■圧倒的なパフォーマンスをフルに解放するにはサーキットが必要!
現在、レクサスにラインアップされるクーペモデルはLCとRCの2モデルです。LCはLuxury Coupe(ラグジュアリー・クーペ)の意味で、LSと同じプラットフォームを採用する、その名のとおりラグジュアリー性を重視したスタイリッシュなモデルです。一方のRCはRadical Coupe(ラディカル・クーペ)の略を車名にしています。ラディカルとは急進的や尖ったなどの意味を持つ単語で、その名のとおりレクサスのなかでは特異なモデルといえます。
RCのプラットフォームはGSのそれを発展させたもので、2014年に登場しました。RCのシリーズには標準タイプといっていいRCと、走りを中心にチューンアップされているRC-Fの2種が存在します。メルセデス・ベンツのAMGやBMWのMに相当するモデルがFといっていいでしょう。ちなみにFは富士スピードウェイにちなんで付けられた称号です。
RCもほかのレクサスモデルと同様に年次改良を繰り返しながら現在に至っています。RC-Fについて最新の改良は2020年9月で、スマートフォンとの連携強化をはじめ、リモートタッチによる画面操作や音声操作が可能になるなど、利便性の向上がおもな改良点となっています。
RC-Fには3種のグレードが用意されます。搭載されるエンジンは共通で481ps/535Nmのスペックを持つ5リットル自然吸気V8。ミッションは8速のATが組み合わされています。サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがマルチリンクです。
ベースグレードのRC-Fの上にはカーボンエクステリアパッケージというモデルがあり、ルーフやボンネットにカーボンパネルが採用されるなどします。さらにその上にはパフォーマンスパッケージというモデルが用意され、カーボンのフロントスポイラーや軽量鍛造ホイールなどが装備されます。車両重量を見ると標準のRC-Fが1770kg、カーボンエクステリアパッケージが1760kg、パフォーマンスパッケージが1720kgとなっています。
今回試乗したモデルはRC-Fのなかでも最上級(つまりもっとも戦闘力が高い)モデルであるパフォーマンスパッケージです。イグニッションスイッチを押し込むと、眠っていたV8エンジンが目を覚まし、アクセルペダルをあおればそれに反応して、ガゥガゥと咆哮を轟かせます。世の中は電動車に向かって大きく舵を切っていますが、やはりこの音を聞くとクルマ好きの心は否応なしに踊り始めます。
地の底からわき上がるようなトルクは8速のATを介してリヤタイヤを駆動。500Nmを超えるトルクでリヤタイヤのみを駆動するFRモデルですが、その強大なトルクは上下加速度センサーなどを追加装備したスポーツモード付きVDIM(統合車両姿勢安定制御システム)とTVD(トルクベクトリングデファレンシャル)によって統合制御されます。
具体的には後輪左右へのトルク配分とともに4輪の独立ブレーキングなどによる制御でその正確性は非常に高く、バツグンの安定性をもっています。ATにはエコ、ノーマル、スポーツS、スポーツS+の4つのモードを設定。もちろんパドルシフトによるマニュアルシフトも可能で、その際の変速スピードは0.1秒と熟練したドライバーのシフト操作よりも速いものです。
アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を連携して行うようなワインディングはとくにRC-Fを楽しめる場所ですが、RC-Fのポテンシャルを満喫するにはサーキットが必要でしょう。VDIMをスポーツS+としてVSCをオフにすれば、各種の車両安定化デバイスはギリギリの領域まで介入しません。今回はその実力を試すことはできませんでしたが、一般道を走った印象では間違いなくサーキットで本領を発揮するタイプでした。LCのジェントルな走りとは違う次元で、走りそのものをたっぷりと楽しめ、欧州のスポーツクーペとも十分に渡り合える底力を持つ、それがRC-Fなのです。
RC-Fはメルセデス・ベンツのAMGやBMWのMに相当するモデルという説明をしましたが、そのハイパフォーマンスをトヨタクオリティ、トヨタメンテナンスで受けられるというのがまた大きな魅力と言えるでしょう。その魅力を享受するためにはノーマルのRCで1042万円、カーボンエクステリアパッケージで1122万円、パフォーマンスパッケージで1432万円の車両本体価格が必要です。
とはいえ幻の名車と言われるトヨタ2000GTは大学初任給が2万円強であった時代に238万円、つまり初任給の100倍で販売されたのですから、2000GTよりは買いやすいモデルになっていると言えるのかも知れません。
(文・写真:諸星 陽一)