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■707PSのパワーを車名に冠した最強のSUV
今年2月、世界で最も美しいSUVと称されるアストンマーティンDBXに、世界最速モデルが登場しました。4リッターV8ツインターボエンジンを搭載し、707PS/900Nmを4WDで走らせる、その名も「DBX707」です。
0-100km/hは3.3秒、最高速はSUVでは世界最高速度となる310km/h。「これ本当にSUVなの?」と疑いたくなるような性能を持つモデルです。ちなみに2019年に登場したDBXは550PS/700Nmですが、DBX550とは呼ばないようです。そこで、ここではDBX(既存モデル)/DBX707と記述させていただきます。
●SUVでありながらGTらしさもある
今回は、イタリアはサルデーニャ島で開催された国際試乗会でその性能を確かめることができました。サテン・チタニウム・グレー色(グリーンのように見えるけれど名前はグレーです)のDBX707で走った一日の走行距離は400km。それもまるで「サルデーニャ・ラリーか!?(そのようなラリーは聞いたことはありませんが)」と言いたくなるような、走っても、走っても、走っても続くワインディングが圧倒的に印象に残るルートでした。
おかげでDBX707が、単にハイパワー&大トルクを与えられたSUVというドライビングの世界感は超え、一方で単なるハンドリングマシンを目指したというわけでもなさそう。アグレッシブでシャープなハンドリングは期待通りな一方で、流して走るような場面でも退屈することのない、GTカーぶりも併せ持つ「GT SUV」と称したくなるモデルに仕上がっていました。
●4リッターV8ツインターボはAMG製
具体的なインプレッションを紹介する前に、まずはDBX707の特徴をご紹介しましょう。ボディサイズの全長5039mm×全幅1998mm×全高1680mm、さらに車重の2245kgまでもが、DBXと同数値に抑えられています。
現地でエンジニアが「エンジンユニットの性能を最大限に引き出した」という707PS/900Nmを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンはAMG製(ハンドビルト)で、そのエンジン自体はDBXと同じながら、様々な内部システムのキャリブレーション(調整)を行い、大型のターボチャージャーを装着。排気効率などを高めるためにもDBXでは2本出しであったエキゾーストテールパイプを4本出しに変更し、アストンマーティンの象徴的なフロントの「DBグリル」の開口面積も広げられ、ボンネット下に納められた様々なシステムの冷却性能向上に貢献しています。
タイヤサイズは標準が22インチとこちらもDBXと同じ。試乗車にはインチアップされた23インチのピレリーP ZEROが装着されていましたが、日本で試乗したDBXにも23インチが装着されていたこともあり、手元の資料が間違っていないとするとDBX707がタイヤの性能に依存せずに707PS/900Nmを操ることができる、それはそれで凄いことだと思います。
またDBX707は、大トルクを受け止めるべく容量もアップしたカーボンセラミックブレーキ(DBXはスチール製)を採用しています。大トルクに対応すると言えば、今回はトランスミッションが9ATであるのはDBXと同様ながら、その機構は異なり、DBX707には油圧式クラッチプレートで構成される湿式多板クラッチを採用。このおかげでローンチコントロールも搭載されています。走行パフォーマンスを格段に向上させても車重を増やさない車両開発、新たな9ATやカーボンセラミックブレーキなどの高性能化と軽量化へのこだわりも、アストンマーティンらしさと言えそうです。
●エキゾースト・コントロールボタンで排気音が変わる
デザイン面の変更は主にエクステリアが中心で、先にもご紹介した大型化されたフロントの「DBグリル」はとにかく目を引きます。
試乗車はオプションのダーククローム色でワイルドに仕上がっていましたが、標準仕様はクローム(銀色)になります。会場でそちらが最初に目に留まったのはやはりグリルの効果。シルバーのほうがよりワイド感が強調され、開口面積が大きく見えるのです。それでも下品な印象に映らないのがまたアストンマーティンらしい?
