三菱の最高級車「デボネア」発表。クラウンより20万円高い125万円で発売され、後に“走るシーラカンス”と呼ばれることに【今日は何の日?5月26日】

■長く三菱の最高級車として君臨し続けたデボネア誕生

1964年に誕生した三菱の最高級車・初代デボネア
1964年に誕生した三菱の最高級車・初代デボネア

1964(昭和39)年のこの日5月26日、三菱(当時は三菱重工)の「デボネア」が7月の発売を前に、発表されました。

「トヨペットクラウン」や日産「セドリック」に対抗した三菱の最高級車でしたが、残念ながら三菱グループ幹部のためのショーファーカーの域から脱することはできませんでした。


●アメ車風の斬新なスタイリングで最高級車デボネア誕生

1960年代初頭の三菱重工は、本格的に自動車事業に参入し、すでに軽の「ミニカ」、大衆車の「三菱500」「コルト600 & 1000」を市場に投入していました。

デボネアが目指したのは、トヨタの「トヨペットクラウン」や日産自動車「セドリック/グロリア」に対抗できる最高級車、会社の幹部や政府の要人が運転手付きで乗るようなショーファーカーでした。

初代デボネアは、ボンネットとテールの両サイドにエッジを立てたアメ車風スタイリングが特徴
初代デボネアは、ボンネットとテールの両サイドにエッジを立てたアメ車風スタイリングが特徴

注目されたのは、元GMの設計者がデザインした斬新なアメ車風スタイルで、ボンネットとテールの両サイドにエッジを立て、太いフロントバンパーに広いフロントグリルを併せ持った豪華さ。パワートレインは、2.0L 直6 OHVエンジンと4MT(後に3ATを追加)の組み合わせ、車両価格はクラウンより20万円高い125万円に設定されました。

その斬新なスタイリングから、道を走れば確実に注目される存在でしたが、残念ながらトヨタと日産が主導する高級車市場で存在感を示すことはできませんでした。その後、22年間ほぼそのまま、基本設計やデザインを変えずに販売されたことから“走るシーラカンス”と称されました。

●2代目は「デボネアV」にはシガライター連動の変わった装備が

デボネアV
デボネアV

そして、1986年には2代目となる「デボネアV」が登場します。最高級FFパーソナルセダンとなり、車名に追加された「V」は、VIPなどを意味します。

デボネアV
デボネアV

新開発されたV型6気筒エンジンには、吸気慣性を利用した超速吸気システムなどを採用するなどして、高級車らしい走りを実現しました。

デボネアV
デボネアV

高級車にふさわしいユニークな装備では、国産車初の、ドアの開閉に連動してステアリングホイールが上がり、乗り降りを容易にするハイチルト機構。シガーライターをオンにすると自動的に強制排気装置が働いて室内のタバコの煙を車外に排出するエアコンの機能も取り入れました。さらに、受話器を持たずに通話ができるハンドフリーのカーテレフォンを、国産車で初めてオプション設定されます。

そして、ドイツのチューニングメーカーの名門、AMG社とタイアップした「3000ロイヤルAMG」は、話題を呼びました。

●3代目はサイズ拡大しACCの元となるハイテク装備など満載の高級車へ

3代目デボネア
3代目デボネア

1992年、「デボネアV」はフルモデルチェンジして、再び車名は「デボネア」に戻ります。3代目は2代目に比べ、ボディサイズを全長で+110mm、全幅は+90mmと大幅に拡大しました。

3代目デボネア
3代目デボネア

ハイテク装備では、現在のACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)に繋がるような、レーザービームで前車との車間距離を測定し、近づくと警報やATをシフトダウン制御する乗用車世界初のディスタンスウォーニング。現在では当たり前の後退時リヤビューモニター。

80_02いわゆるイージークロージャーと呼ばれるドアやトランクリッドを軽く閉めるだけで完全に閉まるアクティブパワーロック。キーレスエントリーにより、シート、ヘッドレスト、ミラー、ステアリングなどポジションを自動再現する三菱インテリジェントコクピットシステム(MICS)などが採用されました。また、当時流行した用語「ファジィ制御」を取り入れたパワートレイン制御システム「INVECS」採用されました。

1999年には、デボネアの後継車が登場。35年間でデボネアの車名は幕を閉じるのでした。

●デボネアの後を継いだプラウディア/ディグニティ

デボネアの後を継いで2000年に登場したプラウディア/ディグニティは、当時資本提携していた現代自動車との共同開発で生まれたFF駆動の最高級車セダンで、自慢の広々とした後席スペースがアピールポイントのひとつでした。

高級車らしい快適性と静粛性のために、安全強化ボディRISEの採用やSRSエアバッグ(前席、助手席、前席サイド、後席サイド)、足回り、シートなど、最高級仕様を選定。パワートレインは、280PSを発揮する4.5L V8 DOHCと240PSの3.5L V6 DOHCの、いずれもGDI(筒内噴射)2種エンジンと5速ATの組み合わせです。

2000年にデビューしたディグニティ。プラウディアのリムジンタイプ
2000年にデビューしたディグニティ。プラウディアのリムジンタイプ

兄弟車のディグニティは、ホイールベースを250mm(全長は285mm)延長したリムジンタイプで、秋篠宮家の公用車として使用されたことで、注目されました。

しかし、デボネア同様に三菱グループ幹部のためのショーファーカーとしての役目が中心で市場に浸透することはなく、僅か1年余りで1228台、そのうちディグニティは59台の販売台数で生産を終えたのです。

●2代目は、日産フーガとシーマのOEM供給で復活

2012年にデビューした2代目プラウディア。日産フーガのOEM供給車
2012年にデビューした2代目プラウディア。日産フーガのOEM供給車

初代プラウディア/ディグニティの生産終了から11年を経て、2012年に2代目が復活。2代目は、プラウディアが日産自動車の「フーガ」、ディグニティは「シーマ」のOEM供給モデルとなりました。

プラウディアのエンジンは、2.5L(VQ25HR)と3.7L V6 DOHC(VQ37VHR)の2種で、ディグニティには3.5L V6エンジンに68PSのモーターを組み合わせたハイブリッドを設定。しかし、本家のフーガとシーマとの違いは、グリルとエンブレム、ホイールキャップぐらいなので、プラウディア/ディグニティ自体の存在感をアピールすることなく、2016年には販売を終えました。


デボネアとプラウディアは、三菱グループの幹部専用のクルマとして長く生産されてきました。一般ユーザーへのアピールを、ほとんどしなかった不思議なモデルでした。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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