世の中ドリフトブーム? クルマCMにドリフトシーンが多用されるワケは?

古くはアメリカの映画やドラマのカーチェイスシーンで、追っ手のパトカーの追跡から、交差点を華麗なドリフト走行で駆け抜けるチョイ悪ヒーローの走りを見て「あー、あんな風にクルマを走らせたらカッコイイな」と思ったかたも多いでしょう。

しかし、数年前まで、自動車メーカーは「ドリフト走行」に対してネガティブな反応というより絶対禁止でした。特に広告などでは「もってのほか!」の扱いでした。

某FRのスポーツデートカーの試乗会が筑波サーキットで行われた時、あるジャーナリストがドリフト走行を試していたのを見たエンジニア氏が「ドリフトさせたら遅いのにね」と皮肉っぽくつぶやいていたのを覚えています。その個人のかたではなく、メーカー全体がクルマの楽しみ方の多様性に気付いてなかったのでしょう。

ところが、AE86を主役に据えたドリフト漫画「頭文字(イニシャル)D」のヒットから、FRスポーツカー「トヨタ86/スバルBRZ」の発売以来でしょう、ドリフトをメーカーが認めるものになってきました。

余談ですが、先日のトヨタGRの発表会でも、豊田章男社長は華麗なドリフトを見せてくれました。

激しくクイックな動きではありませんが、スピンしそうになったらそれ以上は無理せず最小のスピンで車両を止める、ドリフトが戻ってしまったらそこでのドリフトは諦めて体制を立て直しすぐに次のドリフトに挑むなど、ぜったいに危険な領域まではやらない、というのが見てわかる超大企業の経営トップらしいドリフトでした。

そうなってくると日本人の気質でしょうか、急に「ドリフトOK」、「ドリフトかっこいい」な風潮になってきました。

FRが多いレクサスでもプロモーションムービー、CMなどでドリフトは多用されるようになってきました。

特に、発売されたばかりのスイフト・スポーツのCMは、ドリフト走行が魅力的であると明らかに表現したCMです。

前出のイニDタッチな漫画風の路面上に限ってドリフト走行している実写の絵を重ねています。

本来、ドリフト走行のかっこよさは、パワーがありすぎるクルマの駆動を伝える後輪がそのパワーを路面に伝えきれず、前輪より先に行こうとすることから滑ってしまいテールスライドの現象だと思いますが、FF(前輪駆動)のスイスポでもそのクルマのかっこよさとして表現に使われているのが衝撃的です。

また、海外では、こちらなエンジンも後ろに積んだ後輪駆動「ルノー・トゥインゴ」のPVにドリフトが取り入れられています。

こちらは史上最年少の有名ドリフターとして知られるリサ・カリスちゃんが華麗なドリフトを決めてくれます。ただし、操っているのは電動ペダルカーですが。

今週末には、日本発で世界初のFIA公認ドリフト世界選手権、「インターナショナル・ドリフティング・カップ(IDC)」も開催されます。

欧州のスーパーカー、プレミアムスポーツカーにも、ドライブモードの中に「ドリフトモード」を採用するのがトレンドになってきています。

自動車メーカー各社は「思い通りに走れるクルマ」が良いクルマだとして開発しているのはいうまでもありませんが、この自分のコントロール下にある乗り物を走らせる、移動する、というのがクルマの最大の魅力なのではないでしょうか。

その部分を外さないクルマ作りを、クルマ好きとしては自動車メーカーには期待したいところです。

(clicccar編集長 小林 和久)

【関連リンク】
インターナショナル・ドリフティング・カップ
http://fiadriftingcup.com/2017/

【関連動画】
トゥインゴメイキングムービー

 

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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