車のブレーキとは? 種類と仕組み、回生ブレーキ・ABSなどを解説【自動車用語辞典】

■車のブレーキとは

走行中の車を減速し、停止させるのがブレーキ(制動装置)です。運転支援技術が進み、緊急時の自動ブレーキを搭載している車も増えていますが、あくまでも基本はドライバーがブレーキペダルを踏んで操作するフットブレーキです。

ブレーキの基本構成や最新の電子制御ブレーキについて、解説していきます。

ブレーキの種類

通常のブレーキは、車輪と一緒に回転するディスクやドラムに摩擦材を押し付け、摩擦力によって車を減速、停止させます。タイヤの運動エネルギーを摩擦熱に変換する装置です。

ブレーキ機構としては、上記の摩擦熱を利用するディスクブレーキやドラムブレーキのほか、回生ブレーキ、エンジンブレーキがあります。

回生ブレーキは、減速時やブレーキをかけたときに発電機(またはモーター)の回転抵抗を制動力として利用します。このときの発電機による発電量を、電気エネルギーとして回収します。

エンジンブレーキは、減速時に発生するエンジンのポンピング損失、フリクション(これらも熱に変換)を制動力として利用します。

また最近は、油圧制御でなく、電動化した電動ブレーキも出現しています。

ブレーキの基本システム

一般的なディスクブレーキやドラムブレーキのシステム構成は、以下の通りです。

ドライバーがブレーキペダルを踏み込むと、「ブレーキブースター(倍力装置)」によって踏力が数倍程度に増大されます。増大された踏力は、「マスターシリンダー」でブレーキ油圧に変換されて油圧制御回路へと進みます。ここからブレーキラインを介して、ブレーキ油圧が4つの駆動輪のブレーキ装置へ伝達されて制動が働きます。

ブレーキの基本構成
ブレーキの基本構成

ディスクブレーキとドラムブレーキ

一般に軽自動車や大衆車は前輪にディスクブレーキ、後輪にドラムブレーキを使用しています。高級車やスポーツ車はディスクブレーキ、大型車はドラムブレーキを使います。

ディスクブレーキは、車輪とともに回転するディスクローターをブレーキパッド(摩擦材)で両側から挟み込んで制動するシステムです。ブレーキパッドとローターの摩擦力によって、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されます。装置が直接外気に晒されているので、放熱性に優れています。

ドラムブレーキは、車輪とともに回転するブレーキドラムの内側に、摩擦材を貼ったブレーキシューを押し付けることによって制動するシステムです。ディスクブレーキよりも強い制動力を持ちますが、ドラムが装置を覆っているので熱がこもりやすい特性があります。

ディスクブレーキとドラムブレーキの構造
ディスクブレーキとドラムブレーキの構造

電子制御ブレーキ

走行中に急ブレーキをかけると、ディスクやドラムの回転が停止してタイヤが完全にロックする「タイヤロック」という現象が発生します。この状態だと、タイヤは滑っているだけで制動は機能せず、操舵能力も消失して非常に危険です。

このブレーキロックを防止するのが、ほとんどの車で搭載されているABS(アンチロックブレーキシステム)です。センサーが車輪のロックを検知したら、その車輪のブレーキ油圧を緩めることで車輪を再び回転させます。センサーが車輪のロックを検知したら、その車輪のブレーキ油圧を緩めることで車輪を再び回転させ、ロックが解消したらまたブレーキを踏み込む、いわゆるポンピングブレーキのような制御を行うのです。

その他ABSの進化版として、TCS(トラクションコントロール)やESC(横滑り防止装置)があります。

TCSは、滑って空転を始めた車輪にブレーキをかけることで空転を抑え、タイヤと路面の摩擦を復活させるシステムです。

装着が義務化されているESCは、高速走行中のハンドル操作やブレーキ操作による車の横滑りを防止するため、エンジンの出力制御とともに4輪のブレーキを独立制御します。

ブレーキは止まるだけでなく、走る、曲がるにも大きく関わり、車の統合制御の中心的な役割を担っています。

本章では、ブレーキ機構の基本からブレーキを個別に高精度制御するESCまで、詳細に解説しています。

■油圧ブレーキとは

ブレーキの基本は、ドライバーのブレーキペダル踏力を各車輪に適正に伝えることです。ほとんどの車が採用しているのは、軽い踏力でも大きな制動力が発揮でき、伝達効率に優れている油圧式です。

