目次
■車の本質にはセダンがあると信じてデザインを進める
シリーズの第2弾であるスポーツの登場から間もなく、2023年11月2日に第3弾として正式発表された新型「クラウン セダン」。一時は消滅の話があったというセダンはどのようなデザイン開発を経て新生されたのか?
今回は、シリーズのデザインを統括した宮崎満則氏にその経緯を聞きました。
●新しいフォーマルを定義したショーファーデザイン
── では、さっそく最初の質問です。今回はオーソドックスなセダンは作りたくないと「ニューフォーマル」を商品コンセプトに掲げましたが、なぜオーソドックスではダメだったのでしょう?
「たとえば『新型クラウンセダン』『ゼロ・クラウン』などもそうでしたが、『革新と挑戦』を掲げてきたクラウンとしては、新型も従来の3ボックスデザインではいけないだろうと。セダンは他の3台とプラットホームが異なり、ショーファーとしての立ち位置が特徴です。そこで、フォーマルの中に新しさを盛り込むことを考えました」
── それに当たって、ユーザーへのリサーチは行ったのですか?
「いえ、実は限定的なリサーチはしませんでした。自分にとってセダンというと、いわゆるハイソカーブーム時のソアラやマークIIなど、日本人の美意識に訴えるような繊細な佇まいが思い浮かぶのですが、それは違うかなと。プロダクトアウトというワケではいのですが、たとえば、キャビン形状やタイヤの大きさなど、もっとチャレンジが必要だと考えました」
── 新しいフォーマルだとして、他の3台に比べてここまで水平基調にこだわったのはなぜですか?
「これも『革新と挑戦』ですね。リアフェンダー部も含め、ここまでベルトラインを水平に伸ばそうとすると、通常はフューエルリッドが邪魔してしまうのですが、今回は燃料パイプの経路を見直すことで実現しました。これによって、リアビューでのキャビンとタイヤの関係にスタンスの良さが生まれるんです。また、縦型のグリルやフェンダーガーニッシュを組み合わせることで、ボディの中に水平と垂直の関係を作っているんです」
── 水平基調に加え、新型はベルトラインの低さも特徴としています。トヨタ車ではカムリでも低さを追求していましたが、なぜクラウンでそこまでこだわったのでしょう?
「これは後席の扱いですね。クロスオーバーのように包まれ感を追求する方向もありますが、セダンはあくまでショーファーカーですから開放感を優先した。言わば陰でなく陽のキャビンですね。カムリでは押し出し感やダイナミックさを目指しましたが、こちらはもっと日本的な表現です」
●ユーザーの嗜好の変化に沿った進化を
── 資料によると、前後ランプは薄型化の限界に挑んだとありますが、その意図は何でしょう?
「ハンマーヘッドの表情は、従前からのキーンルックやアンダープライオリティから、もう一段シンプルさやスマートさを目指したものなんです。クラウンは代々、威厳のある大きなランプやグリルを特徴としてきましたが、新しいフォーマルとしてスマートさを目指したワケです。もちろん、LEDの進化も早いですから、そうしたデバイスの先進性も見せたかった」
── 6ライトのサイドグラフィックは先代に近い表現ですが、ニューフォーマルとしての意図もあるのですか?
「そうですね。先代をベースに空力性能も含めて進化させました。実は、一般的な太いピラーも検討したのですが、ピラーだけでなくボディ全体で重さを感じてしまう。歴代のユーザーさんにも嗜好の変化がありますから、新型のシャープさはいい落としどころだったと思います」
── では最後の質問です。今回あらためてセダンのデザイン開発を行ってみて、今後もクラウンにはセダンが必要だと思われましたか?
「当初は、クロスオーバーを開発することで、セダンを変えたと考えたのですが、当時の豊田章男社長から『セダンも作っては?』との言葉がありました。そこでもう一度議論する中で、欧州プレミアム勢のように車の本質にはセダンがあるだろうと考えました。新型はその解答になるワケですが、では今後クロスオーバーとセダンがずっと両立すのかは、まだハッキリ言えないところですね」
── たしかに今後も試行錯誤があるかもしれませんね。本日はありあとうございました。
(インタビュー:すぎもと たかよし)