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■YZ250Fを駆り、開幕から11連勝。新技術の開発も担当
ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)のワークスチーム「ヤマハ・ファクトリー・レーシングチーム(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)」から、全日本モトクロス選手権・IA2クラスに、「YZ250F」を駆り参戦するジェイ・ウィルソン選手が、2022年シーズンの年間チャンピオンを獲得しました。
ウィルソン選手は、2022年10月9日(日)、2ヒート制で行われた第5戦・九州大会(熊本県・HSR九州)でいずれのヒートも優勝を決め、開幕から負けなしの11連勝。
残り2大会を残して早々とチャンピオンを獲得し、ヤマハに2017年の渡辺祐介選手以来、5年ぶりとなるIA2王座をもたらしました。
●スタンダードのYZ250Fで連勝
人工的に作られた丘や起伏に富んだダートコースを専用バイクで走り、速さを競う競技がモトクロス。その国内最高峰シリーズが、全日本モトクロス選手権です。
開催クラスには、主に4ストローク450ccマシンで争うIA1と、主に4ストローク250ccマシンで闘うIA2があり、オーストラリアのトップライダーであるウィルソン選手は、2022年からIA2に参戦。
ヤマハのモトクロス競技専用バイク「YZ250F」を駆って、デビューイヤーにいきなりの王座獲得を果たしました。
ちなみに、ウィルソン選手が乗るマシンは、ヤマハによればスタンダード仕様だといいます。ワークスチームながら、基本的に市販のモトクロッサーと同じバイクで、前述の通り、開幕から負けなしの11連勝を飾ったというのは特筆ものです。
IA2は、各大会2〜3ヒート制で行われますが、2022年シーズンのウィルソン選手は、3ヒート制だった第1戦(九州大会)から3連勝を達成。
第2戦(関東大会)では、ヒート1で複数回の転倒を喫したものの、見事に逆転勝利をきめるなど、連勝記録を伸ばして、4戦を終えて9連勝を達成。
この時点でランキング2位の浅井亮太選手(ヤマハ)に123ポイント差をつけており、第5戦の両ヒートで優勝すれば、ライバルの結果に関係なくチャンピオンが決定する状況でした。
そして、迎えた第5戦。ヒート1ではスタートで出遅れるものの、2周目にはトップを奪って独走し、2位に約19秒差をつけて開幕10連勝。同時にチャンピオンに王手をかけます。
続くヒート2では、好スタートを決めて1周目からトップへ。みるみる後続を引き離し、前半の内に独走体勢を築き、そのままチェッカー。2大会5ヒートを残して、2022年のシリーズチャンピオンに輝きました。
●2輪車向け電動パワステも開発
今回チャンピオンに輝いたウィルソン選手は、全日本モトクロス選手権では初の栄冠ですが、元々オーストラリアとニュージーランドで計6回のチャンピオンに輝いている実力者です。
また、ヤマハが行っている若手ライダーの育成活動「bLU cRU」でのコーチ経験もあり、日本のヤマハ・ワークスでも幅広い役割を担っているといいます。
特に、全日本モトクロス選手権では、残りのレースで連勝記録を更新することはもちろん、ヤマハ・ワークスが同じく参戦する、上位クラスIA1でのチャンピオン獲得に向けたチームメイトのサポートも実施。ヤマハの若手ライダーへのサポートなども行っているそうです。
また、ヤマハが、2022年3月に発表したステアリングサポートシステム「EPS(エレクトリック・パワー・ステアリング)」の開発も担当しています。
一般的にEPSといえば、4輪車の電動パワーステアリングのこと。いわゆる電動パワステですね。主に、駐車など低速時はハンドルが軽くなり切り替えしなどをしやすくし、高速道路などスピードが上がったときはハンドルを重めにして安定性を高めるなどの働きをします。
一方、ヤマハが開発中のEPSは、独自のセンシング技術を用いた2輪車向けステアリングサポートシステムで、いわゆる4輪車向けと異なる役割を持つことが特徴です。
システムには、パスなどの電動アシスト自転車で実績を持つ磁歪式トルクセンサーと、小型・軽量のアクチュエーター(電気信号を物理的運動に変換する駆動装置)を搭載。路面の変化などによって発生するハンドルへの外乱を整え、主に高速走行時のステアダンパー機能を発揮します。
また、低速時には、ライダーの意図に合わせてステアリング操作を補うステアアシスト機能も持っています。
ヤマハ版EPSは、これら機能により2輪車が走行する際の安定性に寄与すると共に、軽快性の向上やライダーの疲労軽減などに貢献するのです。
ヤマハでは、このEPSを全日本モトクロス選手権のIA1クラスに参戦するワークスレーサー「YZ450FM」と、IA2でウィルソン選手などが乗る「YZ250F」に搭載。
モトクロス競技のトップカテゴリーならではの過酷な使用環境下で使うことで、開発を加速するための各種データを取得しているのです。
しかも、将来的には、オフロードマシンだけでなく、さまざまな2輪製品への展開・装備を見据えているとのこと。
つまり、ウィルソン選手はじめ、ヤマハのワークスライダーたちは、そうした将来の2輪車に投入されるかもしれない新技術開発のためのテストなど、重要な役割も果たしているのです。
年間チャンピオン獲得だけでなく、EPSなど新しいシステムも注目なヤマハのレース活動には、今後も期待したいところです。
(文:平塚 直樹)