油圧ブレーキの作動原理について、解説していきます。

油圧ブレーキの基本システム

油圧ブレーキでは、ドライバーがブレーキペダルを踏み込むと、まず「ブレーキブースター(倍力装置)」によって踏力が数倍程度に増大されます。増大された踏力は、「マスターシリンダー」でブレーキ油圧に変換されて油圧制御回路へと進みます。ここからブレーキライン(ブレーキホース)を介して、ブレーキ油圧が4つの駆動輪のブレーキ装置へ伝達され、制動が働きます。

ブレーキには、万が一でもその機能を失うことのないように、油圧配管の2系統化が義務付けられています。配管を2系統の独立したブレーキ油圧システムとして、1つの系統が故障したときでも残りの系統で最小限のブレーキ性能を確保できるようにしています。

2系統式配管
2系統式配管

ブレーキブースターの構造と作動原理

ブレーキブースター(倍力装置)は、ブレーキペダルの踏力を軽くする倍力装置です。ブレーキペダルとマスターシリンダーの間に取り付けられ、ペダル操作と連動します。

乗用車のほとんどは、エンジンの吸気圧力(負圧)を倍力源にした負圧式です。ブレーキブースターの内部は、ダイヤフラムで負圧室と空気室に分かれています。負圧室には、エンジンの吸気マニホールドで発生する負圧が導かれて、空気室にはブレーキペダルを踏み込むと空気が流れ込むようになっています。

パワーピストンを挟んだ負圧と大気圧の圧力差がペダル踏力を高め、小さな踏力でもマスターシリンダーのピストンを押します。

負圧式ブレーキブースターには負圧が必要なので、エンジンが停止すると負圧が消失するためフットブレーキは徐々に重くなります。法規で規定されているので、エンジン停止後数回はブレーキが効くような仕組みになっています。

マスターバックの構造と作動
マスターバックの構造と作動

EVには電動ブースターも

ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンは、ブレーキブースターを機能させる十分な負圧が発生しないので、エンジン駆動や電動のバキュームポンプが使われています。エンジンが頻繁に停止するHEVやエンジンのないEVも同様ですが、ブレーキブースターそのものを電動化した電動ブースターも実用化されています。

マスターシリンダーの構造と作動原理

マスターシリンダーは、ブレーキブースターで増大された踏力をブレーキ油圧に変換する装置です。上部にはブレーキオイルのリザーバータンクがあり、マスターシリンダー内にオイルを供給します。

ブレーキペダルが踏み込まれてない状態では、ピストンはスプリングによって押し戻されて、上のリザーバータンクからブレーキオイルがシリンダー内に供給されます。ペダルが踏み込まれるとピストンが押されて、リザーバーからの通路が遮断されてオイルが昇圧されてブレーキ装置にブレーキ油圧が伝えられます。

万一のために配管は2系統

乗用車のほとんどがマスターシリンダーのピストンを2つ並べて、油圧室を2分割したタンデム式マスターシリンダーを採用しています。

先述の2系統式配管のために、それぞれに専用の油圧室を持たせるためです。万一故障してもこの方式だと、どちらかの油圧系統が機能します。

協調回生ブレーキの動作
協調回生ブレーキの動作

ブレーキに要求される性能は、レスポンス良く適正な制動力を4輪に配分して、ドライバーの意図する制動力を実現することです。これらを最も簡易に低コストで実現できるのが、油圧制御方式です。

