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■1860mmの全幅は、狭い道路でのすれ違いや駐車場では少し気を使う
近年の輸入MPVを、よりポピュラーな存在にしたのがルノー・カングーです。シトロエン・ベルランゴ、プジョー・リフターも日本に上陸し、日本製ミニバンでは飽き足らない層も含めて絶大な支持を集めています。
毛細血管のような細い路地や張り巡らされた住宅街に住む筆者は、個人的には初代のサイズ感が取り回しでも駐車時でもストレスをほぼ抱かずにすみますが、2代目の「デカングー」よりも3代目の新型は全幅を中心にさらに大きくなっています。
ルノー、日産、三菱自動車アライアンスによる「CMF-C/Dプラットフォーム」を使うため、サイズの拡大は致し方ないところでしょうか。
とはいえ、ヨーロッパにも道の狭い市街街なども多いだけに、代を重ねるごとに肥大化していく傾向のある新型車事情に声を上げる人たちがいないのか、少し疑問もあります。
それはさておき、新型カングーのサイズを初代、先代、ライバルと比べてみます。
●ボディサイズサイズ(全長×全幅×全高mm/ホイールベースmm/最小回転半径m)
初代カングー:3995×1675×1810mm/2600mm/5.2m ※マイナーチェンジで全長が4035mmに
2代目カングー:4215×1830×1830mm/2700mm/5.1m
新型カングー:4490×1860×1810mm/2715mm/5.6m
シトロエン・ベルランゴ:4405×1850×1850mm/2785mm/5.6m ※2列シート仕様
「デカングー」の愛称で親しまれた2代目カングーは、ボディサイズがひと回り大きくなっても最小回転半径がわずかに小さくなっていました。3代目となる新型は全幅がワイドになり、幅1850mm制限のある立体駐車場には数値上、入庫できなくなっています。
さらに、最小回転半径も0.5m拡大。マンションなどでは、たとえぎりぎり入っても、制限を少しでも超えると駐車不可のケースもありますので、先代までは駐車できても新型は不可というケースも出てきそうです。
新型カングーは、走りや待望の先進安全装備(ADAS)の搭載など、トータル性能の向上は疑いもありません。大きなウイドウスクリーンと高めの着座位置のおかげで、こうしたサイズや数値は抜きにして、取り回し自体はとても楽に感じられます。
とはいえ、急には大きくならない道路や駐車場などのインフラも考えると、たとえ郊外であっても全幅の拡大はそろそろ打ち止めになってほしいところ。
試乗ステージだった関東地方の郊外路であっても、大型車とすれ違う際に気を使うシーンもあり、撮影場所のキャンプ場での取り回しでもそれなりに注意する必要もありました。
●広くなった室内と荷室をチェック
一方で、ボディサイズの拡大は居住性や積載性に大きく寄与しています。フロントシートは、サイズが拡大するとともに、横方向のゆとりも増してます。シートのホールド性も高まり、ロングドライブでもより疲れを誘わなくなったはず。また、アップライトな乗車姿勢が特徴で、前方視界も良好そのもの。
3座席平等幅の後席は、先代から驚くほどは広くなっていません。それでも横方向のタイト感は薄まっています。なお、身長171cmの筆者が運転姿勢を決めた後方には、膝前にこぶしが縦に1つ半、頭上には3つ半ほどの余裕が残ります。さらに、床から座面までの高さも確保されていて、前方視界もまずまず。十分に開放感のあるリヤシートといえます。
乗降性で気になるのは、ワイドなサイドシル、サイドシルと床面との段差で、大きくまたぐように乗り降りすることになります。後席に乗り込んでスライドドアを閉める際は、大きく腕を伸ばして操作する必要があり、子どもでは届きにくいこともありそう。もちろん、基本的には実用性第一の商用バンですので、日本のミニバンのように電動開閉機構は付いていません。
