ヤマハe-バイク「YPJ」のオフロード系3モデルそれぞれの魅力を、一気乗りで探ってみた

■「YPJ-MTプロ」「YPJ-XC」「ワバッシュRT」を試乗

スポーティな乗り味と抜群のアシスト力を持つヤマハ発動機(以下、ヤマハ)のe-バイク(スポーツ電動アシスト自転車)「YPJ」シリーズ。オンロード向けからオフロード向けまで、豊富なラインアップを誇りますが、特に最近注目なのがオフロードの3モデル。

ワバッシュRTの走り
ワバッシュRTの走り

フラッグシップの「YPJ-MTプロ(YPJ-MT Pro)」には、より熟成が重ねられた2023年モデルが登場しましたし、エントリー向けE-MTB(電動アシスト式MTB)として根強い人気を誇る「YPJ-XC」には、スタイリッシュなカラーの「ファイナルエディション」も発売されています。

また、2022年に発売された「ワバッシュRT(WABASH RT)」は、北米を中心に盛り上がりをみせているグラベルバイクという新しいスタイルを取り入れた新感覚モデル。

いずれも、近年盛り上がっているアウトドア・ブームにマッチしたモデルばかりですが、それぞれにどんな特徴があり、どんなユーザーに最適なのでしょうか? MTB専用コースで一気乗りして、各モデルの魅力を探ってみました。

●オンロードも楽しい「ワバッシュRT」

まずは、ワバッシュRT。見た目は、どちらかといえばロードバイクで、MTBタイプの他2モデルと違い、サスペンションも付いていません。ただ、普通のロードバイクと違い、ブロックパターンが付いた太めのタイヤ(700×45Cサイズ)を装着。荒地でも地面をしっかりとグリップするオフロードの快適性と、オンロードの軽快さを兼ね備えているといいます。

ヤマハ・ワバッシュRT
ヤマハ・ワバッシュRT

ハンドルも、ロードバイクのドロップハンドルとちょっと違います。下部がハの字型に広がった形状のフレアハンドルを呼ばれるタイプを装着しています。

これは、オンロードやフラットなオフロードなどをクルージングをするときなどには、ハンドル上部を持つことでゆったりとしたポジションを実現。一方、林道・砂利道などの荒れた未舗装路では、広がったハンドル下側を持つことでフロントを抑え込みしやすく、良好なコントロール性や安定性を得られるといいます。

ワバッシュRTのハンドル
ワバッシュRTのハンドル

実際に、今回の試乗でも、フラットな砂利道を走るときは、ハンドル上部を持てば、上体を支えやすく、ロングランでも疲れにくい感じがしました。また、下り坂やコーナーなどでは、ハンドル下側を持つことで、車体のコントロールがしやすくなりましたね。

ただし、このモデルには、前述の通り、サスペンションがないこともあり、砂利道の下りコーナーにあるギャップなどをある程度の速度で通過しようとすると、前後輪が滑りやすい傾向にあります。

ワバッシュRTのドライブトレイン
ワバッシュRTのドライブトレイン

ただし、オンロードやフラットなダートで、景色を眺めながらのんびり走るときなどは、3モデル中では最も大径で細いタイヤを採用していることもあり、とてもスムーズで快適。オフロードをギンギンに走るのではなく、あくまでクルージングを楽しむことに適したモデルだといえるでしょう。

ちなみに、このモデルのドライブユニットには、ヤマハYPJシリーズで初採用の「PWシリーズST」を搭載。初心者から経験豊富なライダーまで、またオンロードでもオフロードでも、上質なアシストを提供する最新型のドライブユニットです。

このドライブユニットを使ったアシストで最も印象的だったのが、急な登り坂での発進時。ペダルをかなり強く踏み込んでも後輪が空転することなく、しっかりとしたトラクションを発揮したことです。登り坂でのこうしたアシストは、ライダーの疲労をかなり軽減してくれます。

まさに、オンロードはもちろん、オフロードのさまざまな路面状況下で常に快適なライディングを提供してくれるモデルだといえます。

●本格的なオフロード走行を堪能できる「YPJ-MTプロ」

お次は、YPJ-MTプロ。YPJシリーズのフラッグシップで、オフロードを走るための本格的装備が満載のE-MTBモデルです。

ヤマハ・YPJ-MTプロ
ヤマハ・YPJ-MTプロ

大きな特徴は、車体剛性と最適な重量バランスを両立する独自の「ヤマハ・デュアル・ツインフレーム」を採用すること。また、さまざまな状況下で高い安定性とエキサイティングな走りに貢献する前後サスペンションを装備するなどで、オフロードでの冒険的なライドを楽しみたいライダーに最適なモデルに仕上がっています。

その2023年モデルでは、より軽量コンパクトになった新型ドライブユニット「PW-X3」を搭載。フロントサスペンションには、アウターケースの剛性をさらに高めた「ROCKSHOX LYRIK SELECT」を装備したほか、ドライブトレインを11速変速から12速変速に変更。