■ディスクブレーキとドラムブレーキとは

フットブレーキとして一般的なのは、摩擦力によって制動するディスクブレーキとドラムブレーキです。

2方式の構造や特徴について、解説していきます。

ディスクブレーキとドラムブレーキ

ブレーキ機構としては、ディスクブレーキとドラムブレーキ、回生ブレーキ、エンジンブレーキなどがあります。この中でフットブレーキとして一般的なのは、ディスクブレーキとドラムブレーキです。いずれも車輪と一緒に回転するディスクやドラムに摩擦材を押し付けた摩擦力によって、車を減速、停止させます。

ディスブレーキは、ディスクローターを両側からディスクパッドで挟む構造です。一方ドラムブレーキは、ドラムの内側に表面が摩擦材になっているブレーキシューを押し付ける構造です。

軽自動車や大衆車は、前輪にディスクブレーキ、後輪にドラムブレーキを使用しています。高級車やスポーツ車はディスクブレーキ、大型車はドラムブレーキと大まかには棲み分けされています。

ディスクブレーキの作動原理

ディスクブレーキは、車輪とともに回転するディスクローターをブレーキパッド(摩擦材)で両側から挟み込んで制動するシステムです。ブレーキパッドとローターの摩擦力によって、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されます。

ブレーキパッドを押すピストンはブレーキ油圧で動き、ディスクに発生した摩擦熱はディスクの回転で冷やされるため、放熱性は比較的良好です。ドラムブレーキに比べて、フェード現象(熱による摩擦力の低下)が起こりにくい特徴があります。

ドラムブレーキの作動原理

ドラムブレーキは、車輪とともに回転するブレーキドラムの内側に、表面が摩擦材のブレーキシューを押し付けて制動するシステムです。ブレーキペダルを踏むと、ブレーキ油圧がシューを外側に押し付け、制動力が発生します。

ドラムブレーキは、「自己倍力作用」があるのでディスクブレーキよりも強い制動力を発揮します。

摩擦を生み出す部分がドラムの中にあるので、摩擦を発生する面積は広いですが放熱性が良くありません。放熱性が悪いと、ドラム自体が熱膨張して摩擦材との間に隙間が発生して制動力が低下します。

自己倍力作用

ドラムに押し付けられたブレーキシューは、摩擦でライニング(摩擦材)の部分が引きずられて一緒に回ろうとします。しかし、ブレーキシュー自体は支点で固定されているので、より外側に開こうとしてますますブレーキが効くようになります。

これが、ドラムブレーキの特徴である自己倍力作用です。

電動化や自動運転の開発が進む中で、ブレーキにも電動化の動きが活発化しています。電動ブレーキでは、モーターによってブレーキ油圧を発生させ制御しますが、制動装置についてはこれまで通り、ディスク方式とドラム方式が使われることに変わりはありません。

■回生ブレーキとは

HEVやPHEV、EVなど電動車は、制動エネルギーを電気エネルギーとして回収する回生ブレーキシステムによって、燃費向上やEV航続距離の延長を実現しています。

電動車の制動システム、回生ブレーキの仕組みや効果について、解説していきます。

回生ブレーキ

通常の油圧ブレーキは、車輪と一緒に回転するディスクやドラムに摩擦材を押し付け、摩擦力によって車を減速、停止させます。制動エネルギーを摩擦熱に変換しています。

モーター/発電機を搭載している電動車は、制動エネルギーを電気に変換する回生ブレーキを活用します。回生ブレーキでは、減速時やブレーキをかけたときにモーター/発電機の回転抵抗を制動力として利用します。このとき発電機で発生する電気量は、車載電池を充電することによって回収されます。

電池に充電された電気エネルギーは、走行中に燃費向上やEVの航続距離延長のために再利用されます。

通常のエンジン車でも、オルターネーター(発電機)を使って減速時に少量ながら回生を行っています。回生量が小さいため、燃費改善効果は限定的です。

モーターは発電機にもなる

モーターは、可逆の電気機械変換器なので発電機としても使えます。通常は動力源として使いますが、ブレーキをかけたいときには発電機として作動させます。発電するときには回転抵抗が発生するため、これを制動力として利用しながら回転エネルギーを電気エネルギーに変換して回収するのです。

