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■5ナンバーサイズにこだわり、最小回転半径はフリードの5.2mよりも小さい5.0m
2005年まで販売されていたトヨタ・ファンカーゴの流れもくむトヨタ・シエンタは、3列シートのミニミニバンとして、新型で3代を数えています。
先代は2018年のマイナーチェンジを機に、2列シート仕様の「FUNBASE」を追加。2022年8月に発売された新型も2列シート仕様、3列シート仕様が設定され、前者は小さめのMPVとして好調な受注を集めているそうです。
新型シエンタの魅力は、先代の後期型から全長と全幅を変えず、5ナンバー枠にこだわり、狭い道や駐車場などでの取り回しなどに配慮していること。
なお、最小回転半径は5.0m(ライバルのホンダ・フリードは5.2m)と小さく収まっています。ボディサイズは、全高と室内高をそれぞれ20mm高めることで、居住性を高め、さらに子どもが立って着替えができるなど、ファミリー層に支持されているモデルらしい設計です。
●サードシートは、非常用、短時間用と割り切れば大人でも許容できる
アウトドアやスポーツなどで子どもが車内で着替えるだけでなく、前席後方に背の高い荷物なども積み込めます。
ブームの車中泊に対応するキャビン、ラゲッジスペースの広さはもちろん、急に自転車で出かけた子どもの迎えに行く際にも自転車を積み込めるなど、小さなボディでありながらファミリー層にとって頼れる万能選手といえるでしょう。
なお、3列仕様のサードシートの居住性は、身長171cmの筆者には非常用の域を出ない印象。
ただし、2列目座面下に足が入りますので、見た目よりは足元は窮屈にならないようになっています。帰省時などに短時間、3列フル乗車をしたり、子どもの友達を乗せたりする際などは、十分に役割は果たしてくれます。
対して、サードシートを頻繁に使うのであれば、ノア/ヴォクシーが控えています。
走りに関しては、ハンドリングなどを云々するモデルではないかもしれませんが、日常使いからオフタイムのロングドライブまでを1台でカバーするユーザーも多いはずで、洗練された乗り味になっているのかも気になるところ。
「ダイナミックフォース」化された最新世代の1.5Lエンジンを純ガソリンエンジン仕様、ハイブリッド車に搭載し、WLTCモード燃費は、前者が18.3〜18.4km/L。後者は、28.2km/L〜28.8km/Lに達しています。
なお、ガチンコとなるライバルのホンダ・フリードは、ガソリンエンジン車が15.6km/L〜17.0km/L、ハイブリッド仕様が19.8km/L〜20.9km/L。比較すると、トヨタのシリーズパラレルハイブリッドであるフルハイブリッド(THSⅡ)の強さが際立ちます。
●静かでスムーズなハイブリッド仕様が印象的
新型シエンタは、純ガソリンエンジン車、ハイブリッド仕様ともに街中から非常に静かでスムーズな走りを披露してくれます。とくに後者は、ストップ&ゴーの多い市街地走行で静粛性の高さが際立っていて、燃費以外のメリットも享受できます。
大小を問わず、路面の凹凸を乗り越えた際のショックも小さめで、このクラスのコンパクトモデルとしては、上々といえる乗り心地を享受できます。
よほど路面が荒れていない限り、フラットライドといえる動きに終始します。トヨタらしく、静粛性と乗り心地の良さは、さすがといえるレベルにあります。
一方で、首都高速にシーンを移しても運転する楽しさ、高揚感は残念ながらほとんど抱かせません。操舵に対してボディは素直に付いてくる印象で、キビキビ感などは抱かせません。コーナーでの傾きも比較的抑えられていて、安定感のあるフットワークといえます。
こうした乗り味ですので、サードシートの乗員も含めて酔いにくいといえるかもしれません。小さな子どもも乗せる機会が多いはずのシエンタらしい特性といえるでしょう。
街中では際立っていた静粛性の高さも、パワートレーンが高負荷域になると、かなり音が高まってきます。ただし、そこまでエンジンを回さずに流れに乗っている分には、耳につくとまではいえないレベルには収まっています。
動力性能は、まさに必要十分というレベル。純ガソリンエンジン車は、発進時のスムーズさ、パーシャル域からの加速感もそれなりにあり、街中中心であれば不満はほとんどでないはず。高速道路を多用するのなら、モーターアシストが加わるハイブリッド仕様の方が断然逞しく、純ガソリンエンジン車から60〜70kg程度増という車両重量を感じさせない動力性能を実感できます。
エンジンの高負荷域では、純ガソリンエンジン車と同様に、うなるように音が高まるものの、頼もしさは一枚上手。ハイブリッドの利点というと、燃費などのランニングコストにばかり注目が集まりがちですが、先述した静粛性の高さも含めて、元気な走りも大きな美点になっています。
●先進安全装備のさり気ない進化
そのほか、「プロアクティブドライビングアシスト」と呼ぶ運転アシスト機能の採用もトピックスです。一般道などでもドライバーの運転をさりげなく支援する機能で、歩行者の横断、停止車両や建物の影などから「飛び出してくるかもしれない」など、運転や走行状況に応じたリスクの先読みを行う機能で、歩行者や自転車、駐車車両に近づきすぎないように、ドライバーのステアリングやブレーキ操作を補助します。
今回の試乗では、こうした介入はなかったように感じましたが、万一の際、あるいは万が一を減らす機能といえます。
さらに、高速道路での使用が想定されている「レーントレーシングアシスト」は、車線の中央維持にとどまらず、先行車に追従して操舵を支援。カーブ走行性能の向上も盛り込まれていて、状況に応じてトレースする位置を変化させる制御も盛り込まれています。
加えて、アダプティブクルーズコントロールである「レーダークルーズコントロール」には、追い越し時のウインカー操作に応じて、車両が予備加速をしたり、あるいは車線変更先に遅い先行車がいる際は、予備減速をしたりするなどの制御を採用。また、レーダークルーズコントロール作動中に、前方のコーナーを検知すると減速する制御も盛り込まれています。
こうした制御は、多くのドライバーが意識するか無意識かは別にして、アクセルやブレーキペダルでコントロールしているはずで、賢くなったドライバーサポート機能もロングドライブや長時間運転の際に、よりありがたく感じられるはず。
新型シエンタの走りは、トヨタらしく隙のない仕上がりで、燃費ではとくにハイブリッド仕様がライバルを圧倒していて、静粛性や元気な走りっぷりからも予算が許せばハイブリッドを本命としたいところです。