国産乗用車初のターボモデルが日産「セドリック/グロリア」(430型)に追加。1980年代の高性能ターボ時代の幕開け【今日は何の日?10月31日】

■直6 SOHCエンジンにターボを搭載したセドリックターボ登場

1979年に追加されたセドリックターボ
1979年に追加されたセドリックターボ

1979(昭和54)年10月31日、日産自動車の5代目「セドリック」と兄弟車6代目「グロリア」に、国内乗用車としては初のターボチャージャー搭載モデルが追加されました。

当時のセドリックは、日産のフラッグシップとして、トヨタの「クラウン」とともに日本の高級車市場を二分する高級車でした。


●クラウンに対抗して日産の高級車セドリック誕生

初代セドリックは、1955年に誕生したトヨタ「トヨペットクラウン」の対抗馬として、1960年にデビューしました。日産が初めて独自に開発した6人乗りの高級セダンで、縦目4灯のフロントマスクとAピラーを前傾させたパノラミックウインドウなど、アメ車風のスタイリングが特徴でした。

1960年にデビューした初代セドリック
1960年にデビューした初代セドリック

モノコックボディで車重を1195kgに抑えながら剛性を高め、さらに足回りはフロントがダブルウイッシュボーン/コイル、リアは3枚リーフ/リジッドサスペンションを装備して、高級車らしい乗り心地を実現。パワートレインは、71PSを発揮する1.5L直4 OHVエンジンと4速MTが組み合わされました。

ハイグレードのデラックスには、ヒーター、ラジオ、時計などが標準装備され、車両価格は101.5万円と、初代クラウンと同額に設定され、日産のフラッグシップとしてスタートしたのです。

●シャープなスタイリングの5代目にターボモデル追加

セドリックターボのリアビュー
セドリックターボのリアビュー

その後もセドリックはモデルチェンジしながら、高級車としてライバルのクラウンと人気を二分するポジションを獲得。1979年6月に登場した5代目セドリックは、先代のデコラティブなスタイリングから、直線と平面を基調にしたシャープなスタイリングに変貌しました。

エンジンは、2.0L直6 SOHCキャブ仕様&EGI仕様、2.8L直6 SOHC EGI仕様のガソリンエンジンと、2.0L&2.2L直4 OHVのディーゼルエンジンを設定。ちなみにEGIは、噴射量や点火時期などをコンピュータで総合的に制御する電子制御システムで、国内初の技術でした。

同時期に登場した兄弟車グロリアターボ
同時期に登場した兄弟車グロリアターボ

そして、5代目デビューから4ヶ月後のこの日、2.0L直6 SOHCエンジンにターボを装着した国産乗用車初のターボモデルを追加。ターボエンジンの過給圧は抑え気味ながら、最高出力145PS(ベースエンジンに対して15PSアップ)・最大トルク21.0kgm(4kgmアップ)を発生し、スポーティな走りができるモデルとして人気を集めました。

セドリックターボの車両価格は、226.3万~264.2万円、販売面ではクラウンにはおよびませんでしたが、堅調な販売を記録しました。ちなみに当時の大卒の初任給は、11万円(現在は約23万円)程度でした。

●セドリックターボが起爆剤となってターボ時代到来

1970年代は、オイルショックや排ガス規制が強化されて環境性能が重視された時代、そのため出力向上のためのターボエンジンは、運輸省(現、国交省)の認可がなかなか下りませんでした。

ところがセドリックターボは、高出力のためではなく「中低速トルクを増大して低燃費と性能のバランスを取ったターボ」ということを主張して、今でいうところの低圧ターボに近いコンセプトで、国内乗用車として初めての認可を受けたのです。

セドリック搭載ターボエンジン(L20ET)
セドリック搭載ターボエンジン(L20ET)

許可が下りたセドリックターボの登場が起爆剤となって、1980年代に入ると各メーカーから堰を切ったようにターボモデルが投入されます。そのほとんどは高性能を追求するために大型タービンを使った過激な高出力ターボでした。

しかし、圧縮比を下げて過給圧を上げるという手法は燃費の悪化を招くため、次なる地球環境問題がクローズアップされてきた1990年代中頃には、ターボモデルは悪者とされて市場から淘汰されていく流れでした。

そしてさらなる20年の時を経て2010年代に入ると、欧州で燃費向上のためにダウンサイジングターボというコンセプトが市場を席巻し、再びターボモデルが復活を果たしたのです。


ターボチャージャーが日本車のエンジンに登場後、高出力化の切り札として人気は爆発しました。けれども当時のターボは燃費の悪さから環境に対して悪者扱いされてゆきます。ところがCO2削減が叫ばれる現在は、低燃費、CO2排出削減に貢献する技術として活用されています。

ターボは、基本的に排気エネルギーを回収するという技術なので、上手く使えば省エネになるはずなのです。そのターボ技術の進化は当時の速いターボのブームで培ったものも大きかったはず。技術の進化はどう転ぶのかわからないものですね。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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