■傾斜3度の登り100m試走では、アシストなしと比べて8車身もの差も
ヤマハ発動機の広報グループが発信しているニュースレターは、ヤマハ発動機のみならず、グループ会社やOBなどの活躍まで幅広い分野が対象になっています。
今回は、消防防災関連製品を企画、開発を担うヤマハモーターエンジニアリングが取り上げられています。
同社が企画・開発した次世代型のホースカー「X-QUICKER クロスクイッカー」について、その背景が紹介されています。
2023年6月に開催された「東京国際消防防災展」でも大きな注目を集めた「X-QUICKER クロスクイッカー」は、コンパクトな車体に、高出力モーターが2基搭載された電動アシストモデル。パワフルかつ、操作は引くだけという操作性の高さが特徴です。
火事の現場では1秒を争うのは容易に想像がつきます。放水用ホースは1本あたり約6~8㎏にもなり、しかも計10本。そのほか、現場で必要な資機材を合わせると、重量は約120㎏にもなるそうです。消防ポンプ車が入り込めない狭い道などでは、隊員が一刻を争う中、火元までホースの延長や運搬を行っています。
「X-QUICKER クロスクイッカー」を企画したヤマハモーターエンジニアリングの杉山和弘さんは、「こうした製品を開発する上で、現場の声ほど大切なものはありません。人力の手引き型では、とくに坂道などで体力的な負荷が大きく、時間もかかるという意見がある一方で、従来の電動式ホースカーは、人と車両の動きが合わない、大柄で重く、消防車への積載ができないなどの声がありました。より小型、軽量なホースカーが求められていました」と企画の背景と狙いを明かしています。
現場の声を受けて、緊迫した消火救命現場で消防隊員の迅速、確実な活動をサポートする電動アシストモデルの開発がスタートしたそうです。
また、消防防災の現場にも少子高齢化という課題や、女性が活躍するという新たな光も差しています。人命にもかかわる厳しい現場において、体力や経験、そして年齢や性別などが異なる消防隊員や消防団などが活躍するためには、各活動の負荷軽減に向けた取り組みが不可欠。
電動アシスト機能を有するホースカーも、課題解決に向けたソリューションのひとつ。開発を担当した藤井 勲さんは「最適な制御を見つけるまでは苦労の連続でした。引っ張る力のアシストは、自転車の構造とはまったく異なります。開発当初はガクガクしたり、ウイリーしたりの繰り返し。部門の仲間たちの協力を得てオフロードコースや坂道でテストを重ね、最終的には人機一体感のあるパワフルな制御を実現できました」と手応えを得ているようです。
次世代型のホースカー「X-QUICKER クロスクイッカー」は、最大アシスト時は操縦者の負荷を最大80%軽減(同社調べ)する力強さと扱いやすさを兼ね備えているそう。
とくに、発進時や登坂時、段差乗り越え時に高い機動力と踏破力を発揮し、傾斜3度の登り100m試走では、アシストなしの場合と比べて8車身もの差が確認できたそうです。
企画、開発を担った2人は、2024年4月に発売予定の「X-QUICKER」の前に立ち、「火災現場での消防隊員の活躍を技術で支えることができたら、エンジニアとして本当にうれしい」と語っています。
(塚田勝弘)
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