VICSは、ITS(高度道路交通システム)機能のひとつで、事故や渋滞情報などをリアルタイムで提供します。高速道路や一般道でよく目にする渋滞を知らせる掲示板などの情報は、VICSの情報です。
通常のVICSは、FM-VICSと呼ばれるラジオ放送を利用して送信が行われ、広範囲な交通情報の入手ができます。ビーコンVICSは、一般道路の光ビーコンや高速道路の電波ビーコンという発信機から送信され、周辺の交通情報が提供されます。
更新が必要な地図データ
ベースとなる地図データの収録は、ハードディスクに読込むHDDナビやフラッシュメモリーを使ったメモリーナビ、SDカードを使用するSDメモリーが一般的です。
道路状況は日々変化するので、地図データは定期的な更新が必要ですが、最近はテレマティックスによる通信での更新も可能になっています。
人気のスマホ連携のナビゲーション
カーナビには純正品と市販品がありますが、最近はスマホやタブレットで無料のカーナビアプリを使う人が増えています。
スマホのナビは、高価なカーナビに比べて費用が圧倒的に安いのが魅力です。また、常に地図が更新される、渋滞情報をもとに最適ルートを案内してくれる、一般のカーナビより画像が鮮明といったメリットがあります。
またBluetoothでスマホとカーナビをワイヤレスで繋いで、Bluetooth対応ハンズフリー機能も普及しています。スマホ画面を表示して、音楽再生やハンズフリー通話などに便利に使えます。
スマホにはGPS機能が付いているので、スマホがあればカーナビは必要でないのでは、という意見があります。
スマホを使えばアプリの入手や更新も基本無料で費用が掛からないので、スマホで十分ということになります。しかし、デザイン的に後付けのようなスマホスタンドが嫌という人もいます、カーナビでないと無理な機能もあります。今のところは何を重視するかで決まり、どちらとも言えません。
■コネクテッドカーの音声認識技術とは
音声認識はすでに一般的な技術となり、音声で操作できるカーナビや会話できるカーナビが増えています。ITS(高度道路安全システム)においては、運転中に視線を動かさずに安全に操作ができる点で注目されている技術です。
車の情報技術、安全技術が進む中で重要性が増している音声認識技術について、解説していきます。
音声認識の仕組み
人間が何気なく理解している人の音声でも、コンピューターが理解するのは簡単ではありません。話す人の性別や年齢、癖や方言など、さまざまな要因によって、同じ内容でも表現法が大きく異なるからです。
音声認識処理では、声の情報と言語の情報を綿密に組み合わせながら、以下の仕組みで音声を文字へ変換します。
・ドライバーが言葉を発すると、まず音声はコンピューターによって電気信号の波である音響モデルとして認識されます。
・コンピューターは、この波の大きさと周波数から、発せられた音声が何かを推定します。音響モデルは、数千人、数千時間にも及ぶ音声を統計的に処理したものをベースとしています。
・次に認識された音声と、あらかじめ登録してあった単語の標準パターンを照合し、発生された言葉に近いパターンを持つ単語を探し出します。
・最終的に、照合された単語の並びを文に変換して文章テキストとして認識します。
音声認識の適用例
音声認識技術の車への適用が注目されているのは、コネクテッドカーや自動運転技術にとって不可欠な技術であることと、認識精度が大きく向上したためです。
カーナビに音声認識技術を適用する場合、一般的には音声認識の情報処理はクラウドで行います。クラウドには、高速の処理能力と大容量のメモリー機能があるからです。
クラウド型の音声認識機能では、多くの車から収集分析した莫大な情報とリアルタイムの外部情報を使います。これらのデータベースを用いてルート検索や施設検索などの処理を行い、結果を車載器に配信します。
さらに音声認識だけでなく、AIを活用した会話型の認識機能を持ったシステムも登場しています。
TVコマーシャルで有名になった「ハイ、メルセデス」のメルセデス・ベンツAクラスは、最先端の会話型AIの音声インターフェースを装備しています。ボタンの代わりに「ハイ、メルセデス」という声掛けで車は起動し、「ちょっと暑い」といえばエアコンを操作して車室温を下げてくれるなど、従来のワンパターンなフレーズの会話でなく、自然に自在な応答をしてくれます。
音声認識の課題
さらなる認識精度の向上は、今後も課題でありポイントは以下の2つです。
一つ目は、計測精度の問題です。話す人が不特定多数である場合や、雑音が多い周囲の環境が良くない場合は、ターゲット音声を特定するのが困難です。
二つ目は、コンピューターに登録しておく単語の標準パターンの完成度、音声認識技術における辞書の作り方の問題です。音声を照合するときに、発生された単語を見つけやすいような標準パターンを作る必要があります。
今後は、上記の認識精度の向上をベースに、利用者の意図や状況を正確に理解した上で、自然な会話ができるシステムが期待されています。
自動運転やコネクテッドカー技術を完成させる上で、AIによる音声認識技術の構築は不可欠です。認識できる単語や文章を増やすだけでなく、人間同士の会話のようなレベルに到達する必要があります。
本格的な自動運転の前にクリアすべき課題かもしれません。
■自動緊急通報システム(eCall)とは
欧州では、2018年3月31日からテレマティクス技術を使った「自動緊急通報システム(eCall)」の装備が義務化されました。
車とネットを繋ぐテレマティクスを利用した自動緊急通報システムについて、解説していきます。
自動緊急通報システム
テレマティクスを利用したコネクテッドカーは、無線通信を利用して渋滞回避やナビゲーションなど、さまざまなサービスを提供します。一方で、自動緊急通報による救命システムという直接、人命にかかわる重要な役割も担っています。
欧州では、2018年3月31日からeCallと呼ばれる自動緊急通報システムの装備が義務化されました。自動緊急通報システムでは、事故発生時にエアバッグの展開を検知して、自動で事故の発生情報をコールセンターに通報します。コールセンターは、事故状況に応じて救急センターと警察へ出動を要請します。
救援到着時間が短縮されるほか、本人が通報できないような交通事故でも自動通報できるため、救命率が向上します。救急隊員が現場に到着するまでの時間が、市街地では40%、郊外では約半分程度に短縮できると期待されています。
自動緊急通報システムの仕組み
自動緊急通報システムでは、車にコールセンターと繋がるための無線通信機と衛星測位システムGPSを装備します。無線通信器によってインターネットや電話回線と繋がり、GPSは車の位置情報を正確に検出します。
自動緊急通報システムでは、エアバッグが開いた場合にコールセンターに事故発生を通報します。
エアバッグは、車体前部に装着された衝突検知センサーによって、衝撃の大きさを検出し、エアバッグを展開するかどうかを判断します。
事故通報とともに、位置情報や発生時刻、進行方向、車種、車体番号も送信し、同時にコールセンターと通話もできます。コールセンターは、ドライバーや乗員の状況を確認しつつ、最寄りの警察や消防に事故現場の情報を通報し、速やかに出動を要請します。
テレマティクスを利用した運転支援技術で「ぶつからない車」を目指す一方で、自動緊急通報システムは最悪ぶつかった場合に乗員の人命を守るサービスです。
衝突センサーの出力を解析して乗員の受傷状況を推定することや、ヘリを使った救助などによって、さらなる救命率の向上を目指しています。
(Mr.ソラン)
クリッカー自動車用語辞典 https://clicccar.com/glossary/