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■灼熱の中でマシンを押し復帰、23位で完走
バイク真夏の一大祭典「鈴鹿8耐(2023FIM世界耐久選手権コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース第44回大会)」の決勝が、2023年も8月6日(日)に開催されました。
灼熱の鈴鹿サーキット(三重県)を舞台に、8時間もの長丁場ながら激しいバトルが展開される耐久レースが鈴鹿8耐。
毎回、さまざまなドラマが生まれることで多くのバイクファンを魅了してきたレースですが、2023年大会では、ホンダのワークスチーム「Team HRC with日本郵便」が2年連続のポールトゥウインを達成し優勝。
2022年大会と同様の強さを発揮したのですが、見終わってみて、とても「耐久レースらしい醍醐味」を感じさせてくれたチームのひとつが、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)のトップチーム「#7 YAMALUBE YART YAMAHA EWC Official Team(以下、YARTヤマハ)」でした。
今回併催された、世界最高峰の耐久レース「EWC(世界耐久選手権)」の2023年シーズンにも参戦しているのが、YARTヤマハです。
まさに、欧州の耐久スペシャリストが集結しているチームで、予選では2番グリッドも獲得。今回の鈴鹿8耐で優勝候補の一角だったのですが、トップ争いを繰り広げていた決勝序盤でまさかのマシントラブル。
しかも、ピットとは正反対の場所で止まってしまったのですが、ライダーは諦めずに、灼熱のコース脇でバイクを押してピットに帰還。見事に復帰して23位完走を果たしたのです。
「絶対に諦めない」というその姿勢は、まさに耐久レースが持つ魅力のひとつ。スプリントレースとはひと味違う醍醐味そのものでした。
●予選からレース序盤は好調な仕上がり
今回、YARTヤマハは、1000ccスーパースポーツ「YZF-R1」をベースとしたレーシングマシンで参戦。ライダーは、ニッコロ・カネパ選手、マービン・フリッツ選手、カレル・ハニカ選手という3人体制で、欧州で開催されているEWCと同じ布陣で鈴鹿8耐に挑みました。
予選でのYARTヤマハは、3人が揃って2分05秒台の好タイムを記録し、最終的に決勝グリッドを決めるトップ10トライアルへ進出。そのレースでも、ハニカ選手が2分05秒519の好タイムを記録して2番グリッドを獲得、好調な仕上がりのまま決勝を迎えました。
そして決勝。第1ライダーはカネパ選手が務め、スタート直後から「Yoshimura SERT Motul(スズキ)」のグレッグ・ブラック選手や、ホンダ・ワークスの高橋巧選手らとトップ争いを展開。
9周目にはトップに浮上し、後続を引き離しながらホンダの高橋選手と1番手を競うマッチレースを繰り広げます。
その後、両者ルーティンのライダー交代を迎え、YARTヤマハは午後1時過ぎにハニカ選手に交代。素早いピット作業を終えてコースに飛び出したハニカ選手は、しばらく安定して2位を走行。ところがトラブルが発生し、西ストレート付近でマシンがストップしてしまいました。
●灼熱の坂道でバイクを押すプロライダーの意地
長丁場の耐久レースでは、転倒や故障などでマシンが止まってしまうと、そこからピットまでマシンを押して戻り修復、なんとかレースに復帰するという光景も目にします。
でも、鈴鹿サーキットは、全長が5821mもあるロングコースです。しかも、YARTヤマハのマシンが止まった西ストレート付近は、ちょうどピットがあるメインストレート付近から最も遠い場所。西ストレートは坂になっていて、マシンが止まったのは坂の一番下という最悪の状況でした。
それでも、諦めなかったハニカ選手は、オフィシャルの手も借りながら、灼熱のコース脇をマシンを押してピットへの帰還を試みます。
アスファルトの照り返しなどもあり、普通でもかなりの暑さ。しかも、革のレーシングスーツを着たままピットへ戻る道のりは、まさに灼熱地獄のようだったでしょうね。その気合いや根性は、さすがプロの耐久ライダーだといえます。
それでも、ハニカ選手はなんとかチームのピットへ戻り、そこからメカニックたちが大至急でトラブルの原因をチェック。ここでのメカニックの対応もまさに神業で、かなり短時間でマシンを修復し、14時3分には再スタートに成功しました。
●43番手から逆襲に成功
マシントラブル前は2位だったYARTヤマハでしたが、再スタート時の順位は全50台出走中の43番手。かなり後からの追い上げとなったのですが、それでもモチベーションを維持したライダーたちは、高いアベレージスピードを維持し、確実にポジションを回復していきます。
特に、ハイライトのひとつとなったのが18時過ぎ。急な雨が降り出したことでレインタイヤに交換したチームもいくつかあったなか、YARTヤマハはスリックタイヤのままで走行する判断をします。
結果的に雨はすぐに小降りとなり、タイヤ交換をしたチームはタイムロスや転倒をしたのに対し、タイヤ交換をしなかったYARTヤマハは、残り1時間で28番手まで順位を挽回。最終的には、ハニカ選手がさらに順位を上げたことで、総合23位でチェッカーを受けています。
最悪の状況でも絶対に諦めず、止まってしまったマシンを戻してレースに復帰。また、雨の状況を的確に判断し、レースを進めたYARTヤマハ。
そのレース運びやマインドは、まさに耐久スペシャリストの神髄といえるもので、感動的ですらありました。
(文:平塚 直樹)