目次
■ステップワゴンまとめ・人気のほどがうかがえる販売台数
ステップワゴンリアル試乗最終回。
現行6代めステップワゴンの国内販売開始から現在に至るまでの販売動向を見ていきます。
●販売動向
ホンダ広報の方にお願いし、現行ステップワゴンの、今年2023年9月末までの販売動向のデータを出していただきました。
発表は昨年2022年5月26日、発売は翌27日なので、16か月ちょいの間の数字となります。
【現行6代目ステップワゴン販売動向データ】
1.販売台数(2022年5月26日~2023年9月30日)
約5万9000台
2.全体の2WD・4WD比率
約9:1
3.機種別比率
1.ガソリン車(()内は4WD)
・ステップワゴンAIR:約30%(約20%)
・ステップワゴンスパーダ:約60%(約55%)
・ステップワゴンスパーダPREMIUM LINE:約10%(約25%)
2.ハイブリッドe:HEV車
・ステップワゴンAIR:約10%
・ステップワゴンスパーダ:約60%
・ステップワゴンスパーダPREMIUM LINE:約30%
4.ユーザー層
ファミリー層を中心にご購入いただいております。
約16か月の間に約5万9000台で、月平均約3700台。もちろんユーザーに現車が行き渡った数字ですが、これは半導体不足による車両不足と販売店数を加味すれば健闘していると思います。
ただ、念のために自販連(日本自動車販売協会連合会)発表のデータを自前で調べたら、ノア/ヴォクシーやセレナのほうが多く売れていました。昨年2022年11月は発表のみにとどめたセレナが翌12月にガソリン車を先行させ、今年2023年4月のハイブリッド版e-POWER車の追加で、ステップワゴン、ノア/ヴォクシー、セレナの3車ラインナップの足並みが揃っている2023年6月から3か月間の数字だけを比べてみても、ステップワゴンの約1万6500台に対し、ノアもヴォクシーもセレナも3万台を超えています(実質同じクルマであるノアとヴォクシーを、他の2台と同じに扱っていいのかどうかという思いはありますが)。
いま販売中の5代めフィットにも感じるのですが、クルマ全体の仕上がりからすると、ステップワゴンももっと売れてもいいクルマだと思います(フィットも)。販売店数の差が数字に表れるのは仕方ないにしても、他の2台にもうちょい迫ってもいいくらいの商品性は備えているのです。
推測できる、元気がない理由のひとつは外観スタイル。
ノア/ヴォクシー、セレナ、ステップワゴン・・・やはりユーザーは「せっかくクルマを買うならば」と、精悍な顔のノア/ヴォクシー、セレナに惹かれるのでしょう。ふだん「クルマはデザイン第1で選ぶものではない」といっていながらも、「筆者が外観デザインだけで選ぶならステップワゴン」と書きましたが(第1回)、別に筆者が生産されたステップワゴンの全数を買うわけじゃなし、筆者がここで「デザインがいい」と書いたから「売れる」にはなりません。
あくまでも好みの問題で、ヴォクシー試乗やステップワゴン試乗第1回で書いたとおり、結局は迫力フェイスが売れるのが日本の市場なのです。
推測ふたつめ。
筆者がステップワゴンで気に入っているのは、買ったはいいけど日常でどれほど使うかわからないような機能が初めから少ないことです。自動駐車機能がなければ客寄せ的な先進安全デバイスもないし、バンパー下に足を投げ入れてバックドアやスライドドアが開くロジックも見当たらない。だからといってそれが不便かといわれればそんなことはなく、ゆえに値段がいくらかでも安く買えるならそのほうがいいじゃないかと考えていますが、これが商品の上で他社2台に対する弱点であり、その弱点を補う何かしらの目玉になるものがないのが台数差を生んでいる要因かも知れません。
例えば荷室まわり。3列めシートの使用性が他の2台に対してホンダの勝ちと「ユーティリティ編」に書きましたが、バックドアそのものにはあとひとひねり必要だと思いました。
ステップワゴンはバックドア開閉にパワー式を起用してはいるものの、何も小さい荷を出し入れするのに大きい荷の積み下ろし時同様に大きなバックドアを大きく跳ね上げる必要はないわけで、先代の「わくわくゲート」廃止と引き換えにガラスハッチにしてもよかった。セレナは電動バックドアがない代わりに上半分がガラス枠ごと開くようになっています。
