目次
■ステップワゴンの走りはいかに
ステップワゴン試乗第2回めは走り編。
一般道、高速路、山間道の3シーンで試してきました。
●1.5Lでも、ターボ&CVTの効果でライバルに引けをとらない走り
エンジンはL15C型・直噴1.5L VTECのターボ付きで、最高出力150ps/5500rpm、最大トルク20.7kgm/1600~5000rpmで、従来のL15Bと数字はまったく同じ。
改良点は少なく、エンジン本体よりも補機類に手を入れられています。排気系を従来4気筒分を1ポートに集約していたものをシリンダー1番と4番、2番と3番をグループ化して排気干渉の低減と効率を上げたことがひとつ。ターボチャージャーのタービンへの排気ガスを斜めから入るようにし、排気流の揚力で回転させるようにしたのと、コンプレッサー側の吸気流路をなだらかにして損失を低減したこと、それくらい。
車両重量は1740kgで決して軽くはありません、そして出力もめずらしくはない数値であるのに、20kgmを超えるトルクとCVTのコンビネーションのおかげで力不足なく加速していきます。
車速を上げたい、または追い越しで加速すべく、やや早めにアクセルを踏み込むとターボが稼働しますが、性格が急変することはなく、まことにもっておだやかです。
ターボが働くと「ヒューン」という稼働音が聞こえてきますが、遠くから聞こえてくる程度に小さい。よけいな音はないほうがいいというひとがいますが、いまターボが働いているのかいないのかをわかるようにするためには、この程度の音は残しておいたほうがいいと思います。できればメーター内にターボ稼働を知らせるインジケーターがあるといいのですが。
ステップワゴンは、一時期2.4Lも備えながら、先々代まで2Lエンジンを続けてきましたが、先代からターボ付き1.5Lにボリュームダウン(世の中は「ダウンサイジング」というが、あんなヘンな言葉は大嫌い)しました。ヴォクシーもセレナもガソリンエンジン車ならいまでも2Lなのに、ターボ付きとはいえ、ステップワゴンはこのサイズ、この重量なのに、「1.5」という数字の印象と違ってよく走るものよ。
いつもクルマはエンジンだけで走るのではなく、トランスミッションとのコンビネーションで走るといっていますが、後述のサスペンション同様、パワートレーンも排気量やパワーの数字だけで走るのではなく、チューニングやトランスミッションとの連携ぶりがものをいうというものです。
新型セレナにはまだ触れてはいませんが、昨年リアル試乗で採りあげたガソリン2L版ヴォクシーを思い出しても、1.5Lのステップワゴンは日常の走りでは決して劣っていません。高速路でのフル加速時の高回転の伸び切りは1.5Lなりですが、それも神経を研ぎ澄ませて比べればわかる程度の違いで、第一、その機会がどれほどあるかを考えれば大した問題ではありません。となると、ここはむしろ自動車税が、ライバルのガソリン車とだけ比較したとき、ステップワゴンが唯一1ランク下がることのほうに大きなメリットを見出すべきです。
タイヤサイズは205/60R16で、このクラスも幅は200mm以上、偏平率も60が標準的になってしまい、中には55タイヤ車まであってタイヤ交換費用が心配になりますが、サスペンションがうまいのか、「ストロークを拡大したと同時にばね定数を下げた(資料より)」ことが奏功し、全体的にやわらかめで好印象のものでした。
既定値にセットしたタイヤ圧は前輪2.4km/cm2、後輪2.5㎏/cm2と現在の目で見てもやや高めですが、その高圧ぶりが乗り味に影響していないのもたいへんけっこう。
サスペンションは、前輪がマクファーソン式ストラット、後輪が車軸式(4WDはド・ディオンアクスル)と、いまどきの定番な組み合わせにしてこちらも旧型と同じ。
サスペンションは、ダブルウィッシュボーンやマルチリンクは響きも見た目もカッコよく、構造も複雑でありがた味がありそうに思えるいっぽう、車軸式は漢字3文字と不愛想、実物も「これで大丈夫?」と思うほど簡潔な構造です。
カローラクロス(リアル試乗第1回)でも同じ感慨を抱きましたが、ステップワゴンで走ると、サスペンションはどのような型式であろうと、要は設計次第、チューニング次第であることがわかります。
高速路でアスファルトの継ぎ目をまたいでサスペンションが伸縮するとき、前側が1回揺れで収まるのに対し、後輪側は複数回上下するクルマが意外と多いのですが、ステップワゴンはやわらかめの乗り味の割に、前後とも1回できちんと収まるのに感心。
