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■マリン版CASEや環境負荷低減の技術を公開
ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)といえば、世界的なオートバイメーカーとして有名ですが、実は、船外機やボート、水上オートバイなどのマリン製品についても60年以上の歴史を誇っています。
特に近年、ヤマハのマリン製品は欧米など先進国のレジャー向けだけでなく、発展途上国や新興国でも社会インフラとして活躍。漁業や水上運搬などの商業向けとしても、大きな支持を受けています。
そんなヤマハが、2023年12月7日、これからのマリン事業を推進する上で取り組んでいる技術などを公開する説明会を、東京都内で実施。先進化などを加速させる「マリン版CASE」と、環境負荷の低減に向けた「カーボンニュートラル対応」などの様々な技術をお披露目しました。
●マリン版CASEとは?
まずは、マリン版CASEについて。ちなみに、CASEとは、「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Service(シェアリング)」「Electrific(電動化)」の頭文字を取った造語。
本来、100年に一度の変革期といわれている自動車業界で使われている言葉で、EVやFCEVといった次世代自動車や、車内通信などのコネクティッド、自動運転車など、様々な最新技術を総合的に意味しています。ヤマハでは、マリン版CASEを自社製品にも展開しており、今回はそれらに関する説明が行われました。
まず、Connected(コネクテッド)の領域では、マリンコネクテッド企業のパイオニア「Siren Marine」社との協業により、スマートフォンからボートを遠隔監視する技術を開発中だといいます。
また、スマートフォンアプリの「My YAMAHA」により、メンテナンス履歴や点検時期のお知らせなどをスマホに表示するサービスも展開。水上オートバイやボートのオーナーが、離れた場所から船体の様子が分かるようなシステムを運用しているといいます。
Autonomous(自動運転)の領域では、独自の操船システム「ヘルムマスターEX(Helm Master EX)」を開発。すでに、プレジャーボートなどに搭載されているこの技術は、ステアリングやシフト操作、スロットル開度など、船外機のコントロールをすべて電子的に制御。さらに、「オートパイロット」によるコース維持、方位維持なども可能としています。
これにより、自動操舵だけでなく、魚影があるようなフィッシュポイントを維持する定点保持を自動で行うことができます。さらに現在は、港などで自動着岸できる機能も開発中で、実現すれば操縦者の負担軽減などに大きく貢献するといいます。
「Shared&Service(シェアリング)」については、主にユーザーなどが経験を共有できるようなサービスを展開。国内では、レンタルボートなどを展開する「ヤマハマリンクラブ・シースタイル」を実施し、リーズナブルな価格でマリンライフを楽しめるサービスを行っています。
さらに海外では、フィンランドのIT系シェアリングベンチャー「Skipperi」へ出資。この会社は、独自のデジタルプラットフォームを活用し、顧客に快適なマリン体験の場を提供するIT企業で、レンタル事業や安全教育事業などを展開しています。
そして、この企業へ出資することでヤマハは、マリン業界でも加速するDXへの対応に向けた開発力強化を目指しているといいます。
Electric(電動化)では、次世代操船システム「ハルモ(HARMO)」を開発し、欧州など海外で販売しています。これは、電動モーターを動力とする推進器ユニットと動作を制御するリモートコントロールボックス、直感的な操作を可能とするジョイスティックなどで構成されたプラットフォームのこと。電動ならではの静粛性により、乗船者がさらに快適に過ごすことを可能としたものです。
●電動化だけではカーボンニュートラル実現は難しい
次は、カーボンニュートラル対応について。ヤマハによると、水の抵抗が大きいボートなどでは推進力に必要なエネルギーは車の約10倍。そのため、船外機などパワーユニットを電動化するだけでは、カーボンニュートラルの実現は難しいといいます。
そこでヤマハでは、電動化はもちろん、水素、バイオ燃料など、マルチソリューションによってC02排出量の削減を目指すといいます。
たとえば、水素エンジンに関しヤマハでは、2024年2月14日〜18日に米国・フロリダ州で開催される世界最大級のボートショー、「マイアミボートショー(Miami International Boat Show2024)」に、水素エンジン船外機の開発試作機を出展する予定です。
水素を燃料とすることで、実質的にCO2を排出せず、既存の内燃機関技術が応用できるのが、このユニットのメリット。また、ヤマハによれば、電動ユニットよりも航続距離を長くできることで、外洋を航行する大型ボートなどへの搭載が可能だといいます。
ほかにもヤマハでは、植物などの天然廃棄物に由来するバイオ燃料を使ったボートなども開発中。さらに、水の抵抗を低減する水中翼を搭載することで、高い燃費効率を実現するボートなど、様々な方法論でカーボンニュートラルの実現を目指すといいます。
オートバイでも、電動化モデルや水素エンジン搭載車の開発が進んでいますが、さて、水上の領域では、これからどのような技術や製品が生まれるのでしょうか? 陸と海の両方で、カーボンニュートラルに向けた取り組みを行っているヤマハ製品に、今後も期待大です。
(文:平塚直樹)