ひとにもよるでしょうが、筆者にはバンパー下に足を投げ入れてのパワー開閉デバイスよりガラスハッチのほうがありがたみは大きく感じます。
内装もおとなしく、何か華がほしかった。別段ノア/ヴォクシー、セレナとて華という華があるわけではありませんが、ステップワゴンは先代、先々代にちょっとしたきらびやかさがあっただけに今回のクルマはいくらか地味さも感じるわけです。車両価格がべらぼうに上がらない範囲で、乗って気分が華やかになる要素が加えられれば。
ところで、本リアル試乗でメーカーから拝借したクルマに乗っていると、不思議と同じクルマが目につくものです。
先回採り上げたマツダCX-60に乗っているときはそこかしこでCX-60を見かけたし、三菱eKワゴンに至っては、同じeKワゴンどころか、初代、2代めまで視界に入り込んできたもの。アトレーのときも同じ・・・当人としてはそのつもりはなくても、無意識のうちに意識しているのだろうと思っています。
ところがステップワゴンに限っては、走っている間はもちろん、ホンダに返却していまに至るも、ノアよりもヴォクシーよりも、はてはセレナよりも現行ステップワゴンを多く見かけます・・・日本全国をかっ走ればまた違うのでしょうが、少なくともいま筆者がいる東京都内のうろつき圏内ではステップワゴンのほうが目撃頻度が高い。だからこそライバルに比べてステップワゴンの販売台数が半分ほどなのは意外でした。
だからといっていつぞやのエリシオンみたいに、ライバルに引きずられてマイナーチェンジで迫力顔に大幅手術を施す必要なんかなし。内側から熟成させ、その変化が外側にじわりと表れるように変化していくことでユーザーを獲得し、ゆっくりとシェアを拡げていってほしいと思います。
●エピローグ・うれしい話をもうひとつ
毎回最後に燃費の報告をしていますが、その前にここであらためて。
筆者は以前、2000年型のブルーバードの4速AT車を2000年から2008年まで使っていました。エンジンはQG18DE型・排気量1800のリーンバーン(希薄燃焼)でしたが、「リーンバーンで15.6km/Lの低燃費(10・15モード燃費)」を謳う割に実燃費は車重1.2トン余で10.0~11.0km/Lほど。リーン燃焼時はメーター内に「ECO」と書かれた緑色の小さなランプが灯り、点灯時間をできるかぎり長引かせて走ってもリーンバーンなりのありがた味はほとんどありませんでした。クーラーON/OFFの燃費差も小さくなかったように記憶しています。
その経験から今回のハイブリッドではない、純ガソリンエンジン車のステップワゴンでうれしかったのは、4ATとCVTの違いはあれど、トータル燃費は12.4km/Lだったことで、大したことないと思われるでしょうが、これはガソリンエンジン技術者の努力の賜物と称えるべきです。
ステップワゴンは直噴のターボ付き1500cc、重量に至っては1740kg。直噴のCVTであるにしても、ターボはあるわ、重量はかさんでいるわ。それでいて以前のシビック並みの1500と、無理がありそうな排気量・・・少し前のクルマなら考えられない重量と排気量バランスで、条件は悪い方向にあると思うのですが、それでいてエンジン単体で走らせれば12.4km/Lなんて、これはほめていい数字だと思います。
この件が、これまでところどころで述べたうれしかった話の正体。
ヨーロッパ勢もメディア連中も、「CO2排出ゼロ・ガソリンエンジン廃止」なんて「ほんとに実現できるの?」といいたくなるお行儀のいいことばかりいっていないで、もうちょいガソリンエンジンに光を当ててあげてもいいんじゃないか? もっともヨーロッパは最近、何の心変わりをしたものか、「あ、あれ延期するわ」といいだしましたが。
ステップワゴンの燃費でうれしかった理由詳細を次項「燃費報告」で述べながら、全16回に渡ってお届けしたリアル試乗第9回・ステップワゴンを締めくくります。
次回の「リアル試乗」は、日産エクストレイルを採り上げます。
(文:山口尚志(身長176cm) モデル:星沢しおり(身長170cm) 写真:山口尚志/本田技研工業/トヨタ自動車/日産自動車/モーターファン・アーカイブ)
