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■増岡浩総監督の元、タイ〜カンボジアのAXCR(アジアクロスカントリーラリー)にトライトンで参戦
『ラリーアート』が久しぶりにクロスカントリーラリーの舞台に帰ってきます。
三菱自動車が技術支援する『チーム三菱ラリーアート』が、今年11月21日から26日にタイ~カンボジアで開催されるアジアクロスカントリーラリー2022(以下AXCR)に、ピックアップのトライトン3台体制で参戦します。
総監督は過去、ダカールラリーに21回参戦し、2002年、2003年と総合2連覇を達成した増岡浩氏。AXCRを前に、国内テストで使用していた先行試験車両に同乗したり、増岡総監督から話を聞ける試乗会が開催されたので行ってきました。
●グラベルも砂漠も制してきた三菱のモータースポーツ
1967年のサザンクロスラリーにコルト1000Fで参戦するところから、三菱車の海外ラリーへの挑戦が始まります。そして、72年にアンドリュー・コーワン選手がギャランに乗り、このラリーで三菱の海外ラリー初となる総合優勝を獲得しました。
その後81年に「チームラリーアート」としてランサーで参戦。そしてスタリオン4WDラリーで4WDの技術向上を図りました。
同時期に参戦し始めたのがパリ・ダカールラリー(以降ダカールラリー)。83年の第5回大会で市販車無改造クラスにパジェロで参戦。アンドリュー・コーワン選手のドライブで見事クラス優勝し、エンジン、ミッションなど主要部品の交換が許されないマラソンクラスでも優勝。
ここからパジェロの快進撃が始まり、3年目には日本車初となる総合優勝、さらに市販車改造クラス、市販車無改造クラス/マラソンクラスでもプライベーターのパジェロが優勝し、「三菱=砂漠の王者」として世界中に知られるようになりました。
増岡氏がダカールラリーに参戦したのが87年の第9回大会。ジャン・トッド氏率いるプジョー・スポールがWRCのグループBマシンを持ち込み、一気に高速化が進んだ大会で、増岡選手は初参戦ながら2度のSSトップを獲るなど大活躍。その後90年代は市販車改造クラスのマシンで2度のクラス優勝、総合でも上位に食い込む好成績を収めました。
ラリー専用のプロトマシンではなく、市販車をベースとしたマシンで走り続けることで、市販車の信頼性、耐久性、悪路走破性の高さを証明しながら、ダカールラリーを「走る実験室」としてデータを取り、市販車へフィードバックしながら三菱4WDの性能を向上させていきました。
増岡氏は、オフロードに三菱車の新たな轍をつけ、切り拓いていったアンドリュー・コーワン選手とともに走り、その思いを受け継ぎ、三菱のモータースポーツ活動の中心的人物となります。
そして2012年からパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムにEVで参戦。モーターやバッテリーなど量産初の市販電気自動車である『i-MiEV』のコンポーネントを使用し、3モーターで4WD化した『i-MiEV Evolution』を増岡選手がステアリングを握って挑戦しました。以降4モーターの4WDにし、3回目の参戦で、EV改造クラスワンツーフィニッシュを飾りました。
こうして量産技術をモータースポーツの現場で鍛え、市販車へフィードバックをしてきた増岡氏が総監督となって挑むAXCR2022のマシンも、市販車をベースとしたトライトンです。
●日本とタイで約1400km走行テストをしながら鍛えた
ヨーロッパやアフリカ、南米と国際ラリーの現場ではよくお会いしていた増岡氏と久しぶりに日本でお会いしました。増岡氏は「今まで挑んできた三菱のモータースポーツを若手社員に継いでいってもらうためにも、今回の活動はとても有意義です」と言います。
ランサーエボリューションでWRCを、パジェロでダカールラリーを何度も制覇してきた『ラリーの三菱』の伝統を、ラリーアートのブランドとともに次世代へつなぐ。増岡氏は「パイクスピークのときは、20代のエンジニアがシステムを担当し、新しいアイデアでマシンを速くすることはもちろん、電動化技術を大幅に向上させてくれました」と。
今回のトライトンのラリーマシン開発で増岡氏は当初より関わり、システム実験部の小出一登氏とともに鍛えていきました。
