目次
■車の空調とは
車の最重要テーマは燃費と安全ですが、一方で車室内の快適性についても高いレベルが求められています。空調システムは、多くのセンサー情報を使って車室空間の温度や湿度、空気質が快適になるように制御します。
エンジン車および電動車の空調システムについて、解説していきます。
冷房システム
冷房は、冷媒の気化熱を利用します。まず、コンプレッサーで冷媒を圧縮してコンデンサー(凝縮器)へ送ります。ここで凝縮液化し、エキスパンジョンバルブ(膨張弁)で低温低圧の霧状冷媒にします。最終的に、エバポレーター(蒸発器)で霧状の冷媒を気化させて、その気化熱でエバポレーターを通過する空気を冷やします。
コンプレッサーはエンジン駆動なので、真夏の冷房使用時には条件にも依りますが、燃費は10~20%程度悪化します。
電動車の場合は、エンジン駆動でなく、電動コンプレッサーが使われます。
暖房システム
エンジン車の暖房システムは、エンジン冷却水を熱源にする一種の廃熱回収システムです。したがって、冷房のようなコンプレッサーの駆動損失による燃費悪化はありません。
エンジンの冷却水が燃焼による発熱によって80度程度に暖まると、ウォーターポンプによってラジエターとヒーターコアに供給されます。ヒーターコアに送られた冷却水は、ヒーターコアを通過する空気を暖め、この温風が車室内に送られます。
オートエアコン
オートエアコンは、燃費への影響を最小限にするように、パワートレインも制御しながら、温度や風量、湿度などを制御します。適正に制御するために、温度や湿度、日射量、排ガス濃度などの情報をさまざまなセンサーで検出します。
ドライバーがマニュアル操作で調整するよりも、オートエアコンの方が燃費については良い結果が出るはずです。
電動車のためのPTCヒーターとヒートポンプ
HEVやEVなど電動車では、エンジンの運転頻度が低い、あるいはエンジンがないので廃熱が利用できません。電動車を中心に、熱源としてPTCヒーターやヒートポンプが使われます。
PTCヒーターは、半導体セラミックを発熱体にしたヒーターで、電流が流れると即座に温度が上昇します。空調ユニットにフィンを設けて搭載する空気ヒーターと、水を加熱して温水を循環させて暖房を行う温水ヒーターがあります。
ヒートポンプは、気体を圧縮や膨張させると温度が変化するという性質を利用して、熱エネルギーを移動させる技術です。少ないエネルギーで冷熱源と温熱源を作ることができ、通常のヒーターに比べて高いエネルギー効率を得ることができます。
エンジンの駆動力や排熱を利用した冷暖房システムが使えない電動車では、ヒートポンプが主流となっています。
車室内の空気清浄
車室内の乗員を不快にする、あるいは健康を害する空気質には、車外から侵入してくるものと車室内で発生するもの、さらに空調ユニット内で発生するものがあります。
車外から侵入してくるのは、排気ガスや塵埃、花粉などです。室内で発生するのは、タバコや乗員の体臭、内装部品からの有機成分などです。また、結露が発生しやすい空調のエバポレーターは、カビや雑菌が発生しやすく、エアコン作動時に異臭を放つことがあります。
一般的に採用されている空気清浄技術としては、集塵や脱臭、抗菌・防カビなどがあります。きれいな車室内空気を確保するために、多機能フィルタに加えて光酸化触媒やイオン発生器などを採用している例があります。
空調システムは、快適性と燃費を高い次元で両立させることを目指して、高精度に制御しています。
本章では、エンジン車おおよび電動車の最新の空調システムについて、詳細に解説します。
■車の冷房システムとは
車の冷房は、「蒸気圧縮式冷凍サイクル」方式を採用しています。基本原理は、液体と気体を繰り返す冷媒が気化するときに、周囲から熱を奪う気化熱を利用しています。
冷房システムの仕組みと原理について、解説していきます。
冷房システムの基本構成
