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■帰ってきた「ソフトトップ、2+2シーター」モデル
2022年10月に発売された「メルセデスAMG」の新型SLは、「メルセデス・ベンツ」ブランド時代から数えて7代目になります。
新型からはメルセデスAMG専用モデルになりました。SLの車名は、極上・素晴らしいなどの意味の「Super」、軽量を意味する「Light」の頭文字が取られています。つまり、軽量スポーツとして70年近い歴史を誇っているわけです。
新型SLのボディサイズは、全長4700×全幅1915×全高1370mm。旋回性を左右するホイールベースは2700mm。先代は、電動格納式のバリオルーフでしたが、4代目以来となるソフトトップが採用されています。
シートレイアウトも4代目以来となる「2+2」に生まれ変わっています。エクステリアは、ソフトトップになっただけで色気が増した印象を受けるだけでなく、金属製バリオルーフから電動ソフトトップ化されたことにより21kgも軽くなり、軽量化と低重心化にも寄与しています。
開閉時間は約15秒で、60km/h以下であれば走行中でも開け閉めできます。
ソフトトップは、外側のシェルと高精度に仕立てられたルーフライナーの間に、防音マットが配置された3層構造(補強として2本の丸いアルミニウム製クロスビームが一体化されている)で、屋根を閉じるとクーペのような静粛性を実現。
高速域でもオープンモデルとは思えない密閉感、静かさが維持されている印象です。目隠しをして助手席に収まり、走り出したらオープンカーとは分からないかもしれません。ルーフ開閉時の世界観は、それぞれ大きく変わる印象です。
●ソフトトップ化と最新のボディで軽量化を追求
ボディは、アルミニウム、スチール、マグネシウム、繊維複合材からなるスペースフレームで、ねじり剛性は先代から18%向上。横方向剛性も「AMG GTロードスター」に比べて50%増、前後方向剛性も40%増と圧倒的なボディ剛性が確保されています。
オープン時でもボディ剛性感はすこぶる高く、タイトコーナーや高速でカーブをクリアしてもボディがねじれる感覚は、公道では皆無といえるほど。段差を乗り越えてもミシリともいわない感覚もあります。
シャーシのマウントの負荷導入剛性も改善されたこともあり、正確なハンドリングを実現しています。なお、ホワイトボディの重量は、270kgに収まっているとのこと。
では、新型SLがライトウエイトスポーツかというと、走りでの手応えはどちらかというと、グランドツアラー的(GT)な雰囲気が濃厚です。車両重量は1780kgで、ボディサイズを考えると健闘しているといえるでしょう。先述したように、ソフトトップ化、ボディの軽量化が利いているわけです。
ひとまわり以上小さい2シーターのBMW Z4は、全長4335×全幅1865×全高1305mm、ホイールベースは2470mmで、車両重量は1600kg〜1690kg。グレードによっては、わずか90kg差になります。
それでもSLは、4.7mの全長と2700mmというロングホイールベースにより、ヒラリヒラリとコーナーをクリアするイメージではなく、ある程度ボディの大きさを抱かせながら、しっかりと路面を捉えて山道を駆け抜けていきます。
とはいえ、山岳路はもちろん苦手ではなく、並のスポーツカーを蹴散らすパフォーマンスと、ハンドリングの持ち主。オープンでの高速走行時でも風の巻き込みはかなり抑えられていて、お馴染みの「エアスカーフ」が首まわりを温めてくれることで快適なドライブを楽しめます。今回、高速道路を走らせる機会はありませんでしたが、おそらく最も得意とするのは高速巡航でしょう。
サスペンションは、前後ともに5リンク。サスペンションリンクとステアリングナックル、ハブキャリアが鍛造アルミニウム製で軽量化が図られるのと同時に、アルミニウム製ダンパーと軽量コイルスプリングからなる新開発の「AMG RIDE CONTROL」サスペンションも標準化されています。
ダンパーは減衰力特性の調整が可能で、「AMGダイナミックセレクト」のドライブモードにより「Sports+」「Comfort」などから選択可能です。基本的には、「Comfort」にしても引き締まっていて、ワインディングでも安心してステアリングを握れる設定になっています。
●2.0L直列4気筒でも十分にパワフル
「SL 43(BSG搭載モデル)」のパワートレーンは、最高出力381PS(280kW)・最大トルク480Nmに達する2.0L直列4気筒ガソリンターボ。AMGモデルならではの熟練のマイスターが手作業で丹念に組み上げた「M139」型エンジンと「AMGスピードシフトMCT」と呼ぶ9速ATとの組み合わせになります。
48Vマイルドハイブリッドシステムを採用する第2世代のBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)は、低速域のモーターアシストも伝わってきます。48Vシステムを電源とする「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」と呼ぶ最大170,000rpmまで動作するF1譲りのターボの搭載もトピックス。
圧倒的な応答性、ターボラグの少なさが魅力で、モーターアシストも相まってパーシャル域からの加速の一瞬の間も抱かせないほどのトルク感があり、同時にターボの加勢が始まると同等の加速を披露してくれます。
9速ATの出来の良さもスムーズな走りに寄与していて、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを搭載した「AMGスピードシフトMCT」は、シフトアップ時もダウン時もダイレクト感を伴いながらウルトラスムーズに変速してくれます。4気筒ターボであっても動力性能に不満を抱くことは、公道ではまずないはず。
なお、ドイツ本国では「SL55 4MATIC+」が発表されていますが、現時点で販売されるのは「SL43」のみ。それでも大半の人にとって、これで十分という加速フィールを提供してくれるはず。
新型SLは、オープンにすれば高い快適性を担保しながら開放感あふれる爽快な走りが楽しめ、ルーフを閉じればクーペのような静粛性やボディ剛性感による心地良いドライブを楽しめます。
「2+2」のリヤシートは身長150cm以下が奨励されているため、実質的には子ども用ですが、大半の人にとっては、手荷物を置くスペースではないでしょうか。
ライトウエイトスポーツという雰囲気は薄いものの、1台で何役もハイレベルでこなしてくれる、欲張りなオープンモデルであり、メルセデス(AMG)がラグジュアリー・ロードスターを名乗るのも納得できる仕上がりになっています。
●価格
Mercedes-AMG SL43(BSG搭載モデル):1648万円
※試乗車両価格:1755万5000円(保証プラス、オプション:ヘッドアップディスプレイ、有償ペイントでマットカラーのスペクトラルブルーマグノ)
(文:塚田勝弘/写真:小林和久)