トヨタ「セルシオ」デビュー。メルセデス・ベンツやBMWに対抗してトヨタが世界市場に放った大型高級サルーン【今日は何の日?10月9日】

■レクサスブランドの初モデルLS400を「セルシオ」として国内へ投入

1989年デビューのセルシオ、米国でのレクサスLS400を国内で販売(弊社刊「シリーズ 第76弾 セルシオのすべて」より)
1989年デビューのセルシオ、米国でのレクサスLS400を国内で販売(弊社刊「シリーズ 第76弾 セルシオのすべて」より)

1989(平成元)年10月9日、トヨタはクラウンよりもさらに上級の大型高級サルーン「セルシオ」を発売しました。

セルシオは、その1ヶ月前に米国で立ち上げた高級車ブランド“レクサス”の設立に合わせて発売された「レクサスLS400」を、日本仕様にして投入したモデルです。


●海外向け高級車ブランドとして、ホンダ“アキュラ”に続いて“レクサス”を設立

日本市場がバブル景気で絶好調だった1986年、ホンダが米国で高級車ブランド“アキュラ”を立ち上げると、1989年にはトヨタが“レクサス”、日産自動車が“インフィニティ”と、海外への高級車ブランド展開が続きました。小型車の成功で世界を席巻した日本車ですが、“安くて丈夫”といったかつてのイメージを払しょくするには、高級ブランドの立ち上げが必要だったのです。

レクサスの開業は、メルセデス・ベンツやBMWに対抗して高級車市場に参入するためであり、レクサスの車づくりは、それまでのトヨタ車とは一線を画し、すべての製造過程の加工精度を上げ、エクステリアの特別な塗装はもとより、インテリアも厳選された高級素材を使用し、国内モデルとは異質なものでした。

レクサスの設立と同時に発売されたのが「レクサスLS400」であり、その1ヶ月後にLS400は日本仕様にした「セルシオ」の車名で日本に投入されたのです。

●高級欧州車市場をターゲットにした大型高級サルーンのセルシオ

セルシオは、クラウンでは満足できなかったユーザーに、「センチュリー」と「クラウン」の中間に位置する超高級車を提供するのが狙いでした。そのため、特に欧米の高級車に負けない質感や乗り心地、静粛性が重視されました。

1989年デビューのセルシオの走り、輝きを放つボディ(弊社刊「シリーズ 第76弾 セルシオのすべて」より)
1989年デビューのセルシオの走り、輝きを放つボディ(弊社刊「シリーズ 第76弾 セルシオのすべて」より)

高級車らしい重厚なスタイリングと鏡面のような輝きを放つボディ、豪華なインテリア。パワートレインは、最高出力260PS/最大トルク36.0kgmを発揮する新開発の4.0L V8 DOHCエンジンと、最新仕様のETC-i制御4速ATの組み合わせでした。

足回りは4輪ダブルウィッシュボーンで、標準モデルにはコイルスプリング式、上級モデルにはダンパーの減衰力を自動調整できるピエゾTEMSを組み込み、さらにフラッグシップモデルには電子制御式エアサスペンションを採用して、超高級車らしい快適な乗り心地を実現しました。

セルシオの豪華なインテリア
セルシオの豪華なインテリア

車両価格は、455万円(A仕様)/530万円(B仕様)/550万円(C仕様)/620万円(C仕様Fパッケージ)。ちなみに、当時の大卒の初任給は16.4万円(現在は約23万円)程度でした。

セルシオは、メルセデス・ベンツやBMWの高級車と競合できる初めての国内モデルとして大きな注目を集め、国内でも大変な人気を記録。最も売れたのは、600万円を超えるフラッグシップ仕様でしたが、それでも欧州高級車に比べればコストパフォーマンスに優れ、お買い得と言えました。

●日産からは、ライバルのインフィニティQ45がデビュー

1989年にデビューしたインフィニティ Q45
1989年にデビューしたインフィニティ Q45

1989年の同じ年にインフィニティブランドを立ち上げた日産も、セルシオに対抗する大型高級サルーン「インフィニティQ45」を発売。“ジャパン・オリジナル”をコンセプトに、グリルレスの個性的なフロントマスクや、見る角度によって色合いが変わる“トワイライトカラー”、優しく包み込むような曲線基調の室内空間によって、セルシオに負けない高級感と質感を実現しました。

レクサスを上回る最高出力280PS/最大トルク40.8kgmの4.5L V8 DOHCエンジンを搭載して、動力性能やスポーティさで優れていたインフィニティQ45でしたが、セルシオの重厚なスタイリングや静粛性、高級車らしい乗り心地には敵わず、販売面では苦戦しました。


セルシオは、世界の高級車市場に打って出て、トヨタのイメージを“丈夫で燃費が良い大衆車を作る”から、“信頼性の高い高級車も作れる“へと、大きく変えた貴重な車だったのです。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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