キープコンセプトではありません! 新型スズキ・スペーシアの「LIFE PRO」なデザインとは?【特別インタビュー】

■ひたすら元気ではなく、日常を楽しむ生活のプロへ届けたい

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新型スペーシア2トーンルーフ仕様。先代はCピラーがボディ色だったが、新型はDピラーをボディ色にすることでコンテナの頑丈なイメージを表現した。ボディ色は新色のミモザイエローパールメタリック

11月9日に発売されたスズキの新型スペーシア。コンテナをモチーフにしたデザインは先代からのキープコンセプト?という声が多く聞かれます。

そこで、内外装を手掛けたデザイナーの皆さんに、実際のデザイン開発について話を聞いてみました。

●コンテナ案はキープコンセプトじゃない?

── まず最初に、商品コンセプトは「わくわく満載!」ですが、その中でデザインコンセプトを「LIFE PRO」としたのはなぜですか?

「わくわくと言っても、たとえばハスラーのようにひたすら元気一杯なだけでなく、もっと静かに日常を楽しんでいる人が多いのではないかと考えました。開発当初にターゲットのマッピングをしていて、元気方向ばかり注目することに違和感を持ったんですね。そこでたどり着いたのが、ストレスフリーに日常を楽しむプロという層だったワケです」

(写真左から)四輪デザイン部の岩﨑宏正さん、小木曽貴文さん、佐藤優花さん、村松彩さん。
(写真左から)スズキ株式会社四輪デザイン部の岩﨑宏正さん、小木曽貴文さん、佐藤優花さん、村松彩さん

── デザインのモチーフはコンテナですが、これは先代のスーツケースの発展版ということでしょうか?

「いえ、違います。今回は多くのスケッチの中から4案を役員へ提示したのですが、そこで選ばれたのがこのコンテナ案でした。発表後、これはキープコンセプトですよね?といった声を多くいただくのですが、そういう考えはありませんでした」

── それは意外でした。先代はCピラーをボディ色としていましたが、新型はA~Cピラーをブラックに、Dピラーをボディ色としましたね。

「私(岩﨑氏)は先々代である初代と、その前身であるパレットも担当したのですが、いずれもピラーをすべてブラックアウトして「フローティングルーフ」としていたんですね。ただ、今回はコンテナがモチーフですから、ピラーの稜線をしっかり出した方がいいと考えました。まあ、ライバルなどではフツーにやってますが……(笑)」

ボディサイドの前から後ろまで途切れなく引かれたキャラクターライン。実車でもこれを再現することが前提と考えられた
ボディサイドの前から後ろまで途切れなく引かれたキャラクターライン。実車でもこれを再現することが前提と考えられた

── サイドのキャラクターラインについてお伺いします。先代のビードはフェンダーとドア部で区切っていましたが、新型は2本のビードが前から後ろまで繋がっているのが特徴です。

「これはもう、キースケッチの段階でそうなっていましたので。ただ、いざ社内でプレゼンをやったところ、生産部門からこんなのは無理だと言われてしまって『ああ、そんなに難しかったのか…… 』と気が付いたんです(笑)」

── とくに、ビードとドアハンドルのくぼみが接する部分はメチャクチャ複雑というか煩雑ですよね。

「はい、その部分は何度もチューニングしたところです。ただ、先のとおりキースケッチから決まっていましたから、止めようという話はなかったですね。それに、ドアハンドルの位置は動かせないという要件面もあったので…… 」

●カスタムのフロントはメッキの量を減らした

スペーシア・カスタム。一見顔は厳ついが、先代よりはメッキの量を減らしている。小型化したフォグランプも威圧感を減らすためだ
スペーシア・カスタム。一見顔は厳ついが、先代よりはメッキの量を減らしている。小型化したフォグランプも威圧感を減らすためだ

