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■「EQS 450+」の航続距離は、日本で今買えるBEVで最長の700kmに達する
クルマのバッテリーEV(BEV)化は、見かけだけでなく、本当に環境負荷を抑えられるのか、あるいは各国・地域の政治的背景があるのではないか、などの是非はともかく、加速度的に前進しています。
個人的には、各国の補助金がゼロになっても売れるのか?という疑問が常にありますが…。太陽光パネルなどの例も含め、補助金がないと売れないというのは、商品としては完全に自立(成立)していない感もあります。
こうした点はさておき、大容量バッテリーを積むことで航続距離を稼げる高級車は、BEVに向いているともいえるでしょう。
メルセデス・ベンツSクラスに相当するBEVのEQSが、EQEとともに日本に上陸しました。ひと足早く試乗できたのは、最上級モデルのEQS。見どころが多すぎるため、ここでは走りについてレポートします。
位置づけとしては「SクラスのEV」版であるものの、EQS、EQEの2モデルが、上陸済みのEQA、EQB、EQCと異なるのは、BEV専用プラットフォームを使っている点です。
パッケージングで有利なEQSは、車体下部にバッテリーを搭載し、センタートンネルレスとロングホイールベース化による広大なキャビンを実現しています。
ボディサイズは、全長5225×全幅1925×全高1520mmで、ホイールベースは3210mmに達しています。後輪操舵のリヤアクスルステアリングが標準化されていて、「EQS 450+」は最小で5.0mという最小回転半径を実現。
ほかの仕様でも5.3〜5.5mと、その巨体を考えると十分に小回りが利きます。なお、リヤアクスルステアリグの後輪の逆位相は、「EQS 450+」の場合4.5度が標準で、10度はオプション。「EQS 53 4MATIC+」は、9度が標準になります。
撮影時に何度もUターンする機会がありましたが、後輪ステア装着車は5.0mという最小回転半径のとおり、そのサイズを感じさせない小回り性を披露してくれました。
●急速充電は150kWまで対応
気になる航続距離は、最新世代の107.8kWhという大容量バッテリーの搭載により「EQS 450+」でWLTCモード燃費は、700km。Mercedes-AMGの「EQS 53 4MATIC+」でも601kmに達します。
現在、日本で販売されているBEVの中でも700kmは最長です。充電は、200Vの普通、CHAdeMO規格の急速にも対応。
急速充電時間は50kWの場合で110分、最近出始めてきた90kWだと55分、150kWにも対応していて、こちらは48分となったそう(メルセデス・ベンツ日本調べ)。なお、200Vの普通充電(6.0kW)の充電時間は、アナウンスされていません。
バッテリー保証は10年25万kmで、日本の大半のユーザーにとっては十分といえそう。「EQS 450+」はリヤモーターのみの後輪駆動で、「EQS 53 4MATIC+」はフロントにもモーターが配置される4WDになります。なお、「V2H(Vehicle to Home)」「V2L(Vehicle to Load)」にも対応。「V2H」は、別途工事が必要になります。
EQSの場合、一般的な4人家族の平均的な電力使用容量で約7日分の電気をクルマから家に供給できるそう。災害時などの万一の際にも備えることができます。「V2L」は、「V2H」と同様の技術を使い、スマホや家電などの充電に使える機能です。
●動力性能的には「EQS 450+」でも十分
リヤアクスルに電動パワートレインの「eATS」を積む「EQS 450+」は、システム最高出力245kW(333PS)、システム最大トルク568Nm。
走り出しから分厚いトルク感で、2560kgという重量を感じさせない加速を披露してくれます。とはいえ、トルクフル過ぎて扱いにくい面はなく、それでいて、アクセル操作に対して間髪入れずに即、パワーデリバリーされるBEVらしい加速感を堪能できます。
急加速時は、0-100km/hを6.2秒でクリアするなかなかの俊足ぶりで、高級サルーンに求められるパワーを十分に備えています。
操舵感覚もメルセデス・ベンツらしく剛性感があるのと同時に、大きさを抱かせない軽快感もあり、後述するBEVらしい乗り味をのぞけば、比較的ガソリンエンジン車に近い印象もありました。ピュアEVになってもメルセデスらしい味付けがされ、巨体でも山道を苦にせず、ライントレース性の高さも際立っています。
「EQS 450+」は、後輪操舵のリヤアクスルステアリング装着車でしたが、高速域も違和感がなく、それでいながら狙ったラインをトレースでき、巨体でも山道を苦にしませんでした。後席でくつろぐのも悪くはありませんが、せっかくのドライバビリティですから、ぜひステアリングを握りたいところ。
そのリヤシートは、とくに足元が広く、身長171cmの筆者が運転姿勢を決めた後方には、膝前にこぶしが縦に約3つ分ものクリアランスが残ります。クーペルックのルーフラインにもかかわらず、頭上にもこぶしが縦に約1つ分の余裕があります。
また、「EQS 450+」は快適な乗り味も美点。低速域や路面によっては揺すぶられるような動きもあるのは、床下にバッテリーを積むBEVらしいともいえます。
「コンフォート」モードにしても引き締まった足まわりの「EQS 53 4MATIC+」よりも、後席の快適性は高く感じられました。もちろん、静粛性もすこぶる高く、ロードノイズや風切り音もよく抑えられています。静か過ぎてスピード感を抱かせないほど。
●内燃機関のスポーツカーを蹴散らす「EQS 53 4MATIC+」の加速
フロントにもモーターを積む「EQS 53 4MATIC+」は、システム最高出力484kW(656PS、レーススタート時は560kW/1020Nm)、システム最大トルクは950Nmに達します。必要以上にアクセルを踏み込むと、運転席だろうが後席だろうが、背もたれに身体が強烈に押しつけられる怒濤の加速でスタート。
間髪入れずに圧倒的な加速感が得られるのは、まさにBEVのスポーツ仕様にふさわしいレベルにあります。後席では圧倒的な速さにより、浮遊感を抱かせるほど(もちろん浮いてはいませんが)。
一方で、急加速と急な回生ブレーキ(パドルシフトでD+、D、D-の3段階から選択可能なほか、D Autoモード回生も用意)を何度も後席で味わうと、クルマ酔いを誘う予感があり、筆者も生あくびというクルマ酔いの初期症状に襲われました。スペック的には、すでにスーパースポーツカーの領域に達していますから当然といえるかもしれませんが、後席に乗員がいる場合は、自制したいところです。
サウンド面で特徴的なのは、複数のドライビングサウンドから選択できる「サウンドエクスペリエンス」が用意されている点。標準装備に加えて、1年間無料で、以後追加購入が必要になる「Roaring Pulse」などからなるサウンドメニューから選ぶことで、運転の仕方や選択中のドライブモードに応じて音が変化し、スピーカーから流れています。
こうした疑似音はギミックともいえる一方で、好みに合うサウンドであれば、ドライブを盛り上げてくれる演出にもなりえますから、BEVにおいてはメーカーの腕の見せ所にもなるかもしれません。
EQSは、従来の内燃機関の高級車とは違うフィーリングを備えながら、メルセデスらしさも抱かせるなど、新しい高級車像を同ブランドらしく構築しています。
●車両本体価格
「EQS 450+」:1578万円
※オプション込みの撮影車両価格:1779万円(リヤコンフォートパッケージ、MBUXリヤエンターテインメントシステムパッケージ、エクスクルーシブパッケージ、デジタルインテリアパッケージ)
「EQS 53 4MATIC+」:2372万円
※オプション込みの撮影車両価格:2384万3000円
(文:塚田 勝弘/写真:小林 和久)