理系女子=リケジョが考えたSDGsのキャラクターがコレ! Z世代の新入社員が住友ゴムの環境意識を支えていた!!

■地産地消。福島の水素により福島でタイヤを作る住友ゴム工業白河工場

住友ゴム工業株式会社白河工場では、ダンロップ、ファルケンブランドのタイヤなどを生産する
住友ゴム工業株式会社白河工場では、ダンロップ、ファルケンブランドのタイヤなどを生産する

私(50代後半です)なんかが子どもの頃には、排ガス規制というのが1970年代にあったわけです。それで、その規制後に生産されたクルマは遅くって楽しくないし、自動車雑誌では規制前の中古車両が明らかに高く取り引きされていました。

そんな様子を眺めながら育った私。つまり、排ガスを規制する、環境に対応する、なーんてことは、やらなきゃいけないから渋々やって、ホントは嫌なもの、との認識がどこかに植え付けられたんです。

ところが、今の若者、たとえば1990年代後半からミレニアムの頃に生まれた今どきの新入社員世代は、子どもの頃にプリウスが環境に優しいハイブリッド車として登場し、温暖化やSDGsという言葉を習いながら育ってきてくれたわけです。

彼ら彼女たちにとって、環境に考慮するのはアタリマエのこと。それを考えていない企業への就職はあり得ない、とも発想するのだそうです。エコな子たちは、エゴなおじさんとはえらく違ってますね。

●リケジョの爪の先に鎮座するそのキャラは「カーボ」と「ニュート」

住友ゴム工業サスティナビリティ経営推進本部 環境管理部 増田莉恵さん
住友ゴム工業サステナビリティ経営推進本部 環境管理部 増田莉恵さん

住友ゴム工業 サステナビリティ経営推進本部 環境管理部の増田莉恵さんは、入社2年目。大学では私と同じ化学工学を学んだというので、親近感が湧きます。

工学系で化学の学科を卒業してタイヤメーカーに就職するという、私と違った王道中の王道とも言える進路を歩みながら、入社後は研究分野とは少し違った「環境意識を社内に広める」というお仕事を任されているそうです。

カーボとニュート
カーボとニュート

水素利用の重要性を、まずは社員の方々により興味を持って知ってもらうため、増田さんら入社間もない若手社員たちが取った行動は、キャラクターを作ることでした。

増田莉恵さんのネイルにはカーボとニュートが!
増田莉恵さんのネイルにはカーボとニュートが!

カーボンニュートラルを実現するための問題などについて、カーボ博士とニュートちゃんが今さら聞けないキソのキソから教えてくれる、との設定。まずは、社内報的なメディアに掲載して、身内から理解を深めようということです。取材当日は、ネイルにカーボとニュートが描かれていました。

これには(恐らく私と同年代くらいの)おエライさんらも「自分たちでは思いつかなかった!」と膝を打ったそうです。

●水素を活用して生産するタイヤとは?

水素エネルギーで生産される「FALKEN AZENIS FK520」
水素エネルギーで生産される「FALKEN AZENIS FK520」

そんな増田さんらのアイデアが、社内を動かしていったのかも知れません。ついに住友ゴムでは、タイヤ製造工程において、水素燃料を使用しての生産を実現しました。

御存知の通り、東日本大震災の際、福島県では原子力発電所で大変な事故が起きました。その後、原発に頼らない再生可能エネルギーとして、水素の利用を推進しています。

実際に、私が福島県の給水素ステーションを訪れた時、都内でもあり得ないくらいの多くの水素燃料自動車が給水素に訪れていたのを見て、驚いた経験があります。

水素受け入れ施設の屋根は万が一水素漏れがあっても溜まらないように浮いた状態
水素受け入れ施設の屋根は万が一水素漏れがあっても溜まらないように浮いた状態

さて、いかにして水素エネルギーをタイヤの生産に活用しているのでしょうか。

タイヤは生ゴムの状態から溝を含めて形づくるとき「加硫」という工程を必要とします。加硫は具体的には、いわゆる「窯」に入れて加熱するわけです。

この加熱する熱源として高温、高圧な蒸気が用いられるのですが、この蒸気を作るために水素ボイラーが供されているわけなのです。

福島県内で製造された水素(現在はまだ残念ながら風力や太陽光などの自然エネルギーでなく、天然ガスからの改質なのでCO2は出てしまいます)が、福島県内の住友ゴム工業の工場で利用されるという、地産地消を実現しています。

水素トレーラー
水素トレーラー

県内で製造された水素は、水素ボンベを搭載した水素トレーラーによって、住友ゴム工業白河工場へと運ばれてきます。水素トレーラーからは、これまた専用の水素受け入れ施設において、減圧されながらボイラーへ水素が供給がされます。つまり、白河工場に水素貯蔵タンクのようなものはなく、トレーラーがそのまま水素貯蔵場所となるわけです。

水素受け入れ施設からは、水素専用の配管(水素は世の中で最も小さな分子のため特殊な配管が必要)を通ってボイラー付近にやってきます。ここでもう一度ボイラーで燃やすのに丁度いい圧力へと減圧され、ボイラーにて燃焼されて高温高圧の蒸気が作られるわけです。もちろん、燃焼時にCO2は発生しません。

水素ボイラー
水素ボイラー

こうして作られた蒸気が、タイヤを作る上で必ず必要となる加硫工程に供されるわけで、この部分ではCO2排出量がゼロとなっています。

また、水素ボイラーによって製造するタイヤ「FALKEN AZENIS FK520」生産に必要とされるそれ以外の電力量は、工場敷地内の駐車場の屋根一面に貼られた太陽光発電パネルによって賄われているそうです。

ちなみに、「FALKEN AZENIS FK520」の製造方法も特徴的で、高精度メタルコア製造システム「NEO-T01」によって生産されています。この製造システムは、これまで最大120mだったタイヤの製造ラインを10分の1にコンパクトにすることができる画期的なシステム。水素エネルギーの使用と相まって、相当に先進的なタイヤの製造を実現しているのです。

●これからの世代で、タイヤも社会も作ってほしい

水素トレーラー側面に「水素の力ではずむ未来へ」「水素の力で、白河工場から新たな世界を切り拓こう!」
水素トレーラーには「水素の力ではずむ未来へ」「水素の力で、白河工場から新たな世界を切り拓こう!」の文字が

水素トレーラーの側面には、「水素の力ではずむ未来へ」「水素の力で、白河工場から新たな世界を切り拓こう!」と書かれていますが、これも若手社員たち自らが、自分たちのなすべきことをキャッチコピーとしたものだそうです。

環境意識が必要だと騒がれるほど、我々世代までは好き勝手にいろんなことを変えていってしまったのです。水素によってCO2を排出せずに作られるタイヤと、その重要性を社内外に広めていきたいという若者を見て、これからの社会は、これからその社会で行きてゆく世代の人たちが考えて作っていってほしい、と願わずにはいられませんでした。

(文・写真:クリッカー編集長 小林 和久

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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