テレビCMでご存じの方も多いことだと思いますが、2018年の上半期にもっとも売れた登録車が日産のノートです。そのノート人気のけん引役となっているのがノートe-POWERです。ノートe-POWERはエンジンで発電した電気を使って、モーターを駆動するシリーズハイブリッド方式のクルマです。
ノートe-POWERには、走りのポテンシャルを高めたノートe-POWER NISMOが用意されています。ノートe-POWER NISMOは標準モデルのe-POWERに加えて、アンダーフロアにクロスバーやメンバーステーを追加することで高いボディ剛性を確保しています。この基本骨格はそのままに、モーターやエンジンをさらにチューニングし走りのポテンシャルをアップしたモデルがノートe-POWER NISMO Sです。
モーターは従来の80kW から+25%の出力向上となる100kWにアップ。トルクも+26%となる320Nmにアップされています。このモーターの強化にともないエンジンも58kWから61kWにチューニングされました。インバーター、VCM(ヴィークルコントロールモジュール)、LBC(リチウムイオンバッテリーコンピュータ)もリセッティングされています。
従来のNISMOではドライブモードと走行レンジの組み合わせは4種類でした。走行モードは通常モードである「Dモード」と積極的に回生ブレーキを働かせる「Bモード」の2つの走行モードがあり、「Dモード」には、ノーマル、S、ECOの3つの走行レンジを用意、「Bモード」はノーマルレンジのみという設定でした。
NISMO Sでは「Bモード」でもSとECOの2つの走行レンジが使えるようになりました。NISMOではD-Sがもっともスポーティな組み合わせでしたが、ニスモSではB-Sがもっともスポーティな組み合わせとなります。B-Sではエンジンが停止しづらくするようになっていて、強い加速を得られるセッティングとなっています。
試乗を行ったのは日産自動車の追浜テストコースに隣接するグランドライブという施設です。かつてはテストコースとして使われていたクローズドコースでの試乗です。
NISMO Sに乗ってストレートで一度クルマを完全停止させて、スタンディングスタートを行いました。走行モード&レンジはもっともスポーティなB-Sです。アクセルペダルを床まで一気に踏み込むと、かなり力強い加速を得られます。ニスモのDモード-Sレンジでは発進時のタイヤグリップに余裕が感じられましたが、ニスモSのB-Sではタイヤグリップはかなり限界に近い印象です。40km/h程度までは、若干の縦方向の滑り感を感じながらのフル加速となりました。
そのままアクセルを緩めると回生ブレーキを使った強い減速感を得ることができ、イージーな1ペダルドライブが可能です。ロールが強く発生するコーナリング中にアクセルをあおると、強めのトルクステアを感じます。エンジン車ではなかなか体験できない感覚でしょう。D-Sモードで同じ操作を行いましたがトルクステアの発生は緩やかで、奇しくもB-Sモードのリニアなトルクカーブを証明する事象でした。
加速もよく、回生ブレーキの強さも得られるB-Sモードはスラローム走行でもそのポテンシャルを発揮します。アクセルペダルをゆるめてフロント荷重となったときにステアリングを切り込めばより効率的にフロントタイヤはグリップし、クルマが向きを変えます。その後の再加速も強いもので、スラロームはかなり気持ちのいいものでした。また、S字コーナーでのコーナリングも安定感のあるものです。
ノートe-POWER NISMOもスポーティで楽しいクルマでしたが、NISMO Sは確実にその上をいきます。この現象、国産ホットハッチの逆襲と言っても過言ではないでしょう。大出力エンジンに頼らないホットハッチは、まさに日本ならではのテクノロジーがいかされた秀逸なモデルと言えます。
ニスモSの価格は267万1920円。ニスモよりも約20万円アップの価格となります。どちらを選ぶかはユーザーの価値観ですが、走りを楽しみたいなら、間違いなくニスモSがおすすめ。20万円アップの価格には、LEDヘッドライトの標準化も含まれています。試乗車に装着されていたレカロシートはオプションとなっています。
(文・諸星陽一/写真・前田恵介)