協調回生ブレーキ

一般的には回生ブレーキだけで必要な制動力を確保するのは難しいので、通常の油圧ブレーキの制動力と組み合わせた協調回生が行われます。

協調回生ブレーキの基本的な作動原理は、以下の通りです。

減速(アクセルペダルから足を離す)直後は、弱めの回生ブレーキをかけます。その後、ドライバーがペダルをブレーキに踏み替えると、踏み込み速度や量から要求制動力を決定します。このとき、燃費を良くするためにできる限り回生ブレーキを効かせた上で、不足分を油圧ブレーキで補い要求された制動力を実現します。

協調回生ブレーキの動作
協調回生ブレーキの動作

ブレーキ・バイ・ワイヤ

電動車の多くは、ブレーキペダルの操作とブレーキ作動が機械的でなく、電気的につながっている「ブレーキ・バイ・ワイヤ」システムを採用しています。

ブレーキ・バイ・ワイヤでは、ブレーキペダルの開度センサーの情報を使って、モーターによって油圧を発生させ、制御することによって制動力を働かせます。

回生ブレーキとの協調性が高く、またABS(アンチロックブレーキシステム)やESC(横滑り防止装置)などと融合しやすいというメリットがあります。

ワンペダル回生制御

日産・リーフで採用しているワンペダル「e-ペダル」は、アクセル操作だけで発進から加減速、停止までを制御するユニークなシステムです。

アクセルを戻すと、強い回生ブレーキによってブレーキペダルを踏んだときと同等の減速感を実現します。停止後は、油圧ブレーキによって停止状態を保持します。

ストップ・アンド・ゴーが多い渋滞などでは、ペダルの踏み替えの必要がなく、運転の負担は軽減されます。ただし、独特の減速フィーリングに違和感を感じる人が多いかもしれません。

ブレーキが単なる「止まる」という役目だけでなく、通常走行時に安全に走る、良好な燃費で走るというように、その役目が拡大されつつあります。

ブレーキによって燃費を良くするという発想から、回生ブレーキは生まれてきました。

■電動ブレーキとは

一般的な油圧ブレーキシステムは、ペダルの踏力を油圧に変換して、油圧制御によって制動力を発生させます。電動車や運転支援技術の実用化にともない、ブレーキを電動化する電動ブレーキの採用が進んでいます。

電動ブレーキの取り組みについて、解説していきます。

電動ブレーキ

EVやPHEV、HEVなど電動車では、燃費やEV航続距離を延ばすために制動エネルギーを回収する回生ブレーキを使います。ただし、回生ブレーキだけではドライバーの要求制動力を確保できないため、不足分は従来の油圧ブレーキで補填する協調回生制御を行います。

回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を高精度に協調制御するためには、応答性の高い油圧制御機構が必要です。電動ブレーキブースターでは、従来のエンジン負圧を利用した負圧式ブレーキブースターの代わりに、応答性の高いモーターを使ってマスターシリンダーのピストンをストロークさせて油圧制御をします。

電動ブレーキブースター

電動ブレーキブースターは、マスターシリンダーのストロークをアシストするタイプもありますが、多くは「ブレーキ・バイ・ワイヤ方式」で、ペダルとは独立してモーターによってマスターシリンダーのピストンを直接ストロークさせます。

まず、ブレーキペダルに取り付けたストロークセンサーから得られる信号から、車載モーターによる回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を決めて、油圧ブレーキの制御油圧を決定します。次に、ピストンストローク駆動部のモーターが、減速機構を介してボールねじを回転させます。ボールねじが回転することでピストンがストロークして、目標とするブレーキ油圧を発生します。