サイズの拡大により積載性も向上しています。荷室容量は通常時で115L増の775Lに達し、6対4分割可倒式の後席バックレストをすべて前倒しすると、最大で132L増となる2800Lに達しています。
荷室奥行きも100mm長くなり1020mmに、後席を前倒しすれば1880mmと、先代よりも80mm長くなっています。
そのほか、ヨーロッパ仕様のリヤゲートは上開き式になりますが、日本仕様は先代と同様、特別にダブルバックドア(観音開き)が用意されています。
狭い場所でも開閉できるほか、約90度の位置でロックがかかり、約180度まで全開できるため、開閉スペースや荷物などの状況に応じて使い分けられるのも便利です。
●1.3Lガソリンでも不足はないが、乗り比べるとディーゼルの余力が際立つ
搭載されるパワートレーンは、1.3Lガソリンターボと1.5Lディーゼルターボエンジン。組み合わされるトランスミッションは、両エンジンともに7速の湿式デュアルクラッチトランスミッション(7EDC)。
最初に前者から走り出しましたが、1.3Lでもパワー不足を抱かせるシーンはほとんどありません。7EDCの制御も巧みで、低速域も含めてギクシャク感はほとんどなく、変速しているのを実感できるダイレクト感も備えています。
フル乗車や荷物を満載した際に、高速道路の合流時や追い越し時にもう少しパンチ力があれば…と感じることもあるかもしれませんが、かなり好印象を受けました。
低速域からレスポンスもよく、スムーズに軽快に回るため、ストップ&ゴーの多い街中でも走らせやすく、身のこなしも軽やか。山道までいかなくてもアップダウンやコーナーが続く郊外路でも、大きさを感じさせないフットワークを享受できます。
後から乗ったディーゼルターボは、270Nm(ガソリンは240Nm)という最大トルクもあり、グイグイと力強く加速していきます。新型のトピックスは、静粛性の大きな向上で、ディーゼルでも音や振動を意識させられることが少なかったのも朗報です。
キャンプや帰省など、ロングドライブが多いのなら、動力性能で余力の多いディーゼルが、街乗り中心であればガソリンでも必要十分といえます。
なお、新型には、エコ、ノーマル、ペルフォという3つの走行モードが用意されていて、エコモードはパワートレーンだけでなく、電動パワーステアリングのアシスト力なども燃費重視になります。ペルフォモードは、よりパワーが欲しい際に向くモード。劇的に走行フィールが変わるほどではないものの、状況に応じて切り換えられるのも美点。
フラットライドな乗り味も進化したポイントです。シトロエン・ベルランゴやプジョー・リフターほどソフトではなく、路面によっては上下動が大きく、左右に揺すぶられるように感じられます。それでも、ボディの剛性感が明らかに大きく高まり、よく動く足ということもあって、不快感は抱かせません。
ロール制御もかなり巧みになっていて、ベルランゴやリフターと比べても、コーナーでの安定した姿勢など、操縦安定性ではライバルよりも上を行く印象を受けます。
つまり、ハンドリングやボディの剛性感も含めて、商用バンというレベルから乗用MPVにかなり近づいています。そうはいっても、日本のミニバンのように完全に乗用車化したようなモデルとはやはり世界観は異なり、少しでもバンの味わいが残っているのもカングー・ファンには魅力に感じられるはず。
そして、新型カングー最大の魅力は、こうした居住性や積載性の向上、走りの大幅な進化はもちろん、衝突被害軽減ブレーキをはじめ、ストップ&ゴー付アダプティブクルーズコントロール(再発進が3秒以内なら自動発進)やレーンセンタリングアシスト、ステアリング操作をアシストするエマージェンシーレーンキープアシストなどの先進安全装備の存在。
ACCやレーンセンタリングアシストを短時間ですが試したところ、十分に信頼できるレベルにありました。
キャンプやレジャーなどのロングドライブに出かけても、行き帰りの運転がより楽になるのは間違いなく、長距離を走らせる機会が多いほど、とくに買い替える人はその利点を実感できるはずです。
(文・写真:塚田 勝弘)