国内バイクメーカー4社が水素エンジンの共同研究を発表【バイクのコラム】

■4社+2社による研究活動が始まる

現状の水素インフラを利用することを前提にすると小型モビリティでも高圧タンクが必要になる。二輪に採用するにはコスト低下は課題(2016年・筆者撮影)
現状の水素インフラを利用することを前提にすると小型モビリティでも高圧タンクが必要になる。二輪に採用するにはコスト低下は課題(2016年・筆者撮影)

カワサキモータース、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機の国産バイクメーカー4社の連名により、『水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE)の設立認可を取得』という発表がありました。

バイクや軽四輪などの小型モビリティ向け水素エンジンの基礎研究を目的とした研究組合の設立に向け、経済産業省の認可を得えたという内容です。

HySEというのは「 Hydrogen Small mobility & Engine technology」の略称。バイクや軽四輪といった一般向けといえるモビリティのほか、小型建機や船外機、ドローンなどもスモールモビリティの中には含まれているということです。

正組合員はカワサキモータース、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機の4社となりますが、特別組合員としてCO2フリー水素のサプライチェーンに強みを持つ川崎重工、四輪用水素エンジンの開発に積極的なトヨタ自動車の2社も参画することが発表されています。

まさにオールジャパンでの小型・水素エンジンの開発が始まるのです。

●水素を燃やす難しさとは?

写真は二輪業界で知られる井上ボーリングが試作した水素エンジン(2009年・筆者撮影)
写真は二輪業界で知られる井上ボーリングが試作した水素エンジン(2009年・筆者撮影)

通常のエンジンが燃やしているガソリンは炭化水素ですから、そもそも水素も燃やしています。そのため、水素エンジンはインジェクターなどを変えれば、比較的ローコストで実現できるゼロエミッション(厳密にはわずかにNOxなどが発生します)のパワーユニットという印象もあって、「バッテリーで走る電動化よりも水素エンジンのほうがメリットがある」という自動車ファンも少なくないようです。

ですが、経験豊富なバイクメーカー4社が共同研究をするということは、それだけ水素エンジンの実用化には多くのハードルがあることを示しています。

水素の特性として燃焼速度が速く、燃焼が不安定になりやすい点をクリアすることは課題です。また、小型モビリティに搭載する場合には、水素タンクについてもスペースの確保やコストダウンなどの課題があります。

ところで、筆者は2009年に井上ボーリングという、二輪業界では著名な内燃機屋が試作した水素エンジンバイクが動くところを見たことがあります。

高圧の水素タンクを置く場所も課題でしたし、タンクの圧力調整をするなど難しさも目の当たりにしました。それでも、エンジンがかかってしまえば排気音はガソリンエンジンと変わらないもので、内燃機関の未来が続くと感じたことを思い出します。

●二輪以外のモビリティにも使える

ホンダが研究している空飛ぶ小型モビリティ。写真はガスタービンを使う前提のモックアップだが、この種のモビリティにおいても水素エンジンは利用価値がありそうだ(2021年・筆者撮影)
ホンダが研究している空飛ぶ小型モビリティ。写真はガスタービンを使う前提のモックアップだが、この種のモビリティにおいても水素エンジンは利用価値がありそうだ(2021年・筆者撮影)

バイクに水素エンジンを積む際の課題となるのは、水素タンクに関連するコストと設計でしょう。現在の燃料電池車(FCEV/水素と酸素で発電して走るクルマ)において、高圧水素タンクというのは安全性を確保するために非常にコストが高い部品となっています。

分厚いアルミにカーボンを巻いて作る水素タンクは、拳銃で撃っても穴が開かないくらい丈夫なことが求められ、事故の際にタンクが変形しないよう車体設計でも守るようになっています。

しかし、二輪の場合はそこまで強固に守ることは難しいでしょうし、高価な水素タンクを使うことができるのはプレミアムな商品群だけになるともいえます。いわゆる原付クラスのような二輪まで水素エンジンにするのは難しいかもしれません。

むしろ、小型バイクはバッテリー交換式の電動、趣味性の強い大型二輪は水素エンジンといった明確な棲み分けが進む未来も考えられます。

水素エンジンはバイクだけのものでもないでしょう。バイクメーカーはボートの動力源となる船外機でも知られているメーカーです。水素で動く小型船舶というのも夢物語ではないかもしれません。

また、ヤマハは古くから無人ヘリコプターで知られ、最近ではドローンにも積極的です。ホンダも少人数の移動手段となる「eVTOL」の開発を進めていることは知られています。そうした空飛ぶモビリティについては、バッテリー重量がかさむ電動化よりも水素エンジンのほうが向いているといえます。

じつは日本政府も積極的に進めている水素社会ですが、水素インフラの整備が進まないことを否定的にとらえる向きもあります。小型モビリティでも水素エンジンが普及してユーザーが増えれば、水素社会へのシフトを加速させることが期待されます。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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