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■トヨタ本社の一室に緑豊かな自然を再現したユニークなプロジェクト
愛知県豊田市に位置するトヨタ本社の建屋の中に、うっそうと緑が生い茂る一室があります。多彩な植物に囲まれたジャングルのような環境が、本社の中に作られているのには深い理由があるようで…。
「ジャングルの部屋」を作ったのは、トヨタ自動車未来創生センター。自然が人へ与える効果を解明するべく、研究室内に土や植物を運びこみ、小さいながらも自然をそのまま切り取ったような環境を再現しました。
「Genki空間研究プロジェクト」と名付けられた取り組みでは、それぞれ異なる効果が期待される3つの空間を作製。
疲労感軽減が期待される「ルーム1」、集中力アップが期待できる「ルーム2」、活力アップが期待される「ルーム3」という各空間で、参加者は数分から数時間を過ごし、その効果を検証しました。
●葉っぱの形によって異なる「効能」
くわえて、幅約10m×奥行き約12m×高さ3mの実験室を活用し、長期滞在型オフィスタイプのGenki空間も作製。数日〜数週間にわたってそこで過ごした場合の効果も検証しているとのことです。
また、研究チームはGenki空間に導入した植物の葉の形状とそれに対する印象について相関がないかを調べるために、約50種類の葉を分析。葉の長さ、幅、丸さなどから、人がその植物に対してどのように感じるかを調査したそう。
結果、「癒されると感じる」植物群は「小さく、丸い葉」を、「集中力がアップする」と感じる植物群は「細く、長い葉」を持つ傾向があることなどが分かりました。
●空気の質についても徹底調査
人に良い効果を示す空気質もプロジェクトの研究対象のひとつです。ひとりの人間が1日に吸い込む空気量は約1万リットル以上にもなるといわれています。今までPM2.5や黄砂、排ガスといった「人に悪影響を及ぼす空気質」については多くの調査が行われてきましたが、トヨタが行ったのは「人に好影響を与える空気質」についての研究です。
トヨタは、バイオ燃料のプロジェクトなどを通じて培ってきた最先端のバイオテクノロジーを活用し、空気中の微生物や化学物質を分析する独自の技術を確立してきました。
研究にあたって、日本中の都市や農村、森林など、全国466ヵ所の空気を採取。その膨大な量の空気質を分析するために、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)とともに両者が有する最先端の統計・機械学習技術を駆使し、空気質を測るモノサシ『バイオフィリックスコア™』を開発しました。
サンプルの空気の“自然度”を数値化したところ、「マイナス1=極めて不自然な空間」とすると、東京の市街地はマイナス1.05という残念な結果に。都市公園はなんとかプラスに転じて0.26。ちなみに、長野の深い森の中の空気は1.93を示したそうです。
●微生物と共生しながら進化してきた人間
プロジェクトマネージャーの池内暁紀さんは、次のように説明しています。
「人の身体は約40兆個の細胞で出来ていると言われていますが、腸内には100兆個、皮膚には1兆個、他にも口の中や呼吸器など外界(空気質)と接する部位には、人の細胞数を超える多くの種類の微生物が共生し、いわゆる微生物叢(マイクロバイオーム)を形成しています。この共生関係は、人類の長い進化の過程で構築されたものであり、人と微生物は悠久の時をかけて共生進化した1つの生命体であると言えるかもしれません」
「近年、急激な都市化により自然との接触が減ったことで、この共生関係が崩れ、アレルギー性疾患(喘息、アトピー性皮膚炎)などの様々な病気の原因になっている可能性が示唆されています。私たちは、自然の多様性に富む空気質を身体に取り込むことが、人と微生物の共生関係の調整に重要な働きをしているのではないかと推測」し、空気質が皮膚に共生する微生物“皮膚マイクロバイオーム”に与える影響について研究している、と語っています。
さらに、ある種の植物に由来する空気質が、皮膚マイクロバイオームの共生状態を「善玉菌優位」の状態にし、悪玉菌による皮膚への傷害や炎症を抑える効果があることがわかってきたといいます。
人が心身ともに健康でいられる空間が実現できれば、豊田章男社長の目指す「幸せの量産」にも繋がっているのではないでしょうか。こういった地道な研究も、未来の名車づくりにつながっているのだとしたら、なんだかすごく夢があると思いませんか?
(三代やよい)
※2022年11月18日に内容を追記・修正しました。