■クラウンが富士24時間レースで57年ぶりのレース参戦
9月4~6日に富士スピードウェイで開催された、ピレリスーパー耐久シリーズ2020開幕戦「NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」。
その富士24時間レースに57年ぶりにサーキットレースに参戦したトヨタの高級セダンであるクラウン。7月のスーパー耐久富士公式テストに現れ、多くの注目を浴びた埼玉トヨペットGBクラウンRSが富士24時間レースに参戦を果たしました。
昨年度まではマークXで参戦し、2019年はチャンピオンと同ポイントながら獲得順位の回数などでシリーズ2位となるなどかなりの好成績を残しています。今年はコロナ禍の影響で2019年のチャンピオンチームが参戦をしないということもあってマークXでの参戦はかなり有利なはず。
しかし今年も何ら問題なく参戦できるマークXではなく、チームはパワーに劣る2リッターターボのクラウンRSでの参戦をしてきました。
なぜ今クラウンなのか?埼玉トヨペットGreen Braveのチーム代表で7月1日から埼玉トヨペット株式会社の新社長に就任された平沼貴之さんにお話をうかがうと
「一言で言えば、うちで売っているクルマでレースをしなくてはディーラーとして参戦する意味がない」とのこと。
マークX が2019年で販売終了となることでクラウンをスーパー耐久に向けて開発することとなったようです。
ST-3クラスのライバルであるカタログ値319馬力のレクサスRC350の3.5リッターやフェアレディZの3.7リッターに比べると、245馬力というパワーの2リッターターボなクラウン。
市販車のクラウンでは2リッターターボと2.5リッターハイブリッド、3.5リッターハイブリッドがありますが、3.5リッターハイブリッドはパワーこそ359馬力ありますが、この組み合わせではST-1クラスになってしまうのでST-3クラスで参戦できる2リッターターボが選択されました。
■実は速かった2リッターターボのクラウン
パワーで劣るとは言うもののライバルのレクサスRC350と比べてもトルクはほぼ互角で、車両重量もカタログ値で言えばほぼ互角。そして何よりクラウンのプラットフォームがTNGA FRプラットフォームという新しいもので、ボディ剛性自体はライバルよりもかなり高いという特徴があります。
そのプラットフォームなどの特徴により、ホイールベースは長くとも実はコーナーリング性能は悪くないようで、ストレート以外のところではわりと安定的に好タイムを出しているようです。
また、装着されるエアロ、フロントリップスポイラーやサイドスカートなどは風洞実験を行ってきっちりと空力性能を改善する埼玉トヨペットオリジナルで、埼玉トヨペットのクラウンコンプリートカー「Green Blaze」に装着されているものだとのこと。
プラットフォームや空力性能、スーパー耐久初参戦以来セダンにこだわり続ける姿勢のもとでのセッティング等が功を奏してか、予選は2位の好位置を得て決勝レースに臨みます。
その決勝レースもスタートこそはドライ路面で始まりましたが徐々に雨が降ったりやんだりという安定しない天候となります。
その際にピットインしてのタイヤ交換でレインタイヤをチョイスするも路面はドライのままという状態もあって、クラウンは順位を落とすこともありました。しかし日が暮れようとする18時頃に天候が急変。すべてをリセットするような出来事が起こります。
激しい雨のためセイフティーカーが導入されますが、より雨が強まってきたために赤旗中断となります。中断時間はなんと4時間半!追い付かないはずのギャップが少し縮まります。
22時30分にレースが再開されても雨が強くなればすぐにセイフティーカーが導入されます。その数はなんと10回!そのため前に追いつくことがなかなかできません。
夜明けを迎え明るくなってきた午前6時頃まで雨は止むことがなくセイフティーカーは頻繁に出入りを繰り返します。しかし午前7時頃からは雨も弱まっていき午前9時頃にはすっかりとあがっていきます。
その午前9時頃には3位に順位を上げていた埼玉トヨペットGBクラウンRS。ここから快進撃が始まります。
午前10時頃にはなんと2位。しかしその後、トップに対して差は詰めていきますが追い抜くところまで届かない状態で残り時間1時間となる14時まで時間が経過していきます。
その14時になる直前にライバルのフェアレディZが最後のピットイン。ここでクラウンがトップに立つとフェアレディZのペースダウンもあって一気に独走態勢となっていきます。
24時間レースの最後の1時間で一気に順位を上げた埼玉トヨペットGBクラウンRSがST-3クラスの優勝となりました。
今年のSUPER GT開幕戦GT300クラスで埼玉トヨペットGB GR Supra GTがデビューWIN。それに続くスーパー耐久開幕戦、それも24時間レースでデビューWINを果たすとという快挙を成し遂げた埼玉トヨペットGBクラウンRS。
クラウンが主要サーキットレースに出場すること自体が第1回日本グランプリ以来57年ぶり、そしてクラス優勝も57年ぶり。
単に新型クラウンのスーパー耐久デビューWINの快挙ということに留まらず、第1回日本グランプリ当時からあったはずの「走りのセダン」はカッコいい!というイメージからのセダンに復権に向けた力強い一歩としても、このクラウンの優勝は大きいものとなったのではないでしょうか?
(写真・文:松永和浩)