■「MORI TAGシステム」とヤマハ発動機の「RINTO」で新たな林業、森林管理の可能性が広がる
産業用無人ヘリコプターを手がけるヤマハ発動機は、農業分野や森林計測サービスなどで同ヘリコプターの活用、提案を行っています。
今回のヤマハ発動機「ニュースレター」は、日本で7割を占める森林がテーマになっています。林業の衰退という課題が浮き彫りになる中、ヤマハ発動機による国産広葉樹活用に無人ヘリの森林計測が貢献している例が報告されています。
同レポートで登場するのは、里山を歩き、樹木のデータを取得し、幹にタグを付ける国産広葉樹活用プロジェクトの皆さん。
ナラやカエデ、サクラの仲間など、各種広葉樹を探索し、記録をつけている、神戸大学などでつくる「国産広葉樹活用プロジェクト」にスポットライトが当てられています。樹種を特定し、幹の長さや直径を測り、さらには形状や生育状態などを確認してデータベースに入力していきます。
広大な森の中で木々にタグを付けていくのは、気が遠くなるような作業に思えます。そこで開発された「MORI TAGシステム」が運用されています。
「MORI TAGシステム」は、広葉樹の活用や流通の活性化を目指して開発された、新しい発想の森林管理システム。樹木を伐り出すことなく立木のまま電子カタログに掲載することで、木々の個体情報を必要とする事業者などに知らせることもできるそうです。
森の中に点在する広葉樹を材や財として浮かび上がらせ、その活用、流通を促すことで、森林の持続的な管理にも期待ができます。2022年には、「グッドデザイン賞」も受賞しました。
神戸大学名誉教授で、「MORI TAGシステム」を展開するアーボレータの黒田慶子代表は、「かつて広葉樹は、薪炭や暮らしの道具の原材料として日本人の生活には欠かせないものでした。現在、家具などに使われている広葉樹のほとんどは、輸入材です。売り手と買い手をつなぐ仕組みをつくることで、伐る、使う、育てるという循環を創出し、日本の林業の振興や森林環境の保護、放置山林の整備による防災などにも結びつけたい」と語っています。
「MORI TAGシステム」を使っても樹木の調査やタグ付けには、人の手による大きな労力が必要なのに変わりはありません。広大なエリアを手当たり次第に歩いて広葉樹を探すのは効率も悪く、現実的ではないでしょう。
そこで連携したのが、ヤマハ発動機のスマート林業支援サービス「RINTO(リント)」。産業用無人ヘリコプターによるレーザー計測で高精細な森林情報を取得し、計測データの解析や可視化を行うサービスです。
前出の黒田さんは、「2022年に長野県の山林で空からのレーザー計測を試験的に実施しました。広葉樹林の幹計測は、それまでは困難とされていたそうですが、私から落葉期なら計測できるのでは、と提案させていただきました。それなら同じ場所で空と地上から計測してみよう、と話が広がり、今回、試行が実現しました」と、「RINTO」の活用についても触れています。
デジタルカタログによる広葉樹の販売はすでにスタートしていて、2022年は大手家具メーカーが長野県の立木を購入したそう。受注後、伐採から製材、納品へと進み、新しい流通、販売のスタイルが構築されました。
黒田さんは、「里山所有者の大半は農家の皆さんです。無価値だと思っている里山の広葉樹を資産と認識していただくことがその第一歩です。今後は埼玉県川越市の平地林など、MORI TAGシステムの活用エリアを順次拡げていきたいです」と次の展望も披露しています。
(塚田勝弘)