■4本300万円のカーボンホイールで軽量化の効果は絶大
今年の東京オートサロン2023にアルピーヌA110の『R』というスポーツグレードが出展されていた。アルピーヌA110自体、バリバリのミッドシップスポーツカーなのだけけれど、Rのスペックを見ると一段と激しい!
例えば軽量化のためカーボン製パーツが山ほど使われている。ホイールまでカーボン製。価格を聞くと4本で300万円程度だという。1本ガリリと縁石こすったら75万円!
インテリアはフルバケットシートに、3点式シートベルト無しの5点式フルハーネス。軽量化のため助手席なんか前後スライドも出来ない。ドアの開閉だって競技車両と同じベルトタイプ。リアのハッチガラスは軽量化のためガラスじゃなくカーボンへ材料置換されている。結果、34kg軽い1082kg。エンジンは300馬力のままながら0~100km/h加速が3.9秒になったそうな。
前置きはこのあたりにして試乗と行きましょう。フルハーネスをキッチリ締め(3点式と違い緩みを無くさないと効果無いのでご注意を)、プッシュボタンでエンジン始動。Dレンジをセレクトして走り出す。街中をDレンジで普通に走っていると、意外や意外! 高性能特有のオーバースペック感がない。静かで滑らかなのだった。考えてみたらウルさいクルマだと騒音規制をクリア出来ない。
そればかりか乗り心地まで良い! 前日に『GT』という300馬力のエンジン+標準的なスペックのサスペンションをセットした売れ筋グレードを試乗したのだけれど、その時は「一般道を快適に走れる上限のスペックですね」と思った。つまり、これ以上ハードにしたRは一般道だと乗りにくいんじゃないかと考えていた次第。というか、GTだって十分スパルタンなスポーツカーです。
Rになるとサーキット用のセットアップかと思いきや、むしろ上質! 路面が滑らかになった感じ。いや、正確に表現すると、路面の凸凹はしっかりハンドルやシートを通してドライバーにインフォメーションとして入ってくるのに、サスペンションが入力を吸収してくれるのだった。いわゆる「微少入力で減衰力を出す」という世界中の自動車屋さんが理想とする特性。
試乗中はウナりっぱなしでしたね!「凄い凄い!」の連発である。
後で聞いたのだけれどRはZF(ザックス)の競技用20段切り替え式のダンパーを採用しているそうな。もちろん、カーボンの軽量ホイールも乗り心地には貢献しているだろうけれど、主役は間違いなくZFのダンパーだと思う。Rの乗り心地、違いの分かるクルマ好きの皆さんに味わって欲しいほど。
参考までに書いておくと、A110のアルミボディは”ほぼ全て”接着構造のため剛性がスポット増しして作る競技車両並。サスペンションの取り付け部剛性だって強固だ。後で書くけれどRは限定車ではないものの、実際に生産できる台数は少なく、受注するや瞬時に生産ワクが埋まる状態。標準のA110でも、ダンパーを交換すれば限りなくRに近い乗り心地を実現出来ると思う。A110、ベースモデルが素晴らしい。
極めて交通量少なく見通しの良いフランスの郊外だと0~100km/hの3.9秒の加速性能は普通に試すことが可能。圧倒的に速いです。といっても速さは段々飽きてくる。
それよりステキだったのは軽さ。今や、エアコンなどフル装備して300馬力で1082kgなんていうクルマなんか存在しない。ミッドシップで左右方向の慣性重量少なく、屋根にカーボン使うなど低重心。
コーナーでの身のこなしの軽さが素晴らしい! ハンドル切るとこんなヒラヒラ動くクルマに乗ったのって何年ぶりだろう。サーキットを走る時は最大20mm車高を下げられるというが、標準スペックだって存分に楽しめると思う。何より嬉しいことに、それでいて毎日の足に使えるくらいの快適性を持っている。せっかく買ったので、ガレージの飾り物になっているようじゃツマらんです。
排気ガス規制や燃費規制、騒音規制などにより、今や魅力的な純エンジン車は急減している。新車で買おうと思っているのなら、最後の純エンジン車選びをしなければならない時期になった。A110は毎日乗れる快適性、それでいて圧倒的な運動性能を持つ。入手難のRじゃなくても875万円のベースモデルだって十分楽しめると思う。気になる人は試乗してみることをすすめておく。
(文:国沢 光宏/写真:小林 和久)