街乗りでも高速路でも突起越えの瞬間にわずかなコツコツ感がありましたが、これはタイヤのせいでしょう。車体の揺れ方や揺れの収束は筆者が好むもので、特にここがこうであればといいたくなる要望点は出てきませんでした。
ハンドリングは、この種のクルマとしてはキビキビしたもので、ハンドルの戻り&直進の取り戻しも鮮明・・・そもそも出足の段階から「直進性がいいな」と思ったもので、もしかしたらキャスターアングル(車両をサイドから見たときの前輪転舵軸の後傾角)が大きめなのかも知れません。
ハンドルの回転数は、筆者目測で左が1回転と225°、右が1回転と230°。ロックtoロックは720°+455°となり、最小回転半径は5.7m。ヴォクシーが同じタイヤサイズで5.5mであることを思うとステップワゴンが手抜きしているように見えますが、わずかな違いも逃さず見るなら、あちらヴォクシーのホイールベースが2850mmなのに対し、こちらステップワゴンは40mm長い2890mm。トレッドもこちらのほうがヴォクシーよりも前後15mmずつせまく、トレッド差がタイヤ切れ角に影響している可能性もある・・・これら2要素の差が表れているといっていいでしょう。
ハンドルを右にフルロックしたときの前輪のようすは写真のとおりです。
●希望どおりに働くエンジンブレーキがありがたいCVT
ステップワゴン試乗第1回で、「このクルマではあたり前が目につく」と書きましたが、そのひとつがトランスミッション・・・CVTのエンジンブレーキ制御にあります。
いまや登降坂制御はどのクルマにもありますが、登りのダウンシフトはともかく、下り坂での自動エンジンブレーキの効きはここぞというところで起動しなかったり、フットブレーキを加える必要があったり・・・たまに希望どおりに働いてくれようものなら、立った茶柱を見たときのようにうれしくなるくらいどのクルマも控えめですが、ステップワゴンはその働きが明白です。
下り坂でアクセルを放し、速度が上昇すればエンジンはときに4000回転にまで上がるほど自動でエンジンブレーキがかかる。これくらいなら他のクルマでもありますが、ステップワゴンはこの頻度が高く、クルマが常にいまの状態をつかんでいるのがよくわかるというもの。
ありがたかったのは、ドライバー任意ででもエンジンブレーキを効かせられる場面があったことで、下り勾配でたまたまエンジンブレーキが稼働しないときにブレーキをチョン踏みすればクルマ自らエンジンブレーキを作動してくれるばかりか、これが下り坂のみならず、市街路でも機能してくれるのが優れています。
先々の赤信号を捉えて早期から減速するときに便利なこの作動、どのクルマも申し訳ていどにしかしてくれないこのペダルチョン踏みのエンジンブレーキという「あたり前」の機能が、ステップワゴンのCVTには備わっています。
後から調べたら、今回の新型ステップワゴンはエンジンよりもCVTの制御に力を入れたようで、「一定以上強くブレーキを踏み込んだ際、CVTレシオを低く制御しエンジン回転数を高く保ちながら段階的にダウンシフトし、エンジンブレーキによる制動力を確保。下り坂での安心感を高めます。・・・」と。
不思議なのは、この優れた「ブレーキ操作ステップダウンシフト制御」機能の説明が、多くのひとの目に触れない広報資料には記載しているのに、購入前のカタログ、納車後の取扱説明書、多くのひとの目に触れるこのふたつの中にはいっさい触れられていないことで、これは損でもったいない。カタログや取扱説明書でおおいにPRすべきだと思います。いまのひとたちは興味ないのかなあ。
どこのメーカーも背高グルマに造り慣れしたので、いまさら語るまでもないのですが、1800mm超の全高であっても高速路での車線変更や山間道でのカーブ進入でのローリング(車体の横傾き)に不安を抱くようなことは、このステップワゴンにもありません。
セダンやステーションワゴン型ではない、この形、全高ならではの傾き量ではありますが、むしろこれくらいに傾きを残してくれたほうが状態がつかみやすくていいものです。
高速路といえば、資料で「優れた空力性能」を謳っている割に、高速走行時にいくらかの風切り音が無風下でも耳につきました。全体的には80~100km/hで巡行。気になるほどの音量ではなく、感覚としては2列目席あたりのルーフが音源のようでしたが、音の発生源は思いもかけない場所であることが多いのでほんとうのところは分かりません。