このとき、油圧ブレーキによる制動を極力小さくして、モーターによるブレーキ回生によって制動することによって、最大限の電気エネルギーを回収します。

電動ブレーキブースターの機能不良対応

電動ブレーキブースターでは、通常はブレーキペダルとマスターシリンダーが機械的につながってないブレーキ・バイ・ワイヤ方式です。ただし万一の機能不良に備えて、フェイルセーフ用にブレーキペダルとマスターシリンダーが直接つながる経路も用意しています。

電動ブレーキブースターの構成
電動ブレーキブースターの構成
電動ブレーキと回生ブレーキの協調制御
電動ブレーキと回生ブレーキの協調制御

電気ブレーキ

油圧をまったく使わないのが電気ブレーキです。キャリパーの中にモーターと遊星ローラーを組み込み、モーターによって直接ブレーキパッドを押し付けて制動します。先の電動ブレーキブースターに比べてさらに応答性は向上しますが、現時点は小型化と低コスト化が課題です。

電気ブレーキでは、十分な制動力を確保するにはモーターが大きくなり、コストも高くなります。現在、マイルドHEVのために欧州メーカーが取り組んでいる電源電圧48V化が拡大すれば、モーターの軽量小型化と大きな制動力が実現できるので、電気ブレーキが急伸する可能性があります。

運転支援技術の中でも、最も基本的な自動緊急ブレーキシステムが多くの車で採用されています。自動緊急ブレーキに要求されるのは、応答性の高さと安全性です。それゆえ、ブレーキの電動化が進むのは自然の流れです。

■ABS(アンチロックブレーキシステム)とは

急ブレーキや滑りやすい路面でブレーキをかけると、タイヤがロックして制動力や操舵性が機能しなくなり非常に危険です。このタイヤロックを回避するのが、ABS(アンチロックブレーキシステム)です。

安全走行のための基本的な装置であるABSの仕組みや効果について、解説していきます。

ABSの必要性

走行中の車が制動力を発揮するためには、タイヤの回転が適正に制御されなければいけません。例えば、雪や氷、雨などによって滑りやすくなった路面を走行する場合、強くブレーキペダルを踏み込むとすぐにタイヤがロックしてスリップしてしまいます。

制動中に「タイヤロック」するとタイヤが回転しなくなり、路上をスリップするだけで制動力も操舵性も機能しなくなります。車はそれまで進んできた方向にスリップしながら進むだけです。後輪だけロックするとスピンしてしまいます。

このようなタイヤロック状態を回避するためには、ドライバーはいったんブレーキを緩めてタイヤを回転させ、ロックが解消したらまたブレーキを踏み込む、いわゆるポンピングブレーキをする必要があります。

ABSの役目

ポンピングブレーキは、車の挙動をみながらペダルの踏み込み量を調整する必要があるため、普通のドライバーにとっては簡単ではありません。このポンピングを自動で行うのが、ABSの役目です。

ABSが機能すると、タイヤのグリップ力が弱まることなく制動力が回復し、操舵機能が保持できるので車を安定して制御できます。車のスリップを意識することなくブレーキペダルを踏んでも、ロックすることなく安全に減速しながら車を制御できます。

急ブレーキ時の挙動比較(ABS有無)
急ブレーキ時の挙動比較(ABS有無)
急ブレーキ中の車体減速加速度の挙動
急ブレーキ中の車体減速加速度の挙動

ABSが装備されているからといって、必ずしも制動停止距離が短縮されるわけではないことを認識しておく必要があります。多くの場合、制動停止距離を短縮する効果もありますが、砂利道や未舗装路、新雪の道路などでは逆に制動停止距離が延びることがあります。

ABSの構成

ABSは、コントロールユニットと油圧制御用アクチュエーター、各車輪の回転速度センサーで構成されています。

回転速度センサーは、各タイヤのスリップ率を算出します。

アクチュエーターは、マスターシリンダーとホイールシリンダーの配管途中に取り付けられます。内蔵のソレノイドバルブによって、各タイヤの回転速度センサー(タイヤロック状況)の情報に応じて、油圧の増減(ポンピング)を行います。

