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■ダカールラリー2020の2輪部門をホンダCRF450RALLYが制覇!
●2013年に復帰してから8年目にして悲願の優勝
2020年1月17日に2週間の戦いを終えたダカールラリー2020での二輪部門で、ホンダが見事に総合優勝を果たしたニュースは皆さんもご存知でしょう。
ダカールラリーにおいて、かつてホンダは四連覇(1986〜1989年)を果たすなど圧倒的な強さを誇っていましたが、1989年をもって撤退。その後、2013年に24年ぶりに復帰しました。
かつて常勝を誇っていたホンダだけに、復帰すれば優勝するのにさほど時間はかからないのではないか、と思われていました。ところが実際は、2013年から2019年まで7位、5位、2位、4位、5位、2位、5位という最上位を記録するに止まり、ライバルであるKTMの18連覇を許してしまっていたのでした。
ファンは「いつホンダは勝つんだ!?」とヤキモキしていましたが、2020年、ついに溜飲を下げることとなりました。ホンダは5名のライダーを擁して臨み、アメリカ・カリフォルニア州出身のリッキー・ブラベック選手がついに総合優勝を獲得したのです。ホンダとっては、じつに31年ぶりの栄冠となりました。
●CRF450RALLYは45kW以上の450cc単気筒エンジン搭載
2020年の二輪部門の頂点に立ったマシンは、CRF450RALLYです。
レギュレーションによって、エンジンは単気筒のみ(2020年から)、排気量は450ccに制限されています。CRF450RALLYのエンジンは水冷DOHCでボア×ストロークは97.0×60.8mm、最高出力は45kW以上。潤滑油はMotul 300V、トランスミッションは6速です。
サスペンションストロークの長さは圧巻! フロントはストローク量310mm、リヤは315mmとなっており、長身の外国人選手が乗っても爪先がツンツン立ちになるほどです。メーカーはショーワです。
ブレーキはフロント側がディスク径300mmの2ピストンキャリパー、リヤ側がディスク径240mmの1ピストンキャリパー。
燃料タンク容量は33.7L。素材はプラスチック製で、フロント側とリヤ側の2箇所に分かれて配置されています。
外装はカーボンファイバー製がメイン。空力性能もダカールラリーでは重要な要素となります。
スイングアームは合志技研製。
バイザー内側に設けられた、2本の芯棒並ぶ箱状のステーは、ロードブックを取り付けるためのもの。マシンにGPSは装着されているのですが、それはあくまで選手の安全管理のためのもの。ライダーはA5版サイズの巻物状の地図を頼りに、ゴールを目指すのです。
●事前情報なしで臨んだ初のサウジ開催
ダカールラリーの現場で采配を振るっていたのは、本田太一HRCチーム代表です。先日開催された取材会では、本田さんがダカールラリーを振り返ってくれました。ホンダは今年、どのようにして戦いに臨んだのか? そして、なぜ勝つことができたのか? 本田さんの言葉に耳を傾けてみましょう。
「私は1996年に入社してからは、2サイクルエンジンのCR(モトクロスバイク)の開発から始まり、4サイクルエンジンの開発を経て、量産開発・レース開発をやってきました。ダカールラリーには2013年にホンダが復活した時から関わっていますから、今年で8回目でした」
「8年前に始めた時は、モトクロスの感覚ですぐに勝てるのではないかと思っていましたが、甘くはなかったですね。モトクロスは極端なことを言うと、バイクの性能がある程度良くてライダーのスキルがあれば、タイトルは取りやすいんです。ただ、ダカールラリーは、それだけでは足りません。2週間走り切る耐久性と、ラリーを2週間戦う上での運営など、要素が多いのがモトクロスとは違うところです」
「ダカールラリーはこれまでアフリカ大陸、南米大陸で行われてきたのですが、今回、初めてサウジアラビアでの開催となりました。が、サウジアラビアについて、チームには事前の情報がまったくありませんでした」
「ビザが発行されないなどラリーの前から不安な部分があったのですが、実際にサウジアラビアに入ると、事前のイメージとはまったく異なり、非常に開かれた国であったことに驚きました。南米開催の頃は言葉や食べ物の問題があったのですが、そうしたこともありませんでしたね」
●徹底したマシンの熱対策が功を奏した
「ラリー自体は走行距離が2000kmも伸びました。ライダーも大変でしたし、アシスタンスも移動する距離が8000kmくらいあって、タフな2週間でしたね」
「ダカールラリーに復帰した2013年は、CRF450Xをモディファイして参加しました。その結果、見た目でわかるほど遅かった。これは全面改良しなければならないということで作られたのが、現在のCRF450RALLYです。今年のマシンは基本骨格は同じ、大きく変更しているというより熟成の範囲で熱対策を行ないました。去年のペルーが非常に暑かったんです。サウジアラビアに行ってみると思ったよりも気温は上がりませんでしたが、その辺については準備をしてきてよかったな、と思いました」
「ただ、ラリーに関しては、問題点をいくら解決して臨んでいても、毎年何かしらのトラブルが出てしまうのが実情です。昨年、ペルーで行われた大会は『砂の大会』と呼ばれるほど(全体の7割が砂漠や砂丘だった)でしたが、総合首位だったリッキー(ブラベック)がエンジントラブルで止まってしまいました」
「今年はその問題も解決したつもりでしたが、いざラリーが始まってみると、ステージの距離が長く路面も変化に富んでおり、前半で1台が壊れてしまいました。このままトラブルが連鎖のように続くのではないかと不安になりました」
「そんな中、リッキーに助けられましたね。去年からさらにライダーとしての能力が上がっていて、その日の調子やライバルの状況に合わせて走るという計算高い走りをしてくれました」
●ラリーで勝つには事前の準備がすべて!
「ラリーで勝つには、準備をどれだけするかが重要…いや、それがすべてですね。準備がしっかりとできていなかった年もありましたが、なんとなく不安に思っていることがあると、本番でそれがどうしても出てしまうんです、不思議なことに。それはマシンだけでなく、ライダーも運営もそうです。そうした不安をなくすという意味でも、この1年間はしっかりと準備ができていたと思います」
「ただ、1台エンジンが壊れたり、もう1台壊れそうだったエンジンを交換してペナルティをもらったりという問題もあったので、それを真摯に受け止めて、来年(2021年)のダカールラリーに向けてしっかりと準備をしていきたいと思っています」
「ホンダの中でのレース活動は、人を育てるという意味でも重要な活動としてとらえられています。ダカールラリーを8年間ずっとやっているのは、私の他にはもう一人のエンジニアだけですが、彼は大きく変わりましたね。負けた時に悔しい、どうしたら勝てるかと言うことをずっと考えて、アイデアや図面が急激に変わりました。それを積み重ねてきて、8回目で勝って、やってきたことは間違っていなかったと自覚して、モチベーションはすごく高いです。これはどのカテゴリーに行っても、違うことをやることになっても生きてくると思います」
(長野達郎)