50ccバイクが128km/hオーバー? 時価3000万円の「世界最速の原付」が公開走行テストを実施

■50ccと125ccの世界最速バイクが新記録に挑戦

50ccの原付一種バイクといえば、日本の公道では制限速度が30km/hで、比較的のんびりと走るイメージがありますよね。また、より排気量が大きい125ccの原付二種バイクでも、公道では60km/hが制限速度ですから、そんなに超高速で走るイメージはありません。

50ccと125ccのレーサーでチャレンジ
50ccと125ccのレーサーでチャレンジ

ところが世の中には、その気になれば128km/hを超えるスピードで走れる50ccバイクや、170km/h近い速度で走ることができる125ccバイクが存在します。

それが、「SMC」という2輪のレーシングチームが製作した50ccの「NSX-51」と、125ccの「NSX-02」というモデル。

いずれも、2019年にアメリカ・ボンネビルで開催されたレースで世界最速記録を達成したのですが、その2台が2023年11月22日(水)・23日(木)の両日、秋田県のサーキット「大潟村ソーラースポーツライン」で、国内初の公開テストを実施するといいます。

しかも、そのテストでは、改良型マシンの「NSX-52」と「NSX-03」を用い、世界最速記録更新も目指すとのこと。一体、このスーパー原付マシンは、どんなモデルで、どんな目的でテストを行うのでしょうか?

●日本製造業の力を世界にアピールするプロジェクト

今回テストを行うSMCとは、スーパーミニマムチャレンジレーシングチームの略。映画監督で、マシンのライダーも務める近兼拓史氏が設立したレースプロジェクトです。

日本製造業のトップ企業が参加しマシンを製作
日本製造業のトップ企業が参加しマシンを製作

日本製造業のトップ企業が参加しているのがこのプロジェクト。目的は「日本のものづくり技術の素晴らしさを世界に示すために、(バイクの)世界最小最精密クラスで世界最速記録を達成する」というものです。

ソニーのトランジスタラジオやホンダのスーパーカブなどが代表するように、1950年代〜1970年代の高度成長期には、日本の花形だったのが国内の精密微細金属加工業。ところが最近は、IT企業にその座を奪われてしまい、すっかり影が薄くなっています。

現在でも、まだまだ世界屈指の技術、唯一無二の技術を持つ企業が多くあり、その技術力を世界にアピールしようというのが大きな趣旨だといいます。

映画監督で、マシンのライダーも務める近兼拓史氏
映画監督で、マシンのライダーも務める近兼拓史氏

しかも、発案者の近兼氏は昔からのオートバイ好き。そこで「小型高性能」なメイドインジャパン製品の象徴ともいえるスーパーカブのエンジンを使用したレーシングマシンを製作。アメリカ・ボンネビルで毎年開催されているFIM/AMA公認の最高速競技会「ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ(以下、BMST)」で、世界記録に挑戦することになったのです。

●スーパーカブ・ベースのレースエンジン搭載

マシンには、世界最小のスーパーチャージャー付き50ccレーシングエンジンを搭載したNSX-51と、ターボ付き125ccエンジン搭載のNSX-02を用意。ちなみにマシンの時価総額は3000万円とのこと。SMCによれば「フェラーリより高い」原付バイクだといいます。

スーパーカブがベースのレーシングエンジン
スーパーカブがベースのレーシングエンジン

そして、2019年のBMSTで、2台は見事に世界記録を樹立します。

NSX-51が1マイル(1.6Km)あたりの平均速度100km/h越え(平均速度101.771km/h、最高速度128.63km/h)を記録。NSX-02も、同じく1マイル(1.6Km)あたりの平均速度100km/h越え(平均速度101.375km/h、最高速度169.85km/h)を達成し、いずれも当時のカテゴリ記録を更新したのです。

2019年に世界記録を達成
2019年に世界記録を達成

SMCは、その後も、コロナ禍の3年間で、さらにマシンの開発と改良を進め大幅に性能を向上。改良型マシンの「NSX-52」と「NSX-03」を擁し、2023年8月に、再びBMSTへチャレンジし、記録更新を目指していたといいます。

ところが、84年ぶりに南カリフォルニアへ上陸したハリケーン「ヒラリー」の影響により、大会が中止に。そこで、マシンのポテンシャルを試す目的で、今回の国内初となる公開テストを開催することになったそうです。

●本番さながらの速度計測も実施

公開テストが行われるのは、大潟村ソーラースポーツライン(秋田県南秋田郡大潟村方上61-16)というコースで、前述の通り、2023年11月22日〜23日に実施されます。

公開走行テストが行われる大潟村ソーラースポーツラインのコース図
公開走行テストが行われる大潟村ソーラースポーツラインのコース図

テストでは、全長5kmの直線コースを同サーキットコース内に特別に設定。助走期間1000m、計測期間400mの平均速度を光電管で計測すると共に、400m出口地点にスピードガンを設置して最高速度も計測。いずれも、本番さながらの速度計測を行うといいます。

ちなみに、SMCによれば、今回の公開テストは、国内では最初で最後のチャンスになるだろうとのこと。

理由は、ボンネビルのランドスピード・レーサー(最高速チャレンジ専用マシン)を走らせるには、安全上最低でも5kmの直線コースが必要なのですが、なかなか、そんな距離が取れるレース用コースはないためのようです。

ともあれ「世界最速の原付」が、見事に新記録を打ち立て、メイドインジャパン製品の底力を世界に示してくれるのか? 今からとっても気になりますね。

(文:平塚直樹

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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