具体的な作動は、次のようになります。

急ブレーキ(ブレーキペダルを強く踏み込む) → タイヤスリップ検知(タイヤの回転減少) → アクチェーターによって制御油圧の減圧(制動力低下) → 制御油圧の増圧(制動力強化)

この制御油圧の減増を瞬時(数ミリ秒)に繰り返して(ポンピング)、タイヤロックすることなく安定した制動が実現されます。

ABSの基本構成
ABSの基本構成

ABSを正しく作動させるためには

ABSは、通常のブレーキでは作動せず、相当強く踏み込まないと作動しません。したがって、ABSの作動を実感したことのある人は意外と少ないかもしれません。ABSが作動しているときには、ペダルや車体にガクガクした振動やガガガガといった作動音が発生します。

振動や作動音がしても、そのままブレーキペダルを強く踏み続け、ハンドル操作に集中することが大切です。

今やほとんどの車がABSを装備しており、非装着車が多かった頃のように「急ブレーキ時にはポンピングブレーキをしましょう」という指導は、教習所でも積極的にはしていないようです。

ドライビングテクニックによらず安全が確保できることは非常に良いことですが、最低限車の機能を理解しておくことは重要だと思います。

■ESC(横滑り防止装置)とは

ブレーキ制御の中で、もっとも高度で重要な役割を担っているのがESC(横滑り防止装置)です。車両の横滑りを防ぐだけでなく、4輪を個別に制動させることによってさまざまな運転支援技術にも応用されています。

車の安全にとって不可欠で、搭載が義務化されているESCについて、解説していきます。

ESC

ESCは、「ABS(アンチロックブレーキシステム)」と「TCS(トラクションコントロールシステム)」、「ヨー制御」の3つの技術を組み合わせた横滑り防止システムです。

ABSとは、急ブレーキや滑りやすい路面でのブレーキ時に発生するタイヤロックを回避するために、4輪独立でブレーキ制御するシステムです。またTCSは、滑って空転を始めた車輪にブレーキをかけることで空転を抑え、タイヤと路面の摩擦を復活させるシステムです。

ESCは、このABSとTCSの機能を進化させて、ヨーレート(回転角速度)センサーなどの情報によってコーナリング中のアンダーステアやオーバーステアを検出して、車がより安定化するように制御します。

ESCの作動メカニズム

ESCは、制御油圧を作り出すモーターと電動油圧ユニット、エンジンECU、各種センサーで構成されます。センサーとしては、4輪の回転を検出する車輪速センサーや各種の操舵情報(ステアリングの操舵角や操作量、操作速さなど)を検出する操舵角センサー、車両のヨーレートと横方向の加速度を検出するヨーレートセンサーなどです。

ステアリングの操舵角の変化とそれに対するヨーレートと横加速度の大きさの変化を常時比較しながら、運転操作に見合った車の走行姿勢が保たれているかを判断します。

もし、ドライバーの運転操作と車の挙動が一致しない場合は、エンジンのスロットル弁を閉じてエンジン出力を抑えて、4輪のブレーキを制御して車の姿勢を安定させます。

オーバーステアによるスピンの回避やアンダーステアの回避、雪路など滑りやすい路面での安定走行などに大きな効果を発揮します。

ESC制御例

ESCは、旋回中のアンダーステアとオーバーステアを以下のように回避します。

ステアリングを切っても車が外に振られて、思い通りに旋回できないのがアンダーステアです。ESCでは旋回内側後輪のブレーキ制御圧を高めて旋回モーメントを発生させて修正します。

一方、旋回力が強すぎるオーバーステアの場合、ESCで旋回外側前輪のブレーキ制御圧を高めて反対方向の旋回モーメントを発生させてスピンを回避します。

ESCによる車体姿勢の安定化
ESCによる車体姿勢の安定化
ESC制御の流れ
ESC制御の流れ

ESCの応用

ESCのベースとなっている電動油圧ユニットは、運転支援技術の自動緊急ブレーキ(AEB)や追従機能付クルーズコントロール(ACC)の制動制御に適用されています。さらに、上り坂走行支援機能(坂道発進支援機能)や下り坂走行支援機能にも使われています。

