■日産のADAS、単眼カメラ作動からカメラとミリ波レーダーの併用に本格シフト
2020年8月17日、日産自動車が売れ筋の人気ミニバン「セレナ」の一部仕様向上を発表しました。次いで8月20日には軽自動車「デイズ」も同様に仕様向上を発表しています。そして、この2台の仕様向上には共通点があります。
それは、日産の先進安全機能として他社と差別化できるポイントの「インテリジェントFCW(前方衝突予測警報)」を全車標準装備にしていることです。
インテリジェントFCWというのは、先行するクルマに遮られて見えない前方の状況をミリ波レーダーによって把握することで見えないところで起きるアクシデントの種をいち早く見つけるというもの。
具体的には、2台前を走る車両の車間・相対速度を、車両前方に搭載されたミリ波レーダーで検知して、自車との速度差を常にチェック、減速が必要と判断すると表示と音によりドライバーに注意を促すというシステムです。
この機能自体はずいぶん前にスカイラインで採用済みですから目新しいわけではないのですが、他社でも見かけない先進安全機能を大衆車といえるMクラスミニバンや軽自動車に搭載するということは、大きなチャレンジといえます。もはや「プロパイロット」のような高速道路での追従クルーズコントロール&車線中央維持といったADAS機能や、夜間の歩行者を検知するAEB(衝突被害軽減ブレーキ)だけでは差別化できないということでしょう。
技術の日産として、先進安全機能を広く普及させることでブランディングしようという狙いも感じられます。
そして、このインテリジェントFCWを実装するためには前述のようにミリ波レーダーが必須となります。これまで日産はコストと性能のバランスに有利な単眼カメラだけでADASやAEBを制御する道を選んできました。しかし、これからは軽自動車であってもミリ波レーダーと単眼カメラを併用することが当たり前になるということをデイズの仕様向上が示しています。
もっとも、2020年3月にフルモデルチェンジした軽スーパーハイトワゴン「ルークス」ではミリ波レーダーと単眼カメラを併用したシステムを採用していましたから、デイズがこのように進化することは既定路線ではありましたが、それにしても早いタイミングでアップデートしてきたな、という印象です。
そのほかセレナでは、「プロパイロット」を標準装備するグレードを新設したり、後方カメラの映像をルームミラーに映し出す「インテリジェントルームミラー」の設定グレードを拡大するなどしています。
また、いまや必需品といえるUSB電源ソケットについては従来の1.0Aから2.4Aにグレードアップして、最近のスマートフォンやタブレットに対応しています。
ちなみに、デイズのほうは「インテリジェント DA(ふらつき警報)」「先行車発進お知らせ」「標識検知機能(車両進入禁止標識、最高速度標識、一時停止標識)」「ロードリミッター付ダブルプリテンショナーシートベルト<助手席>」などの先進安全技術を全車標準装備としています。一気に安全性能がレベルアップしたというわけです。
さらにミリ波レーダーを新採用したことで「プロパイロット」が性能向上を果たしたというのも注目です。スマートフォンなどを充電するための「USB電源ソケット」を新たに全車標準装備というのも検討している人にとっては朗報でしょう。
日本の大衆車を代表するMクラスミニバンや軽ハイトワゴンにおいて、こうした先進安全機能を標準装備化する時代になったというわけです。
もっとも、いずれのカテゴリーでもホンダがリリースしているライバルモデルには、すでにミリ波レーダーとカメラを併用したシステムが搭載されていたわけで、単眼カメラだけで十分といっていた日産もそうとは言っていられなくなったのかもしれません。
いずれにしても、軽自動車においてもミリ波レーダーとカメラを使ったADASが必須という時代になりつつあるというのは、自動運転に向けて時代が進んでいることを実感させる進化といえそうです。
(自動車コラムニスト・山本晋也)