■標準グレードはJC08モードで308km、リアルワールドでも近い数字は狙える
ホンダから登場した電気自動車「Honda e」。街なかベストを目指して、小回り性能に優れたRWD(後輪駆動)のプラットフォームを専用に開発した意欲作といえる電気自動車です。また、ドアミラーをカメラとモニターに置き換えた「カメラミラーシステム」を全車に標準装備することでミラーtoミラーをボディ幅に収めていることも、街なかでの取り回しに有効な選択で、徹底してシティコミューター性能を磨き上げた一台となっています。
そんなHonda eには標準とAdvanceと2つのグレードが用意されています。
標準グレードは16インチタイヤでモーターの最高出力も100kWと抑えられている一方で、Advanceは17インチのスポーツタイヤで最高出力も113kWと高められたパフォーマンス重視のグレードといえます。
こうした違いは電費や航続距離にも表れていて、JC08モードの一充電航続距離でいうと標準グレードの308kmに対して、Advanceは274kmと短くなっています。
とはいえ、JC08モードというのはリアルワールドとは乖離した測定モードで、その数字を達成するのは非常に難しいというのがエンジン車でのイメージではないでしょうか。
しかし、Honda eに関してはそうとは言えないかもしれません。
今回、横浜の市街地メインでHonda eの標準グレードを試乗することができました。Advanceグレードと比べて発進加速で劣っていることはなく、また16インチタイヤは明らかに抵抗が少ないことを感じさせるフィーリング。せっかくなので電費を計測してみることにしました。
といってもトリップメーターをリセットして、流れに乗って走ってみて、区間電費を表示させるだけのことですが、メーターに表れた数字は「8.8km/kWh」という驚くべきデータだったのです。
Honda eのバッテリー総電力量を計算すると約35.5kWhになります。正味電力量については公表されていないので、ひとまず総電力量をベースに先ほどの8.8km/kWhという電費をかけて計算すると、航続可能距離は312kmとなります。カタログ値を超えてしまうのです。
仮に正味電力量を90%程度と辛めに考えても、今回の電費から計算される一充電航続距離は280kmに到達します。電費というのは乗り方次第ですが、308kmというカタログ値が荒唐無稽で、あり得ない数字とはいえません。
なにしろ、この電費は「初めて乗った」ときのものなのです。もっと車両特性に合わせたエコドライブをすれば改善することは間違いありません。まだまだ伸びしろを感じます。
Honda eはカタログ値でも大きめの数値となるJC08モードでの一充電航続距離をリアルワールドで実現することが可能なポテンシャルを持っているというわけです。
カタログスペックというのは、ある条件においてはその車両が達成できる数値を記してあるものなので、そこに迫ることができるのは当然の話です。それでも多くのユーザーがリアルワールドとの乖離を感じてしまうのは、いくつもの要素が絡み合っていることで再現することが難しい面もあります。
あくまで個人的な印象ですが、トランスミッションがCVTの車両になると変速比のコントロールをドライバーが行なうことが事実上不可能で再現性が低く、それがエコドライブの難しさにつながっていると感じます。
しかしHonda eのような電気自動車の場合、トランスミッションがシングルタイプ(固定ギア比)となっているためアクセルワークと加速感の関係性が常に一定で、エコドライブを再現しやすい傾向があります。
なにしろ今回の電費は、運転のプロでもない自称・自動車コラムニストが初乗りしたときに出せたものです。オーナーの方が、車両特性を掴んだ上で電費を意識した運転をすれば、もっと優れた電費データを実現することは難しくないでしょう。
ちなみに、今回のドライブでは、スパッと加速して、アクセル最小限で巡行、早めの減速で回生エネルギーを多めにとることを意識しました。
とくに「スパッと加速」がポイントですが、モーターならではの発進加速により一瞬のアクセルワークで十分に流れに見合った速度になってくれるので、意外にアクセルを踏んでいる時間は短いというイメージでした。ご参考になれば幸いです。
(自動車コラムニスト・山本晋也)