カーエアコンの冷房システムは、コンプレッサー(圧縮機)、コンデンサー(凝縮器)、エキスパンジョンバルブ(膨張弁)、エバポレーター(蒸発器)の主要部品で構成されます。
冷房システム全体の流れは、以下の通りです。
・コンプレッサーでガス状の冷媒を圧縮して、高温高圧のガス状冷媒をコンデンサーへ送ります。
・走行風で冷却されるコンデンサーは、高温高圧の冷媒から熱を奪い、凝縮して高温高圧の液状冷媒にします。
・高温高圧の液状冷媒は、エキスパンジョンバルブ(膨張弁)の小さな孔から低温低圧の霧状になり、エバポレーターに送られます。
・霧状冷媒は、エバポレーターで気化して周辺空気から熱を奪います。この気化熱が、ブロアファンから送られる車室内循環用の空気を冷却します。
液化と気化を繰り返す冷媒は、かつてはフロン(R12)を使っていました。しかし、1990年代に入ってフロンがオゾン層を破壊する温室効果ガスであるため使用されなくなり、代替フロンR134aが使われるようになりました。
以下で、各構成要素の部品について解説します。
コンプレッサー
コンプレッサーは、エバポレーターから送られてくるガス状の冷媒を高温高圧に圧縮し、コンデンサーに送る役目をしています。ベルトを介してエンジンのクランクシャフトで回転し、エアコンスイッチに連動して電磁クラッチでON/OFF制御します。夏場にエアコンによって燃費が悪化するのは、このコンプレッサーの駆動損失のためです。
この駆動損失による燃費悪化を抑えるため、可変容量コンプレッサーや電動車で使われる電動コンプレッサーを採用している車もあります。
コンデンサー
コンデンサーは、圧縮された冷媒ガスを冷却し、凝縮液化する熱交換器です。コンプレッサーで圧縮された高温高圧の冷媒から熱を奪い、凝縮液化します。冷媒の通るチューブと放熱用フィンで構成され、プレートフィンタイプとコルゲートフィンタイプがあります。ラジエターの前面などに配置されて、走行風や冷却ファンで冷却します。
エキスパンジョンバルブ
エキスパンジョンバルブは、コンデンサーから送られてきた高温高圧の液状冷媒を、小さな孔から噴射して急速に膨張させることで、低温低圧の霧状冷媒にします。
エバポレーター
エバポレーターは、エキスパンジョンバルブによって低温低圧の霧状冷媒を気化させて、周辺の空気を冷却する熱交換器です。ブロアファンで車室内に送られる空気は、この気化熱によって冷却されます。
構造は、コンデンサーと同様に冷媒の通るチューブと放熱用フィンで構成されています。
水が出るのは不具合ではない
エバポレーターを通過する空気は、冷却されると水分が除湿されて凝縮水になります。エアコン(冷房)をつけると車の下に水がポタポタと落ちるのは、エバポレーターで発生する凝縮水が原因で、不具合ではありません。
真夏の冷房使用時には条件にも依りますが、燃費は10~20%程度は悪化します。実用燃費という点では、エンジンの改良よりもエアコンの改良の方が効果的かもしれません。
設定温度や外部導入/内気循環の適切な切り替えなどで、燃費悪化は意外と抑えられます。
■車の暖房システムとは
通常エンジン車の暖房は、エンジンの冷却水を熱源とする「温水暖房方式」を採用しています。一方で、エンジンの運転頻度が低い、あるいはエンジンを搭載しない電動車用の新しいヒーターシステムも登場しています。
暖房システムの仕組みと原理について、解説していきます。
暖房システムの基本構成
エンジン車の暖房システムは、エンジン冷却水を熱源にする一種の廃熱回収システムです。したがって、冷房のようなコンプレッサーの駆動損失による燃費悪化はありません。
エンジンの冷却水が、エンジンの発熱によって80度程度に暖まると、ウォーターポンプによってラジエターとヒーターコアに供給されます。ラジエターに送られた冷却水は、走行風によって冷やされます。
