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■2023年登場の車の中からグッドデザイン3台を選ぶ
アッという間に2023年も終わり、車界の総決算である日本カー・オブ・ザ・イヤー(JCOTY)では予想どおり?トヨタのプリウスが栄冠に輝きました。そこで、いつもデザインの記事を執筆している筆者としては、2023年のグッドデザインベスト3を独自の視点で選んでみたいと思います。さてさて、本家イヤーカーとの違いはありますかどうか?
●万人にウケる「カッコよさ」はもはや圧倒的!
JCOTYと同じエントリー車の中から、まず第3位はトヨタのプリウスとします。「え、1位じゃないの?」という声が聞こえてきそうですけど、これはべつに意外性を狙った話ではありません。
まるでスーパーカーのようなフォルムは、多くの人がひと目見て「カッコいい!」と叫びたくなるスタイルです。いまさら解説の必要もないけれど「低く、広く」というグッドデザインの公式を100%取り入れ、直球ど真ん中を攻めてきました。
ただ、視線をもう少し先に向けると「普遍性」の部分が若干気になったのであります。
最近のトヨタデザインは、たとえばシエンタやランドクルーザー250などのようにシンプル路線に舵を切っています。その点プリウスも妙なキャラクターラインのないボディは美しいのですが、割と早めに飽きてしまうんです。これは普遍性、つまり時間的な耐久性の問題で、流麗なボディの中に芯というか核のようなものが見当たらないのです。実は新型がモチーフとしたという3代目にはこれがちゃんとあるのです。
新型はちょっと勢いだけでやり過ぎちゃったかな?とは思うのですけれども、ただ万人に「カッコいい!」と思わせるデザイン力は間違いなくいまのトヨタの強みなのです。それはそれで評価されるべきだとは思います。
●わずかな差の中で表現するデザイン性の高さ
続く第2位はホンダのN-BOX。JCOTYでは残念ながら10ベストカーにも入らなかったのですが、ここではしっかり評価したいですね。
N-BOXのデザインがスゴいのは、初代からほとんど変わらないディメンションの中で、3代それぞれが明快な性格付けに成功している点にあります。初代の道具感、2代目の乗用車感に対し、新型の「生活に根ざしたリズム感」に説得力があるんです。
たとえば徹底したシンプル化によるカタマリ感の獲得で、2代目の面の抑揚や強いキャラクターラインを減らし、あたかも陶器のような表情まで磨き込んでいる。背面をブラックとしたヘッドランプはユニークなグラフィックを作っているし、面一化したリアランプは後ろ姿をスッキリさせています。
ホンダもまた最近はシンプル路線を歩んでいるけれど、その中でもかなり巧くまとめたスタイリングだと思います。
●新しいデザイン言語が徹底されたボディ
さて、2023年の第1位としたのはレンジローバー・スポーツです。これまた10ベストカーに入っていなかったのですが、ここではイチバンに引っ張り上げたい。
基本的にはヒットした先代をベースとし、そこに最新のデザインフィロソフィである「リダクショニズム(還元主義)」を反映させたスタイルが特徴です。全体ではキャビンとボディを上下にスパッと分けた構成が、たとえばジャパンモビリティショーに出品された日産のハイパーツアラーを先取りしているかのよう。
面一化されたフロントは、グリルなどの切り込みに結構なシャープさがあり、キリッとした表情を作っています。サイド面では、先代がドアハンドルとキャラクターラインを合わせて要素を整理したのに対し、ハンドルを格納式にしたことで、あえてキャラクターラインを上にズラした点も巧い。この細くてシャープなキャラクターラインが実に繊細な表情を作っているのです。
レンジローバーやディフェンダーの評判が高く、もしかしたらチョット陰に隠れてしまったかもしれません、けれどもノミネート車の中でこのデザインを評価しないワケにはいかないんです。
そうそう、JCOTYでデザイン賞を獲った三菱のデリカミニは?なんて声も聞かれそう。個人的には、ベース車の「再構成」としては巧いなあと思うのですが、それでベストデザインというのはチョット違うかなと。どちらかというと企画賞に近いんじゃないかな、と思うのです。