【燃費報告】
★試乗トータル燃費:12.4km/L(カタログ燃費:13.7km/L(WLTC総合))
★燃費計測のための総走行距離:396.4km/L(一般道 98.4km+高速道 263.0km+山間道 35.0km)
★試乗日:2023年7月8日(土)~9(日) 天候は晴れ、雨、くもりが混在。クーラーはONにしっぱなし、ECONスイッチはOFF、アイドリングストップはON(停車時にエンジンは止まる)
【経路内訳】
一般道:東京都練馬区~新宿区~江東区、群馬県前橋市内 計98.4km
高速道:
・首都高速台場線・台場IC~都心環状線C1右周り~5号池袋線・早稲田IC 計14.0km
・関越自動車道 下り・練馬IC~北関東自動車道・前橋南IC 計88.7km
・関越自動車道 下り・前橋IC~沼田IC 計33.5km
・関越自動車道 上り・沼田IC~練馬IC 計126.8km
山間道:群馬県赤城山 中腹まで2往復 計35.0km ※濃霧のため、中腹までにとどめての2往復としました。
【所感】
実燃費12.4km/Lはカタログ燃費(WLTC総合)の13.7km/Lに対して90.5%。カタログ値も実燃費も大したことはないとバカにしてはいけない。車重は1.5tをはるかに上まわる1740㎏。CVTであることのほか、今回、エンジン入切のたびにON・OFFをするのがめんどうだったのでアイドリングストップはクルマ任せ(停車時にエンジンも止まる)にしていたことの効果もあるだろうが、(直噴とはいえ)ターボであること、何といっても猛暑の折、クーラーをONにしっぱなし、そしてホンダ車でおなじみECONスイッチはOFF、という燃料消費抑制とは反対の使い方をしたにもかかわらず、WLTC値からの落ち込み幅が1割にも満たない90.5%の12.4km/Lがうれしかった。10・15モードからJC08を経てより計測方法の厳しいWLTCモードなのにである。それでいてドライバビリティは悪くなかったのだから恐れ入る。時流に乗っかってガソリン車との価格差、約40万円を余計に払い、いつモトが取れるのかわからないままe:HEV版を入手して走り続けるより、カタログ値からの乖離幅が少ないガソリン車を選ぶほうが賢明なのではないか。地球環境も大事だが、この時勢、出費を抑えたいというのが庶民の本音でしょうという本音をまる出しで書きたくなるステップワゴンであった。
えらいぞ、直噴ターボL15Cエンジン(とCVT)! もっとよくなぁれ!
【試乗車主要諸元】
■ホンダステップワゴン スパーダ〔5BA-RP6型・2022(令和4)年5月型・FF・CVT(自動無段変速機)・ミッドナイトブルービーム・メタリック〕
●全長×全幅×全高:4830×1750×1840mm ●ホイールベース:2890mm ●トレッド 前/後:1485/1500mm ●最低地上高:145mm ●車両重量:1740kg ●乗車定員:7名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:205/60R16 ●エンジン:L15C型(水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ) ●総排気量:1496cc ●圧縮比:10.3 ●最高出力:150ps/5500rpm ●最大トルク:20.7kgm/1600~5000rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射(PGM-FI) ●燃料タンク容量:52L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):13.7/10.4/14.3/15.3km/L ●JC08燃料消費率:15.4km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソン式/車軸式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:325万7100円(消費税込み・除くメーカーオプション)