── そのシャープなサイド面に対し、標準車のヘッドランプ形状は丸みがあって先代に似ています。

「標準車もLEDを使っていますが、リフレクターランプのように全体を光らせたかったんです。これはそのための形状で、結果的に先代に似たワケです。実は、バンパーも当初は大きな開口に横バーを置く形状だったのですが、『先代に似ている』という声があって変更したんですよ」

先代となる2代目スペーシア。ボディ色のCピラーが特徴的。再度面のビードラインは新型に比べるとかなりシンプルだ
先代となる2代目スペーシア。ボディ色のCピラーが特徴的。サイド面のビードラインは新型に比べるとかなりシンプルだ

── 最近はカスタムの顔も派手さを抑える傾向にありますが、バンパー両端など新型はなかなか厳ついですね。

「そうですか? カスタムも多くのスケッチの中から選んだのですが、メッキの量は先代からかなり減らしたんですよ(笑)。その分、ピアノブラック調のパーツに置き換えたり、フォグランプを小さくするなど派手さを抑えたつもりです。まあ、オラオラ顔が好きな方も、その中で上品さを求めるようになってきているのは確かですね」

── 次にボディカラーについて。標準車に追加された新色2色の意図を教えてください。

先代より低い位置に移されたリアランプ。その下の凹面はかなり深く、生産部門から「折れそう」と言われたほど
先代より低い位置に移されたリアランプ。その下の凹面はかなり深く、生産部門から「折れそう」と言われたほど

「先代は淡い青のオフブルーが4割を占める人気色だったのですが、新型も3代目としての個性を残したく、黄色(ミモザイエロパールメタリック)をやってみたかった。ただ『LIFE PRO』として元気過ぎず、彩度を落としてしっかりハイライトが出るようにしています。もう1色のトーニーブラウンメタリックについては、まるでレザーのように経年変化を感じる成熟した色を意図しました」

── 2トーンのルーフは、標準車がホワイト、カスタムがブラックと先代と同じ構成ですね。

「はい。ただ、厳密に言うと標準車はホワイトからソフトベージュに変更しています。やはり真っ白よりボディ色と馴染みやすいんですね。この色は2トーンルーフ車のホイールキャップにも使っているんですよ」

●インテリアもストレスフリーに

── 次にインテリアについて伺います。コンセプトはエクステリアと同じだったのでしょうか?

「はい、『LIFE PRO』としてストレスフリーな造形ですね。具体的にはインパネの上部を柔らかな立体に、下部を機能部分として2段構造としました。シートヒーターやハザードランプのスイッチ、USBソケットなどもすべて機能部分に集約しました。また、先代はスーツケースのフタが特徴でしたが、上に物が置けないなどの声があり、新型ではオープントレーに変更、ストレスを減らしています」

── カスタムの内装では、紫っぽいボルドーの配色に驚きました……

インパネは上下2段構造とされ、下段に各種スイッチなど機能が集約された。カスタムのボルドー色が鮮烈だ
インパネは上下2段構造とされ、下段に各種スイッチなど機能が集約された。カスタムのボルドー色が鮮烈だ

「これはホテルのラウンジをイメージしたものですね。インテリアもエクステリアのギラギラ感に合わせて光輝材を使うのが王道ですが、今回は間接照明のようにしっとりした表現を狙っています。実は他の色の提案もあったのですが、最終的に1色に絞る必要があってボルドーに落ち着きました」

── では最後に。軽ワゴンでは「お買い得な標準車」と「上質・高級なカスタム」というお約束がありますが、たとえば標準車でも上質な装備にするなど、今後発想の転換はあり得るのでしょうか?

「おっしゃりたいことはよく分かります(笑)。もちろん、提案はいくらでもできますが、やはり現状ではお客様のニーズに沿うか否かが問題です。そういう意味では、たとえば特別仕様車であればいろいろなチャレンジができるかもしれませんね」

── 是非新しい提案を期待したいと思います。本日はありがとうございました。

(インタビュー・すぎもと たかよし

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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