一方のヒーターコアに送られた冷却水は、ヒーターコアを通過する空気を加熱し、この温風が車室内に送られます。
エンジンの熱効率の向上によって、エンジンの廃熱量が減少してヒーターのための熱源が不足する傾向があります。電動車では、そもそもエンジンの運転頻度が低い、エンジンがないので廃熱が利用できません。
電動車を中心にエンジン廃熱ヒーター以外の熱源として、PTCヒーターやヒートポンプが使われています。
ヒーターとA/Cスイッチ
ヒーターを使う時には、通常はA/CスイッチをON(コンプレッサー作動)する必要はありません。コンプレッサーを動かさなくてもブロアファンでヒーターコアを通じて温風を車室内に送ることができます。
ただし、外気温と車室内温度差が激しく、窓ガラスに結露が発生した時には、除湿のためにA/Cスイッチを入れるのが効果的です。
ヒーターコア
ヒーターコアは、熱いエンジン冷却水で空気を加熱する熱交換器です。エンジン冷却水の通るチューブと放熱用フィンで構成され、プレートフィンタイプやコルゲートフィンタイプなどがあります。風を送るブロアファンとともに、ダッシュボード内の空調ユニット内に収められています。
ヒーター使用時の車室内の温度は、ウォーターバルブによる冷却水流量の調整や、エアミックスダンパーによってヒーターコアを通過する風量を調整して制御します。
PTCヒーター
PTCヒーターは、半導体セラミックを発熱体にしたヒーターで、電流が流れると即座に温度が上昇します。最大の特徴は、ある温度に達すると抵抗が増えて発熱量が減少し、本体温度を一定に保つ特性を持っていることです。
エアコンユニットにフィンを設けて搭載する空気ヒーターと、水を加熱して温水を循環させて暖房を行う温水ヒーターがあります。空気ヒーターは、エアコンユニット内に搭載してヒーターコアを通過する空気を直接加熱します。温水ヒーターは、PTCヒーターによって水を加熱して、ウォーターポンプで温水を循環して暖房を行います。
電動車の多くは後述のヒートポンプと組み合わせて使っていますが、エンジン車でも寒冷地の暖房促進用に利用している例があります。
ヒートポンプ
ヒートポンプは、気体を圧縮や膨張させると温度が変化するという性質を利用して、熱エネルギーを移動させる技術です。少ないエネルギーで冷熱源と温熱源を作ることができ、通常のヒーターに比べて高いエネルギー効率を得ることができます。
エンジンの駆動力や排熱を利用した冷暖房システムが使えない電動車PHEVやEVでは、ヒートポンプが使われています。
なお、作動原理の詳細については、別頁で解説します。
エンジンの熱効率の向上は、燃焼による発熱が有効に仕事に使われ、廃熱量が減少することを意味します。今後は、エンジンの廃熱が期待できない電動車がさらに増えます。
これらを背景に、エンジンを熱源とする現行のエアコンシステムとは違う、PTCやヒートポンプのような代替システムが、重要な役割を果たします。
■車のヒートポンプシステムとは
通常エンジン車の暖房は、エンジンの冷却水を熱源とする「温水暖房方式」を採用しています。一方で、エンジンの運転頻度が低い、あるいはエンジンを搭載しないPHEVやEVでは、PTCヒーターやヒートポンプが採用されています。
電動車用の冷暖房システムの主流として採用が進むヒートポンプについて、解説していきます。
ヒートポンプシステム
ヒートポンプは、気体を圧縮や膨張させると温度が変化するという性質を利用して、熱エネルギーを移動させる技術です。少ないエネルギーで冷熱源と温熱源を作ることができ、通常のヒーターに比べて高いエネルギー効率を得ることができます。
原理は、家庭用の冷暖房エアコンと同じです。熱交換器で外気の熱を冷媒で回収し、コンプレッサーで冷媒を圧縮して、熱を発生させて車室内を暖めます。一方で、車室内から回収した空気は減圧し、冷やして車外に放出します。圧縮でなく減圧すれば、冷房になります。