スイッチ&メーターには、よりコンパクトでシンプルな表示となった新設計の「ディスプレイEX」を装備することで、よりライディングに集中できる仕様となっています。

YPJ-MTプロのフロントサスペンション
YPJ-MTプロのフロントサスペンション

このモデルでは、激しいアップダウンや下りのスラロームがあるコースを走ってみましたが、さすがに前後サスペンションがあるだけに、ギャップを越えるときなどの安定性はピカイチ。

また、滑りやすい未舗装路でペダルを漕いで加速する際、リヤサスが適度に沈み込みトラクションを掛けてくれるので、後輪が空転しづらく、心地良い加速感も味わえます。

YPJ-MTプロの走り
YPJ-MTプロの走り

さらに、よりパワフルになった新型ドライブユニットは、特に急な坂をのぼる際に威力を発揮。絶妙で力強いアシスト力と相まって、人力だと降りて押さなければならないほどの急坂でも、軽々とペダルを扱いて楽に走れます。

林道やクロスカントリーはもちろん、本格的なMTBコースでも、抜群の走破性をみせてくれるのがこのモデル。まさに、オフロードを走るために生まれてきたような特性により、さまざまな場所で、いろんな冒険ライドを楽しめるモデルだといえるでしょう。

●オフロード初心者にも扱いやすい軽さが魅力の「YPJ-XC」

最後は、YPJ-XC。こちらもE-MTBモデルですが、本格的装備を持つYPJ-MTプロとの違いは、どちらかとえいば、オフロード走行などを楽しみたいエントリーユーザーなどに向けて開発されたモデルだということ。

ヤマハ・YPJ-XCファイナルエディション
ヤマハ・YPJ-XCファイナルエディション

パワフルでクイックなアシスト性能を発揮するドライブユニット「PW-X」や、悪路での高い路面追従性を発揮するフロントサスペンションなどにより、ハードなオフロード走行から郊外などへのロングライド、街中での普段使いなど、幅広いシーンで軽快な走りを楽しめることが特徴です。

なお、今回試乗したYPJ-XCファイナルエディションは、このモデルが生産終了となることでリリースされた最終モデルです。

基本的な装備はそのままに、カラーリングなどを変更。「マットソリッドグレー」のフレームカラーや、ダウンチューブに「YAMAHA」のビッグロゴを施すなどで、アウトドアはもちろん、普段の街乗りで着るファションにもマッチする絶妙なカラーリングを採用しています。

YPJ-XCファイナルエディションには、フレーム下に「YAMAHA」のビッグロゴも配する
YPJ-XCファイナルエディションには、フレーム下に「YAMAHA」
のビッグロゴも配する

実際の試乗では、急なアップダウンが連続し、立木が並ぶ細い林道のようなコースを走ってみました。乗り味で特に印象的だったのが、車体の軽さ。大きい段差を下るときや、ギャップを越える際などに、車体がとてもコントロールしやすいのです。

また、コーナーを旋回するときも、倒し込みや取り回しがとても楽ですし、思い通りのラインをトレースすることが可能です。

YPJ-XCの走り
YPJ-XCの走り

この軽さは、かなりの武器。特にオフロード走行に慣れていない初心者などには、とても車体が扱いやすいであろうことが予想できます。実際に、YPJ-XCの車両重量は21.3kg〜21.4kg。本格的E-MTBのYPJ-MTプロが23.3kg〜23.7kgですから、数値上は2kg程度軽くなっています。

もちろん、たとえば、前後サスペンションがあるYPJ-MTプロの方が、滑りやす路面で後輪のトラクションをかけやすいなど、特にハードなオフロードでは走破性に差も出るでしょう。

ただしYPJ-XCも、フロントサスペンションが絶妙に路面のショックを吸収してくれるなどで、林道などなら走りは軽快。エントリーモデルながら、なかなかの高いポテンシャルを持つことを実感できました。

●アシストモードや航続距離の違い

今回試乗した3モデルが搭載するドライブユニットの定格出力は、YPJ-MTプロが250Wで、YPJ-XCとワバッシュRTは240W。やはり最もパワフルなのはYPJ-MTプロですね。

YPJ-MTプロのドライブユニット
YPJ-MTプロのドライブユニット

また、バッテリーは、YPJ-MTプロとワバッシュRTが36V-13.1Ahのリチウムイオン電池、YPJ-XCには36V/13.3Ahリチウムイオン電池を搭載。YPJ-XCは外付けタイプ、ほかの2モデルは、最近のトレンドであるフレーム内蔵タイプになっています。

さらに、これら3モデルは、それぞれ路面状況などに応じてアシスト力を変えられるアシストモードを備え、それによって1充電あたりの航続距離も変わってきます。各モデルが持つアシストモード(強さ順)と、航続距離は以下の通りです。

【アシストモードと1充電あたりの走行距離】
●YPJ-MTプロ
「EXPW(エクストラパワーモード)」 73km
「HIGH(ハイモード)」 78km
「STD(スタンダードモード)」 95km
「ECO(エコモード)」 132km
「A(オートマチックアシストモード)」 88km(HIGH/STD/ECOを自動切り替え)
「+ECO(プラスエコモード)」 196km
※「アシストオフ」も設定