ただ、全体的には空力性能は優れていて風はボディ面をうまく撫でていくのでしょう。夏場の高速走行の悩みの種である、ボディ前面やフロントガラスへの虫の付着はほとんどありませんでした。同じホンダ車でも昨年採りあげた旧N-BOXとは大違い。このたびの新型N-BOXはどうかな。
●視界向上をよく練られた前席
運転席に座って気づくのは、視界が良好なことです。
この「リアル試乗」の前身として単独で行ったホンダフィット試乗のとき、サイドの三角ガラスの前後ピラーの工夫に目を見張り、なぜこの工夫を資料やカタログで大々的にPRしないのかと書いた覚えがありますが、ステップワゴンもフィットほどの工夫はないものの、他社の一部でも見られる、ドライバー視界のじゃまにならない工夫がピラー形状に施されています。
衝突に対する耐変形や剛性確保のためなら柱は太ければ太いほうがいいに決まっていますが、ステップワゴンでは一定の断面積を維持した上で、運転者がピラー幅を実際より細く見えるようにしています。
写真を見るほうがわかりやすいでしょう。ドライバーから見た右フロントピラー・・・というよりも、サイド三角窓手前側の第2フロントピラーは、いっけん細く見えますが、見る角度を変えて三角ガラス正面の位置から見ると、ガラスに向かう面が存在することがわかります。
この造りは当然助手席側も同じで、左の柱は助手席から細く見えるいっぽう、ドライバーからはまる見え・・・ということは、助手席乗員はドライバー側のピラーがまる見えになり、パッと見ほど柱は決して細くないことがわかります。
2~3代目プレリュード、3~4代目アコード、4代目あたりのシビックあたりが顕著ですが、80半ばから~90年代にかけてのホンダ車は、フロントピラーを極限(?)まで細くし、併せて着座位置も低くしてホンダ車独特の視界を生み出していました。
ただ、衝突規制対応という社会要請が高まるとそうもいっていられなくなったのか、他社も同じですが、21世紀初頭ごろの初代フィットや3代目オデッセイの頃は、薪のようにぶっとい柱を用いるようになりました。あの柱を細くするあの技術を自慢していたホンダにだけは、柱は細いまま要請に応えてほしかったと落胆したものです。
いまは技術が進み、断面積や断面形状、断面係数などを工夫して、以前よりはだいぶよくなっています。
●内外デザインに採り入れられた、内外デザインの工夫
筆者はいつも、「自車のおおよその幅や長さが目でわかるよう、原則的にボンネットは見えなければならない」「柱は細く」「駐車操作がしやすいよう、ウエストラインは水平に、内装もラウンドさせず、フラットに」といっていますが、そもそも今回の新型ステップワゴンでうれしかったのは、これら運転視界に関する要望を、まるでホンダが筆者からヒアリングしたかのように採り入れたことです。
前述の柱の件のほか、ウエストラインが定規をあててまっすぐ線を引いたかのように直線で、変なうねりはないし、見た目にはほとんど地面と平行。これは駐車操作や車庫入れで区画線や壁に対してまっすぐ収めるのに役立ちます。
後ろを振り返ったとき、たいていのクルマはクオーターガラスからバックドアにかけての内装トリムがラウンド、リヤボディの角っこがわかりにくいし、サイドガラス上縁もルーフのドーム形状に呼応した弓なりになっていて、ピシッと走るタテヨコ線が皆無に近いので、いま自分のクルマがどの向きにあるのかわかりにくいのですが、ステップワゴンはとにかくキャビンがタテタテヨコヨコの線で包まれた直方体なのがよい点です。
このへん、ホンダもおおいに意識したようで、ドア内張り形状にも工夫を凝らし、「ドア断面に厚みを持たせ、上面と表皮の境目に光の面と影を作ることで、水平視野を強調」しているのだと(資料より)。これを次のステップワゴンでも実践してくれると本物だと思うのですが、まずはこの策は成功しています。
残念ながら、ボンネットは資料で謳っているほどドライバーから見えるものではありませんでした。背筋を伸ばしてフードを覗き込んでも鉄板を斜めから眺めるだけのもので、どのあたりが先端で角なのかよく分かりません。こと今回の試乗車のように車体色がダークカラーだとフードパネルもアスファルト色と近似しているので日中でもわかりにくい。その意味からも、被視認性の見地からも明るい色を奨めます。とにかくフードは途中を見せるのではなく、先端部の両端と中央を見せるのが本当だと思います。だからホンダの説明イラストは逆で、紫色のエリアを見せるのではなく、コーナーとセンター(筆者が画像ソフトで加えた赤着色部)をポイントで見せてほしいのです。
