■電動化で「学生フォーミュラ」のEVクラスに挑戦する大学の入部希望者が増加傾向
●自身の経験を学生さんたちへ伝え「気づきを導き出す」
ヤマハ発動機の広報グループが発信している「ニュースレター」は、グローバル企業が企業活動のみならず、多様な事業を悩み、考え尽くして行っていることを気づかせてくれます。今回のテーマは、同社による学生フォーミュラのサポート活動について。
ヤマハ発動機には、「学生フォーミュラ」を経験した社員が70人以上在籍しているそうで、主にエンジニアとして活躍しているとのこと。その多くが社内支援活動のメンバーで、次世代をサポートしています。
同社の学生フォーミュラ支援活動でリーダーを務める、PF戦略部の斎藤悠介さんもそのうちの1人です。
自身が金沢大学の学生だった頃、同社支援活動のメンバーから受けた「ブラックボックスではない」という助言と指導が心に残っているそうです。現在、電動モビリティの開発者として活躍する中でも、「自分の土台になっています」と振り返ります。
斎藤悠介さんは、「エンジンはブラックボックスではない…。今も強く心に残っている言葉です。その言葉に刺激を受けた私たちが、今度はモーターや制御もブラックボックスではないよ、と背中を押す立場になりました。学生の皆さんには、どんどんチャレンジして、モノづくりの喜びを肌で感じる濃密な時間を過ごして欲しいと願っています」と続けます。
2023年8月下旬から9月上旬にかけて、「学生フォーミュラ」の日本大会が静岡県袋井市で開催されました。学生によって組織されたチームがフォーミュラスタイルのレーシングマシンを設計、製作し、その企画や技術の総合力が競われます。
ここ10年、学生フォーミュラの現場では、時代の流れを感じさせる変化が生まれています。同社のMBSE推進部に所属し、学生フォーミュラ支援活動でサブリーダーを務める清水良祐さんは、「2013年からEVクラスが始まって、年々、電動にコンバートする学校が増えてきました。今年はEVが全体の3分の1を占めて、弊社も静岡大学と名古屋工業大学の2チームに、モーターとインバーターを提供しました」と、学生フォーミュラの現場にも電動化の流れが来ているそうです。
しかし、EVクラスの歴史はまだ浅く、経験や知見が少ないこともあり、車検をパスすることさえ困難な状況が続いています。ヤマハ発動機の支援活動には、学生たちとの向き合い方に、伝統的な作法が存在するそうです。学生たちに「答えを与えない」ということで、自らを相談役と位置づけ、気づきを導き出すことを主眼とした支援が続けられています。
サブリーダーの清水さんは、「すべての技術は、先人たちの失敗の上にあると私は考えます。頭をひねり、手を加え、そして壊す。そんな失敗を繰り返さないために、再び学び、考える。学生の皆さんにはそうした機会を提供していきたいです」と、あくまでアドバイザーに徹しています。
ヤマハ発動機の同タスクチームの支援を受けて、EVクラスに出場した2チーム。名古屋工業大学はEVクラスで2位になり、全種目完走という目標を達成しました。
一方の静岡大学も、2022年に涙をのんだ車検を見事にクリア。同社の支援活動では、EVの基礎を学ぶ講座の実施などが計画されていて、今後も学生たちを支援していく予定とのこと。
このように、学生フォーミュラの世界でもEVシフトが加速し、EVクラスにコンバートするチームが相次いでいるだけでなく、EVクラスにチャレンジする大学は、入部希望者が増加傾向にあるそうです。リーダーの斎藤さんは、「学生フォーミュラに打ち込んだ4年間で、自分はモノづくりの型を得ることができた」とも振り返っています。
(塚田 勝弘)