今季のD1GPは、昨年のチャンピオンと一昨年のチャンピオンが、ふたりともマシンを変更してきたことが大きな注目ポイントのひとつです。
2015年のチャンピオン川畑選手を擁するTOYO TIRES GLION TRUST RACINGは、これまでもニッサンGT-Rを走らせてきましたが、今季はより軽量化し、D1に特化させたGT-Rを投入してきました。
そして2016年のチャンピオン齋藤選手は、シボレー・コルベットにチューンドエンジンを載せたマシンをデビューさせました。
まったくタイプの異なるこの2台ですが、ユニークなところに共通点がありました。それは、フロントブレーキのディスクローターが妙にちゃち……いえいえコンパクトだということです。
川畑選手のGT-Rのほうは軽自動車用のディスクローターだそうです。「ついてんのか?」っていうくらい小径です。
そして、齋藤選手のコルベットのほうは、ドラッグレース車両などに使われるディスクローターだそうです。「バイク用か?」っていうくらい薄っぺらです。
写真を見たクルマ好きのひとはちょっと不安になるのではないでしょうか? そう。これ、公道を走る普通のクルマではやっちゃいけません。
齋藤選手のマシンは750ps。川畑選手のマシンは900ps。スポーツカーというのは「走る」「曲がる」「止まる」の3要素が優れていなくてはいけません。スピードが出るからには、高性能なブレーキを持っていることも、スポーツカーには不可欠な要素のひとつです(まぁ、スポーツカーに乗ってたって、のんびりしか走らないよっていうひとには大丈夫かもしれないけど)。
では、なんでよりによってD1GPのトップに君臨するこの2台のブレーキが、こんなにコンパクトでいいのか? それは、ドリフトにおいては、ブレーキはあまり重要じゃないからです。
ドリフトは真っ直ぐ走って真っ直ぐ止まるわけじゃありません。真っ直ぐ加速したとしても、そこからコーナーに入って旋回していくわけです。もちろん旋回していくためには減速が必要ですが、その減速は、クルマを横に向けることと、アクセルを踏んでコーナーに向かって進んでいくことでおもに実現しているのです。
たとえば90度のコーナーでも、ドリフトの場合、コーナーに入っていってからの車体の向きは90度以上になることはおわかりになりますよね。そういう感じでアクセルを踏むことが減速みたいな効果になるわけです。
ドリフトの場合でも、あるていどのフットブレーキは必要ですが、使うのはそれほど長い時間ではありません。しかも、フロントタイヤに荷重を移すために使うという場合も多く、周回しながらハードブレーキングを繰り返すグリップ走行と比べると、ブレーキの負担は非常に少ないのです。そこで、川畑車、斎藤車ともに、重量を軽減するために小型で薄いディスクローターを使っているわけです。
とはいえ、見てのとおり2台ともキャリパーは立派なものがついているし、川畑選手の車両などは初期制動力の高いパッドを使っているので、ふつうに乗るくらいなら問題ない制動力があるそうです。
実は、ほかのD1車を見てみても、タイムアタック仕様や周回レース仕様のような大型のフロントブレーキを装着している車両は少なくて、ホイール径と比べるとだいぶコンパクトなディスクローターだったり、ノーマルの片持ちキャリパーだったりして、クルマのほかの部分のハードチューンっぷりと比べると、だいぶライトなブレーキのマシンが多くなっています。
川畑選手と齋藤選手のマシンは特に極端に見えますが、小型のフロントブレーキというのは現代のD1マシンの常識となっているのかもしれません。
さて、この2台は、4月1日(土)、2日(日)の2日間、東京お台場の特設コースで行われた、D1GP 2017年シリーズの第1戦と第2戦でデビューしました。
齋藤選手のマシンはまだ熟成不足で第1戦が15位。第2戦は予選敗退。川畑選手は第1戦が攻めすぎによるミスでベスト8敗退。第2戦がデフのトラブルで準決勝リタイヤという結果になりました。
第1戦の優勝は藤野秀之選手。
第2戦の優勝は、その藤野選手を準決勝で破った横井昌志選手でした。
(まめ蔵・写真提供:サンプロス)
【関連リンク】
D1GP第1戦の模様は4月26日発売の『D1GPオフィシャルDVD Round1 お台場』に収録。
D1GP第2戦の模様は5月26日発売予定の『D1GPオフィシャルDVD Round2 お台場』に収録されます。