それはそれとして、現状でもいくらか見えるフードと路面の境目が、外から見たときに車両からどの位置にあるのかを調べてみました。
距離測定の方法が、頭で考えたら簡単だったのに実作業はけっこうめんどっちかったので今後も行うかどうかわかりませんが(実にいいかげんだ)、長めの棒を車両前方に横向きに置き(=フロントグリルと平行)、クルマをドライバー視線でフードと重なった位置で停車させて計測・・・その距離たるや、「やっぱりやってみなきゃわっかんねえもんだな。」としみじみ思った、意外に長い4.7mでした。すなわち信号待ちでフードと前車のリヤバンパー裾あたりが重なる位置に止まったとき、その車間距離は5ナンバーサイズのクルマ1台分ほどになります。これは身長176cmの筆者が、運転席シートを最上位にしたときの数字ですが、目安にしてください。
シートは座面幅・奥行き・背もたれ丈、よほどの巨漢でも受け止めてくれるサイズを持っています。後ろを振り向いたとき、前席ヘッドレストがほどほどサイズで目の邪魔にならないのもほめられる点。
背もたれはサイドの張り出しが適度で、右左折でも腰部を適度に支持しながら乗降の邪魔にならない適当な形状。座面のほうは長時間乗っているとなぜか左足の太ももが疲れてきたことが2度ほどありましたが、いずれもこのリアル試乗のために3~4時間乗ったときに起きたことで、ふつうのひとは長距離運転でも1~2時間に1度は休憩するでしょうからたいした問題ではありません。
そうそう、空調の効きがいいのも感心しました。
乗っている期間中は猛暑の日もあり、エンジン始動前に全ドア・全窓を開けて空気の入れ替えをしてもけっこう熱が残るものですが、この状態で全ドア&ガラスを閉じ、エンジン始動&クーラーONにしても、初めからきちんと冷えた風が出てきます。この「初めから」が意外と少なく、経験的にホンダは、より冷えがよいかつてのフロン12を使っているのではないかと思うほどクーラーの効きがよろしい・・・ステップワゴンもその例にもれません。
この新型ステップワゴン、シート(3列め)にも空調にはほめる点がありましたが、これは例によってもったいぶってユーティリティ編までおあずけ。
というわけで今回はここまで。
次回、「Honda SENSING」編でお逢いしましょう。
(文:山口尚志(身長176cm) モデル:星沢しおり(身長170cm) 写真:山口尚志/本田技研工業/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■ホンダステップワゴン スパーダ〔5BA-RP6型・2022(令和4)年5月型・FF・CVT(自動無段変速機)・ミッドナイトブルービーム・メタリック〕
●全長×全幅×全高:4830×1750×1840mm ●ホイールベース:2890mm ●トレッド 前/後:1485/1500mm ●最低地上高:145mm ●車両重量:1740kg ●乗車定員:7名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:205/60R16 ●エンジン:L15C型(水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ) ●総排気量:1496cc ●圧縮比:10.3 ●最高出力:150ps/5500rpm ●最大トルク:20.7kgm/1600~5000rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射(PGM-FI) ●燃料タンク容量:52L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):13.7/10.4/14.3/15.3km/L ●JC08燃料消費率:15.4km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソン式/車軸式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク ●車両本体価格:325万7100円(消費税込み・除くメーカーオプション)