●YPJ-XC
「EXPW(エクストラパワーモード)」 89km
「HIGH(ハイモード)」 97km
「STD(スタンダードモード)」 114km
「ECO(エコモード)」 157km
「+ECO(プラスエコモード)」 244km
※「アシストオフ」も設定

●ワバッシュRT
「HIGH(ハイモード)」 85km
「STD(スタンダードモード)」 101km
「ECO(エコモード)」 137km
「A(オートマチックアシストモード)」 96km(HIGH/STD/ECOを自動切り替え)
「+ECO(プラスエコモード)」 200km

YPJ-XCファイナルエディションのドライブユニット
YPJ-XCファイナルエディションのドライブユニット

YPJ-MTプロとYPJ-XCには、アシスト力が最強となる「EXPWモード」を持つことで、オフロードでの急な登り坂などでも、かなり楽に走ることができます。

一方で、YPJ-MTプロとワバッシュRTで注目なのは「Aモード」。これは「HIGH」/「STD」/「ECO」といった3モードを自動で切り替えてくれる機能です。平坦路ではアシストを抑え、急な坂道ではパワーを高めるなど、走行状況や路面などに応じ細かいアシスト制御をオートで行ってくれます。

そして、この機能がなかなか秀逸。走行中にアシスト力を変更する手間が省けることで、ライディングに集中することができます。特に、YPJ-MTプロでかなりハードなオフロードをハイスピードで走る際は、ハンドルやブレーキ、ギアシフトなどの操作に忙殺される場合もあるので、とっても心強い機能です。

ワバッシュRTのドライブユニット
ワバッシュRTのドライブユニット

また、ワバッシュRTでも、平坦だけれどアップダウンもあるようななダートなどでは、バイクが自らアシスト力を変えてくれますから、とっても楽です。近年注目されているオン/オフのロングランでの速さなどを競うグラベルレースから、周囲の景色などを眺めながら走るクルージングまで、常に軽快に走ることが可能です。

そして、YPJ-XCで注目なのが、各アシストモードでかなり長い航続距離を実現していること。特に「+ECOモード」では、244kmもの距離を連続してアシスト力が働いてくれます。ワバッシュRTでも「+ECOモード」で200kmを実現。これら2モデルは、自宅から郊外のアウトドアまで走るロングツーリングにも最適だということがよく分かります。

●3モデルをオートバイに例えると?

最後に、オートバイ好きの筆者は、今回試乗した3モデルの性格は、どんなオートバイに似ているのかを、独断と偏見も交えて考えてみました。

YPJ-MTプロの走り
YPJ-MTプロの走り

まず、どんなハードなオフロードでも高い走破性を体感できるYPJ-MTプロは、まるで市販モトクロッサー的なモデルだといえるでしょう。ただし、競技専用の市販モトクロッサーで公道は走れません。一方のYPJ-MTプロは、一般道の走行もOKですから、より幅広いフィールドで楽しめるモデルだといえます。

また、YPJ-XCは、125ccなど軽い車体を持つ、ナンバー付きオフロード市販車といった感じではないでしょうか。特に、YPJ-XCファイナルエディションは、ファッショナブルなカラーを採用することで、街乗りにもベストマッチ。

通勤・通学や買い物などの普段使いから、休日のアウトドアまで幅広く使え、しかもその軽い車体は、オフロードの初心者にも優しい。その意味で、さまざまな道や、いろんなスキルのライダーに対応する、かなり懐が深いモデルだといえます。

YPJ-XCの走り
YPJ-XCの走り

そして、ワバッシュRT。今回試乗した3モデルの中で、最もオンロードやフラットなオフロードを快適に走れることで、近年人気のアドベンチャーバイクに近いような気がします。

また、バッテリーを内蔵するヤマハ次世代デザインフレームの採用により、すっきりしたフォルムも魅力的。こちらも、街乗りから休日のクルージングまで、さまざまなシーンで楽しめるモデルだといえます。

YPJ-MTプロ 30thアニバーサリー
YPJ-MTプロ 30thアニバーサリー

なお、3モデルの価格(税込)は、

・ワバッシュRT 43万8900円
・YPJ-XCファイナルエディション 43万5600円
・YPJ-MTプロ 74万8000円

以上となっています。

YPJ-MTプロには、ヤマハが電動アシスト自転車を商品化してから、2023年で30年を迎えることを記念した30台の限定モデル「YPJ-MTプロ 30thアニバーサリー(YPJ-MT Pro 30th ANNIVERSARY)」が、2023年7月31日(月)に発売予定です。

ハイポリッシュシルバーの「Factory Silver」というカラーや、フレームのトップチューブに30周年記念エンブレムなどを施した特別仕様車で、こちらの価格(税込)は75万9000円に設定されています。

(文:平塚 直樹/写真:堤 晋一)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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