増岡氏は「十勝の約1kmテストコースを、2日かけて小出と2人で600周走ったりもしました。フラットダートが最後には50cmくらいの深い轍になるほどでした」と過酷なテスト状況を振り返ります。
タイでも耐久試験を行い、800kmを走りながらAXCR2022の舞台となるタイ、カンボジアに多い泥ねい路や渡河など対応すべく、防水対策を施します。
私もAXCRは2回参戦していますが、ボンネットまで沈むほどの深さの渡河や、まるで田んぼのような泥ねい路で苦労しました。通常は雨季の8月に開催されますが、今年は11月と乾季なので突然のスコールでルートが突然、川になるようなことはないと思います。しかし現在、カンボジアでは8月に大雨の影響で洪水があり、今もその影響があり予断を許さない状況です。
●応答性のいいトライトン。まさしくスポーツピックアップ
さて、この過酷なラリーに向けた先行試験車両に同乗試乗させてもらいます。ドライバーは小出氏。内外装は市販車の状態です。
小出氏は「この試験車は、CUSCO製のショックアブソーバー交換と前後LSDを組み込んだだけで、ほぼ市販車のコンディションです」と教えてくれました。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式コイルスプリングですが、リヤはリーフスプリングのリジッドアクスル。走り始めてギャップが見えたときに、ピックアップで荷台に荷重がかかっていないと、普通はリヤが大きく跳ねるので思わず足を踏ん張って衝撃に備えましたが、リヤの跳ね上げが少なくて驚きました。何か錘を載せているかと思えば何も載せていない状態。
さらに増岡氏は「トライトンはハンドリングがよく、クイックに動くところが扱いやすい」と言っていた通り、小出氏は細く曲がりくねったオフロードを躊躇なく飛び込んでいき、ドライバーの意のままにトライトンが向きを変えてコーナーを立ち上がっていきます。いい意味でピックアップらしくない走りです。
ライバル車とホイールベースと車重を4ドアタイプで比較してみると、トヨタ・ハイラックスが3085mm/2080kg、イスズ・D-MAXが3125mm/1890kg(エンジンが1.9リッターで軽量)に対し、トライトンは3000mm/1987kgとホイールベースが一番短く、軽量なところがハンドリングのよさに寄与しています。
それにしても、小出氏のドライビング技術の高さがすばらしかったので、学生時代からモータースポーツをやっていたかと伺ったら「ドライビングは三菱に入社してから増岡さんに鍛えていただきました」と。98年入社なので、増岡氏がダカールラリーで総合2連覇したときも社員として喜んでいた世代。
「増岡さんには、オフロードはフロントタイヤのグリップをうまく保ちながら走らせれば、イメージ通りのラインを速く確実に走れると教わっています。トライトンはよく曲がるのでとても走らせやすいです」。
小出氏のステアリング操作はあまり補正せず、決めた舵角できれいにコーナーを抜けていくので、トライトンがドライバーの意のままに走ってくれることが体感できました。
こうして開発ドライバーの小出氏はもちろん、エンジニアも多くの若手社員が関わっているといいます。増岡氏のダカールラリーやパイクスピークでの経験や、若手社員の熱い思いで仕上がったトライトンは、AXCR2022で「チーム三菱ラリーアート」として再びオフロードに新たな轍をつけます。狼煙ならぬ砂塵を巻き上げ発進する、ここからの三菱のモータースポーツ活動に期待します。
また、現在発売中の三菱自動車の4WDラインアップもオフロードコースを難なく走破しました。
●アウトランダーPHEV
過去3回のAXCR、オーストラリアンサファリ、バハ・ポルタレグレ500など海外ラリーで完走し、2モーター4WDのPHEVの信頼性を高め、その過酷なラリーで得たデータを活かしたアウトランダーPHEV。S-AWCのおかげで悪路も気にせず走れます。
●デリカD:5
デリカは元々商用車として誕生しましたが、デリカスペースワゴンからオフロードも走れるワンボックスミニバンとしてD:5まで唯一無二の存在。そのルーツはトライトンと同じピックアップのフォルテだから、悪路走破性の高さも納得。
(文:寺田 昌弘/写真:高橋 学)