ヒートポンプの作動原理
ヒートポンプによる冷暖房システムの作動は、以下の通りです。
・暖房
コンプレッサーで圧縮された高圧高温のガス状冷媒は、コンデンサーに送られ通過する空気を暖めます。放熱して凝縮した冷媒は、暖房用絞りで低圧低温になります。その後、冷媒は室外熱交換器を通って外気から熱を受け取り、コンプレッサーに吸引されます。
・冷房
冷房の場合は、室内コンデンサーへの空気の流れを遮断するので、コンデンサーは熱交換せず単なる冷媒の通路です。コンプレッサーで圧縮された冷媒は、室外熱交換器で凝縮されます。その後、膨張弁を通過した冷媒は、低温低圧になりエバポレーターに進み、通過する空気を冷やします。
ヒートポンプのメリットと課題
ヒートポンプ以外のEV用暖房システムとしては、PTCヒーターがあります。
PTCヒーターは、半導体セラミックを発熱体にしたヒーターです。エアコンユニットにフィンを設けて搭載する空気ヒーターと、水を加熱して温水を循環させて暖房を行う温水ヒーターがあります。
速暖性や極低温特性については、PTCヒーター、特に空気PTCヒーターが優れています。ただし、大電流を流すので消費電力が大きく効率は低く、また安全対策が必要です。
一方、ヒートポンプの最大のメリットは、PTCヒーターより消費電力が少ない、航続距離の悪化が小さいことです。課題は、氷点下のような厳寒時には外気の熱を利用する構成上、暖房能力が低下することです。
ヒートポンプの実用例
販売されているEVやPHEVでは、一般的には温水PTCヒーターとヒートポンプを併用しています。ヒートポンプが機能しにくいマイナス温度の厳寒時には、まずPTCヒーターが起動し、車室内温度がある程度の温度に上昇するとヒートポンプに切り替わるように設定しています。
また追加の対応として、ステリングヒーターやシートヒーターを装備しています。
PTCヒーター
三菱アイミーブEVと日産リーフの初代は、暖房に温水PTCヒーターを使っていました。
当時は、ヒーターを付けると航続距離が極端に短くなるというクレームが多発しました。対応として、両モデルとも2012年以降PTCヒーターにヒートポンプシステムが追加されました。
EVやPHEVの暖房としては、温水PTCヒーターとヒートポンプの併用が主流です。航続距離の悪化を抑えるために、今後はヒートポンプだけで対応することが有望視されています。
そのために、マイナス温度下でも効率が維持できるヒートポンプシステムの改良が進められています。
■オートエアコンとは
冷暖房を効かしたい場合、多くのドライバーはオートエアコンを使います。オートエアコンは、車内外の変化に対応して吹き出し温度や風量を自動調整して車室内を快適にしてくれます。
ドライバーからエアコン操作の煩わしさを開放するオートエアコンの仕組みについて、解説していきます。
オートエアコンの基本
多くのドライバーは、冷暖房を入れるときにはオートエアコンのスイッチを入れて、目標温度を設定するだけではないでしょうか。
オートエアコンは、燃費への影響を最小限にするようにパワートレインも制御しながら、温度や風量、湿度などを管理します。また機能も充実しているので、一般的な寒暑の条件下では快適に運転できます。
ドライバーがマニュアル操作で調整するより、燃費については良い結果が出るはずです。
オートエアコンの基本制御
オートエアコンと言っても、その制御内容はメーカーや車によって異なります。どこまで自動制御にするかについては、車のコンセプトや車格などに応じてメーカーが決めます。
オートエアコンの基本は、吹き出し温度や風量、湿度の制御ですが、制御のために多くのセンサーを装備しています。
・車室内温度を検出する温度センサー
・窓ガラス近傍の湿度を検出する湿度センサー
・外気温度を検出する外気温センサー
・車室内に侵入する日射量を検出する日射センサー