登り坂走行支援は、坂道発進するときにブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えた瞬間に一時的にブレーキをかけて後退を防止する機能です。また下り坂走行機能は、滑りやすい路面の下り坂を走行するときに自動的にブレーキをかけて、スリップを防止しながら5km/h程度の低速で走行する機能です。

ESC搭載によって、単独事故の発生率が30~40%も減少すると報告されています。欧米の普及を追従する形で、日本でも搭載が義務化されました。

ESCは、ABSとTCSの進化版であり、現在実用化が進んでいる運転支援にとって、最も重要な技術のひとつとして位置づけられており、今後もさらなる進化が期待できます。

■電動パーキングブレーキ(EPB)とは

通常の駐車ブレーキは、手動でワイヤーを引っ張って制動を保持しますが、中・上級車の一部にはモーターを使った電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake)を採用しているモデルもあります。

自動ブレーキや自動運転の普及とともに、小型車や軽自動車でも採用が広がると予想される電動パーキングブレーキの仕組みとメリットについて、解説していきます。

電動パーキングブレーキ

通常の駐車ブレーキは、手動で手元のレバーやペダルを操作して、その力でワイヤーを引張り、後輪(あるいは前輪)を制動保持します。

電動パーキングブレーキは、モーターでワイヤーを引っ張るなどして制動を保持するシステムで、手元スイッチ操作だけで簡便に車の制動保持と解除ができます。

電動パーキングブレーキにすれば、手元の操作レバーや足元の専用ペダルをなくすことができ、デザイン性や機能性を高めることができます。

電動パーキングブレーキの仕組み

電動パーキングブレーキシステムは、2001年にBMWの上級セダンで初めて採用されました。これは、車室内のモーターからワイヤを引っ張る方式でしたが、その後さまざまなシステムが実用化されています。

モーターでケーブルもしくはレバーを直接引っ張る方式や、ディスクブレーキのキャリパーをモーターで操作する、あるいはドラムブレーキのシューをモーターで操作する方式が採用されています。

当初の大きな課題は、従来の駐車ブレーキシステムの3~5倍程度かかるコストでした。現在は、コストは徐々に下がり、軽自動車でも採用する車が出現し始めました。

電動パーキングブレーキ(電動駐車ブレーキ)例
電動パーキングブレーキ(電動駐車ブレーキ)例

電動パーキングブレーキの必要性

電動パーキングブレーキに注目が集まっているのは、利便性だけでなく、現在開発が進んでいる自動ブレーキや運転支援技術と関係があります。それらを支える技術として、電動駐車ブレーキシステムが必要なのです。

自動ブレーキ作動時に電動パーキングブレーキが必要な理由は、坂道での後退防止です。坂道で衝突回避のために自動ブレーキで停止した場合、ブレーキ力を保持しないと坂道で車が後退してしまいます。

また、運転支援技術(自動運転)にも、電動パーキングブレーキが必要です。

高度な運転支援技術や自動運転では、アクセル、ステアリング、ブレーキ操作を支援します。信号待ちや渋滞などで停止した場合、自動ブレーキで使う油圧式ブレーキの保持時間は3分程度が限界です。熱の問題で長期のブレーキ圧の保持が難しいため、電動パーキングブレーキのサポートが必要です。

全車速対応ACCへの電動パーキングブレーキ搭載

停止も含めた、渋滞走行などにも対応できる全車速対応のACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を採用する車が登場してきています。全速度対応のACCには、電動駐車ブレーキの搭載が必須となります。

自動ブレーキや運転支援技術、自動運転を進めるにあたり、電動パーキングブレーキの採用は必須であり、今後普及が進むと予想されます。現在の中・上級車の限られた採用から、小型車、軽自動車へと採用が拡大しています。

(Mr.ソラン)

クリッカー自動車用語辞典 https://clicccar.com/glossary/