ヤマハ発動機の公道用電動カートを使った地域住民運営の試み【ヤマハ発動機ニュースレター】

■実装を見据えて2年間の実証実験を開始

ヤマハ発動機の広報グループが発信している「ニュースレター」。今回のお題は、奈良県の王寺ニュータウンにおける地域住民運営の「電動カート」です。約3600人が暮らすというこの町で、今春から地域住民の自主運営による電動カートの運行が開始されました。

スーパーマーケットが隣接する発着所を基点に、路地の住宅地等をゆっくり静かに巡回する「美しヶ丘電動カート」
スーパーマーケットが隣接する発着所を基点に、路地の住宅地等をゆっくり静かに巡回する「美しヶ丘電動カート」

実証実験の中心的な役割を担うのは、美しヶ丘自治会。同地区では2022年に半年間、電動カートの運行実証実験が行われ、高齢者を中心に、のべ約2300人もの利用があったそう。

同地区は、坂道が多いそうで、買物や銀行ATMまでの移動、また習い事に通うための移動手段としてとても便利と、大きな反響があったそうです。

こうした結果を受け、運営母体を自治体に切り替えた上で、改めて2023年3月1日から2年間の実証実験がスタートしました。なお、運賃は無料です。

運行責任者を務める中谷文夫さんは、「利用する住民の皆さんも運行に関わるボランティアも、誰もが楽しくないと続きません。便利というだけでなく、つながりや楽しさといった点も大事にして、この移動手段を根づかせていきたい」と実証実験から実用化への想いを語っています。

また、「住宅地の開発が始まったのは1978年で、45年が経過して、町も人も一緒に年齢を重ねてきました。現在では48%の住民が65歳以上となり、高齢化が進んでいます。あと5年もすれば、免許返納などで地域内移動はもっと困難になるはず。電動カートは、その解決手段の一つと考えています」と、自治会長の上平隆己さんが続けます。

乗務員合わせて7人乗りの車内空間
乗務員合わせて7人乗りの車内空間

なお、王寺ニュータウンは、不動産管理の大手企業が発表した「街の住みここち&住みたい街ランキング」の関西版で、かつて1位に輝いたこともあるそうです。同地域での電動カートは、「美しヶ丘電動カート」と命名され、毎週月、水、金、土曜日に、地域内の3つのルートで、それぞれ1日4便を巡回。必要なドライバーと助手席乗務員などは、すべてこの町に暮らすボランティアが担い、講習を受けた約30人がシフトを組んで運行に当たっているそうです。

乗務員としてこの活動に協力する女性は、「引っ越してきてまだ数年。入り組んだ路地を走って町の全体像を把握したり、乗客の皆さんと会話を楽しんだり、町とのつながりが持てることがうれしいです」と、やりがいを持って運行しているようです。

一方で、ボランティアの皆さんをまとめる中谷リーダーは、「この町には、助け合いの精神が根づいています。しっかりした自治会組織があり、住民同士の助け合い風土があるからこそ、毎週16便もの運行が可能になっています」と、感謝の気持ちを抱いているそうです。

上平自治会長(左)、中谷運行リーダー(右)と、ボランティアの皆さん
上平自治会長(左)、中谷運行リーダー(右)と、ボランティアの皆さん

2022年に実施された実証実験は、電動カートの導入によって高齢者の外出や社会参加を促すだけでなく、介護予防や健康増進に寄与するかを検証するものでした。結果についてはまだ明らかになっていませんが、「外出を楽しみ、乗り合わせた人たちとつながることで、もちろんそうした効果はあると考えています。町の隅々まで走り回ることで、たとえば防犯などにも効果を発揮してくれると期待しています」と、上平自治会長は期待を寄せています。

(塚田 勝弘)

この記事の著者

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塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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