・エバポレーターの能力を検出するエバポレーター温度センサー
エアコンECUはそれらの情報を使って、エアコンの吹き出し温度(エアミックスバルブの開度)や風量(エアブロアの回転)、コンプレッサーを制御して車室内の空調状態を最適化します。
その他の制御
基本的な制御以外にも、より快適な空調状態を目指してさまざまな制御を採用しています。
・内外気切り換え制御
通常は外気導入ですが、設定温度と目標温度の差が大きい場合は、効率の良い内気循環に切り換えて速冷速暖を行います。
・内気循環と外気導入の切り換え制御
渋滞に巻き込まれた等で、車室外の排ガス濃度が高いことを排気ガスセンサーが検出した場合には、内気循環に切り換えて外気からの排出ガスの進入を防止します。
・吹き出し口切り換え制御
吹き出し口制御では、夏季はFACEモード、冬季はFOOTモードにするのが基本です。赤外線センサーを使って乗員の温感を察知して、引き出し口を切り換える制御も一部で採用されています。
外気導入か内気循環か
マニュアル操作の場合は、換気ができて酸素濃度が下がらない(眠くならない)ことや、窓ガラスが曇りにくいなどを考慮して、メーカーは外気導入にすることを推奨しています。
一方で内気循環のメリットは、冷暖房が早く効く、車外の排出ガスや異臭、花粉などが侵入しにくい、僅かですが燃費が良くなることです。
オートエアコンでは、これらを考慮して内気循環と外気導入を自動で切り換えます。
現在車に求められているのは、低燃費と安全ですが、快適性についても従来にも増して高いレベルが求められています。
オートエアコンは、多くのセンサーを駆使して燃費と快適性の両立を図っています。快適性については多少の個人差がありますが、燃費重視ならオートエアコン任せの方が良いと思います。
■電動コンプレッサーとは
冷房時に冷媒を圧縮してエバポレーターに送るコンプレッサーは、エンジン駆動のため燃費悪化の一因となります。またエンジンの運転頻度が低い、あるいはエンジンが搭載されない電動車では、必然的にエンジンに頼らない電動コンプレッサーが必要です。
電動車とともに普及が進んでいる電動コンプレッサーの仕組みと機能について、解説していきます。
コンプレッサーの役目
コンプレッサーは、エアコンの冷媒を高温高圧に圧縮し、コンデンサーに送る役目をしています。
ベルトを介してエンジンで駆動し、エアコンスイッチと連動して電磁クラッチでON/OFF制御されます。夏場にエアコンの作動によって燃費が悪化するのは、このコンプレッサーの駆動損失のためです。
機構としては斜板式が主流ですが、ロータリー式やスクロール式などもあります。また、駆動損失を抑えるために、冷媒負荷に応じてコンプレッサーの容量を変える可変容量コンプレッサーも出現しています。
課題は、アイドルストップ車やHEVでアイドルストップ機構が働いている間、エンジン駆動のコンプレッサーでは冷房が効かないことです。
初期のハイブリッド車の欠点
HEVは、夏場の渋滞で車が停止すると、アイドルストップ機構によってエンジンも停止します。初期のHEVは、コンプレッサーがエンジン駆動だったのですぐに冷房が効かなくなりました。冷房が効かなくなると、それを検知してコンプレッサーを回すためにエンジンが始動します。
ユーザーにとって、冷房を効かすためにHEVの燃費ゲインが小さくなることは、大きな不満でした。
電動コンプレッサーの作動原理
電動コンプレッサーには、主としてスクロール式とロータリー式があります。ルームエアコンで主流のロータリー式は、構造が簡単で低コストです。一方のスクロール式は、静粛で効率が高い特徴があり、トヨタのHEVなどの電動車はスクロール式を採用しています。
ロータリー式は、ケーシング内のローターが回転することによって、ケーシングとローターの間の容積(圧縮室)が連続的に変化して、それによって気体を圧縮させる方式です。
