ヤマハ発動機が仮想空間で新感覚モビリティを提供した狙いとは?【ヤマハ発動機ニュースレター】

■バーチャルとリアルの体験が紐付くことを示すデータも獲得

ヤマハ発動機の広報グループが発信しているニュースレターは、同社の企業活動のみならず、グループ会社も含めた社会活動まで幅広い分野についてレポートされています。

今回のテーマは、同社が出展した世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」。ヤマハ発動機は、2023年7月に開催された「2023 Summer」に出展し、シェアライドサービスの提供、アバターの販売を行いました。

「2023 Summer」で提供された空中での浮遊感を楽しめる「VRパーソナルビークル」
「2023 Summer」で提供された空中での浮遊感を楽しめる「VRパーソナルビークル」

プロダクトデザイン部の菅家隆広さんは「初めてこのイベントに参加したのは2021年で、今年で3回目です。長期的には、仮想空間による顧客コミュニティの構築なども視野に入れています。現段階では、知見を蓄積する研究の場として段階的に出展しています」と、その狙いを明かしています。

プロダクトデザイン部が目指すのは「未来を魅せる場の創出」だそうです。リアルとバーチャルを融合した世界をつくり、バーチャルの場を活かし、ユーザーの生活に根差した次世代モビリティを生み出すことを掲げています。

友だちと会話をしながら会場を周遊できるスローモビリティ「VRコミュニケーションビークル」
友だちと会話をしながら会場を周遊できるスローモビリティ「VRコミュニケーションビークル」

新しい顧客に向け、新たな体験価値の提供をする背景には、バーチャルがきっかけになり、得られるデータがあるからです。たとえば、2022年の同イベントでは、仮想空間で約20万人もの来場者が電動アシスト自転車に試乗。

試乗した人を対象にしたアンケート調査では、46%の人が現実世界では電動アシスト自転車に乗った経験がなく、さらに仮想空間で試乗体験をしたことで、そのうち65%の人が現実世界でも乗ってみたい、と回答するなど、リアルとバーチャルの体験が紐づく可能性を示しています。VR試乗をきっかけに、約3万人が電動アシスト自転車に乗ってみたいと回答したそうです。

今回の「2023 Summer」では、空中での浮遊感を楽しめる新感覚モビリティのシェアライドサービスなどを提供し、多くの来場者が利用しました。主な狙いは、既存領域を超えた次世代モビリティの可能性の探索です。提供価値の異なる試作によって、どのような価値を生み出したのかをリサーチ。

菅家さんは、「仮想世界の中では、多くの人が、意外と急いで移動してしまうものです。しかし、移動しながら周囲の風景を楽しんだり、点在するイベントについて友だちと話をしたり、もっと空間を楽しむ移動があってもいいのではないかと考えました。提案のひとつが、浮遊するロースピードモビリティのVRコミュニケーションビークルでした」と続けます。

最上級バイクの「YZF-R1」のパーツが組み合わされたアバターを限定販売
最上級バイクの「YZF-R1」のパーツが組み合わされたアバターを限定販売

また、先述したように、今回は初めてアバターの販売も行われました。スーパースポーツ「YZF-R1」が擬人化されたオリジナルアバターを5000円で販売することで、3Dデジタル製品に対する価格調査の検証が行われました。

「アバターの販売には、2つの目的があります。ひとつは既存の顧客に対して、仮想空間の中でもバイクを楽しんでいただく新しい価値を提供すること。もうひとつは、現実世界では接点が薄い皆さんに、当社の製品に対して興味を持ってもらうための入口にしたいという想いです。これまで3回の出展で積み上げてきた知見を活かし、次も新たなことにチャレンジしたい」と、菅家さんは次回への展望も披露。

仮想空間でユーザーと一緒にモノづくりする「バーチャルラボ」などの可能性を検討しているそうです。

(塚田 勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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