他にも直進安定性やダウンフォースを高める空力パーツがフロント部に配され、リヤには大型のルーフスポイラーが装着されています。4本出しのエキゾーストテールパイプもDBX707が高性能モデルである証であり、それを聴覚的に味わうこともできるサウンド調整もされています。
遮音の行き届いた車内は、街中の走行速度域ではそれほど騒がしくはなく、しかしワインディングで加減速を繰り返す場面では“音”も“気持ち”も盛り上がったのは言うまでもありません。さらにDBX707には新たにセンターコンソールに専用のエキゾースト・コントロールボタンが備わり、ドライブモードの「SPORT」を選ばずともアクティブバルブを開けることもできるのです。新たな装備としてもう一つ、ソフトクローズ・ドアが採用されており、これは2023年モデルのDBXにも標準装備されるそうです。
●路面からのインフォメーションを豊かに伝える操作フィール
冒頭でもお伝えとおり、今回サルデーニャ島では郊外のワインディングを中心に試乗しました。青い空の下、郊外に向かって一気に高速を走り、やがて遠くに望む山並みを眺めつつ、また断崖沿いに走る終わりの見えないワインディングを走り、オレンジ色の屋根が連なる小さな町がポツンと現れては消え、また現れては消え・・・するようなドライブシーンのなか、様々な速度域でDBX707のドライブフィールを確かめることができました。
走り出し、低速から40-50km/hで走行するような場面での乗り心地はDBXと比べればやはり少々硬めな印象。しかし高速やワインディングを軽快な速度で走らせるような場面ではフラットで、ともすれば滑らかな印象すら抱くことができました。
ステアリングの操作感はスタンダートなドライブモード=“GT”モードでも少し重めかなと感じましたが、重さに関わらず、操作フィールはとても良い。というのも、DBX707の物理的なボディの大きさのせいもあって、道路幅が狭く感じられたサルデーニャのワインディングでも、ハンドル操作がダイレクトにタイヤに伝わるような一体感の得られる、専用開発されたボディの剛性の高さとサスペンションのマッチングのおかげで、ステアリング操作からタイヤがグリップしてコーナリングする間にラグやムダな動きがなく、安心して連続するコーナーを抜けていくことができたからです。
しかもそれを常にインフォメーションとして私の手元に伝えてくれるので、操作→アクション→レスポンス(フィール)の連続に確実さが得られるのです。DBX707のような大きなSUVでも、です。またDBX707に採用されたカーボンセラミックブレーキはコーナリングの前の減速という行為が楽しみになるほど、速度や踏量に対しリニアで自然な制動感が得られます。そんなわけでドライビングが楽しくないワケがないのです。
●内燃機関の尊さが電脳化した身体を刺激する!
注目のエンジンは、707PS&900Nmを試すことはなかったものの、フル加速に近い操作では豪快かつ豊かなトルクを感じ、しかし暴力的でない点がまさにアストンマーティンらしい。スペックが圧倒的に上がったにも関わらず、大型のターボチャージャーが採用されているにも関わらず、ドライバーが必要な加速量に対し誠実なトルクと速度が得られます。湿式多板クラッチを採用したトランスミッションのマネージの貢献もあってか、アクセルの踏み込み次第で滑らかにもシャープにも自在なシフトチェンジが可能でした。でもやっぱり速い! オーナーになられた方はくれぐれもお気を付けください。
世の中が電動化に進みつつあるこの頃、電脳化されつつあった私の頭も体も心も、2本から4本出しとなったエキゾーストパイプから奏でられる野太くて高回転にいくにつれ高音質も高まる音色に、ピュアな内燃機関の尊さを感じずにはいられませんでした。
アストンマーティンの唯一のSUVとして、いやGTモデルもしくはスポーツモデルの一種として、DBX707の存在はさらにアストンマーティンのファンを増やすことになるかもしれません。DBX707の納車開始は2022年第2四半期(4~6月期)を予定しているそうです。
【アストンマーティンDBX707の主な仕様】
全長×全幅×全高:5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg(前後重量配分52:48)
最低地上高:175mm
エンジン形式:V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:3982cc
圧縮比:8.6
最高出力:707PS/6000rpm
最大トルク:900Nm/4500rpm
トランスミッション:マルチプレート湿式クラッチ型9速オートマチック
駆動方式:4WD
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
タイヤサイズ(前/後):285/40R22/325/35R22
ホイールサイズ(前/後):10J×22/11.5J×22
0-100km/h加速:3.3秒
0-160km/h加速:7.4秒
最高速度:310km/h
(文:飯田裕子)