スクロール式は、固定スクロールと可動スクロールで仕切られた空間の容積が回転することによって、連続的変化することを利用した方式です。
電動コンプレッサーの駆動方法
電動コンプレッサーは、コンプレッサー部とモーター部、それを駆動させるインバーター部で構成されます。小型軽量化や静粛性、耐熱性が求められていますが、特にHEVではエンジンが停止時に駆動するので静粛性が重要です。静粛性については、スクロールタイプが有利なので現在主流となっています。
コンプレッサーは、通常DCブラシレスモーターで駆動されます。モーターは、IGBTを使ったインバーターで制御されます。モーターとインバーター、コンプレッサーは一体構造にしてコンパクト化しています。
電動コンプレッサーのメリットは、コンプレッサーが自由に駆動できるので、快適性と燃費の両立が高いレベルで実現できることです。
今後システムコストが下がれば、効率の高いエアコンシステムとして電動車だけでなく、エンジン車でも普及する可能性があります。
■エアコン用環境センサーとは
快適な車室内空間を確保するオートエアコン制御には、さまざまなタイプの環境センサー情報が必要です。例えば、車室内の温度・湿度センサー、外気温センサー、日射センサー、排気ガスセンサー、赤外線センサーなどです。
それぞれのセンサーの役割と動作原理について、解説していきます。
どんなセンサーが必要か
エアコンの制御は、吹き出し温度や風量、湿度、吹き出し口切り換え、内気循環と外気導入の切り換えですが、制御のためには多くのセンサーが必要です。
・車室内温度を検出する温度センサー、湿度を検出する湿度センサー
・外気温度を検出する外気温センサー
・車室内に侵入する日射量を検出する日射センサー
・車室外の排ガス濃度を検出する排気ガスセンサー
・乗員の温感を非接触で検出する赤外線センサー
エアコンECUはそれらの情報を使って、エアコンの吹き出し温度(エアミックスバルブの開度)や風量(エアブロアの回転)、コンプレッサーを制御して車室内の空調状態を最適化します。
以降で、それぞれのセンサーの役割や検出原理について、解説します。
車室内温度センサーと湿度センサー
温度と湿度のセンサーは、通常一体化してステリングとセンターコンソールの間に装備されます。
温度センサーとしては、温度によって抵抗値が変化するサーミスタが使われます。
湿度の計測は、高分子感湿膜を使います。感湿膜が、水分量(湿度)によって可動イオンの遊離量が増減してインピーダンスが変化することを利用します。窓ガラスの曇り具合を検出する、ガラス搭載型の湿度センサーもあります。
外気温センサー
外気温を計測するには、温度センサーを走行風や直射日光、放射熱などの影響を受けにくい場所に取り付ける必要があります。通常は、フロントバンパー内にステーなどで浮かせてサーミスタの温度センサーを取り付けます。
日射センサー
日射センサーはダッシュボードの上に取り付けられ、日射量を検出して温度補正を行います。日射センサーは、光検出素子としてフォトダイオードが使われ、日射強度を電流として出力します。
排気ガスセンサー
オートエアコンでは、通常は換気の良い外気導入で作動します。ただし、渋滞に巻き込まれた等で車室外の排ガス濃度が高いことを排気ガスセンサーが検出した場合には、内気循環に切り換えて外気からの排気ガスの進入を防止します。
排気ガスセンサーは、ガス濃度で抵抗値が変化するガスセンサーを用いています。前方車からの排気ガスの影響を検出するため、フロントグリル背面に取り付けていることが多いです。
赤外線センサー
赤外線センサーは、物体から放射される赤外線を受光することによって、物体の表面温度を計測するセンサーです。物体から放射される赤外線エネルギーの熱を、熱電対の原理で電圧に変換して温度を計測します。
赤外線センサーを使って乗員の温感を察知して、引き出し口を切り換える制御が一部で採用されています。また、トヨタ・レクサスなどの高級車では、同時に6箇所の温度を計測できるマトリクス赤外線センサーを使って、後席各乗員の温感を察知して最適制御しています。
オートエアコンでは、より多くのセンサーを使えば、その分燃費と快適性の両立を高いレベルで達成できます。
最終的にはコストパフォーマンスなので、車のコンセプトや車格によって、環境センサーの数やエアコン制御の精度が決まってきます。
■車内空気の浄化とは
快適な車室内空間のためには、温度や湿度の管理とともに、きれいな空気質を維持することが重要です。車室内には、車外から排ガスや塵埃、花粉などが侵入し、また室内で発生するタバコや乗員の体臭などが問題となります。
商品力向上アイテムのひとつである車室内清浄手法について、解説していきます。
車室内空気質の悪化要因と清浄法
車室内の乗員を不快にする、あるいは健康を害する空気質には、車外から侵入してくるものと車室内で発生するもの、さらにエアコンユニット内で発生するものがあります。
車外から侵入してくるのは、排気ガスや塵埃、花粉などです。室内で発生するのは、タバコや乗員の体臭、内装部品からの有機成分などです。また、結露が発生しやすいエアコンシステムのエバポレーターは、カビや雑菌が発生しやすく、エアコン作動時に異臭を放つことがあります。
現在、一般的に採用されている空気清浄法としては、集塵や脱臭、抗菌・防カビなどの機能があります。以降で、それぞれの機能について、解説していきます。
集塵機能
塵埃や花粉などは、フィルタによって物理的に濾過します。花粉除去機能付きの車も多いですが、これはエアコンを内気循環にして花粉除去フィルタで濾過する方式です。
また、静電気によって排ガスやタバコなどの細かい粒子を除去する静電濾過方式も採用されています。粒子をイオナイザーで一旦マイナス帯電させ、プラスに帯電させた多層構造のフィルタが静電気の力で吸着する仕組みです。
除去する物質の粒子径
除去対象物質の粒子径は、タバコの煙やディーゼル排出ガス中の黒煙:0.01~0.5μm、PM2.5:1~2μm、花粉やカビ胞子:10~100μm、塵埃:100μm~です。
フィルタ性能が向上しているので、上記のほとんどの粒子を濾過して除去できます。
脱臭機能
フィルタに活性炭を入れて臭い成分を吸着させる方式が一般的です。また、臭気を酸化分解する光酸化触媒法やマイナスイオン発生器などが採用されています。
光酸化触媒は、光があたることで触媒作用が働き「OHラジカル」を発生します。OHラジカルの酸化分解力は強いので、さまざまな有害物質やタバコの臭いを除去します。清浄器やコーティング剤として採用されています。
抗菌・防カビ機能
プラズマクラスター・イオン発生器は、プラズマ放電によって活性酸素を発生させ、イオンによって抗菌や脱臭を行います。エアコンユニットに組み込み、エアコン吹き出し口からマイナスイオンのさわやかな空気を供給します。
冷房時には、エアコンのエバポレーターには結露が発生しやすく、条件によってはカビや雑菌が繁殖することがあります。この場合、エアコン作動時にカビの胞子を車室内にまき散らすことになり、異臭だけでなく、アレルギーや気管支の疾病の原因になります。
カビが発生すれば、簡単には除去できないので洗浄するしかありません。
酸素補給
酸素濃度コンディショナーは、酸素富化膜を利用して酸素を含む空気を吹き出し、車室内の酸素濃度の低下を抑えます。
車室内の空気質については、乗員に不快感を与えない、健康を害さないのは無論のこと、より高いレベルの快適性が求められています。
近いうちに、体に良い健康に良い車が、大きなアピールポイントになるかもしれません。
(Mr.ソラン)
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