ホンダが「CVCCエンジン」発表。マスキー法をクリアした新エンジンは世界に衝撃を与えた【今日は何の日?10月11日】

■世界一厳しい排ガス規制“マスキー法”をクリアしたことを発表

1972(昭和47)年10月11日、ホンダ(当時、本田技研工業)が赤坂プリンスホテルで新開発のCVCCエンジンを発表。当時、適合は困難と考えられていた世界一厳しかった米国の排ガス規制(通称、マスキー法)をクリアしたという発表は、世界中に衝撃を与えました。

CVCCエンジン発表の場となった赤坂プリンスホテルで展示された初代シビック
CVCCエンジン発表の場となった赤坂プリンスホテルで展示された初代シビック


●自動車業界を震撼させた米国マスキー法

マスキー法とは、正式には「米国大気浄化法改正案」のことで、エドマンド・マスキー上院議員が提案したことから、通称“マスキー法”と呼ばれました。1970年にこの改正案は両議院で可決され、その年の12月31日にニクソン大統領の著名によって制定されました。

米国大気浄化法改正案を提案したエドマンド・マスキー上院議員 (C)Creative Commons
米国大気浄化法改正案を提案したエドマンド・マスキー上院議員 (C)Creative Commons

その内容は、1975年以降に製造される自動車の排ガス(NOx、HC、CO)を、1970年~1971年基準の90%以上減少させることでした。この規制は、世界の自動車業界に衝撃を与え、当然のことながら米国の自動車メーカーは実現困難と主張し、施行について紛糾。内容の修正が続き、1973年には実質的な廃案に追い込まれます。メーカーの大反対に加え、1973年に起こったオイルショックが規制廃止の追い風になったのです。

一方の日本では、廃案同然となったマスキー法と同レベルの排ガス規制を段階的に導入。1978年には、マスキー法と同レベルの“昭和53年規制”を施行。日本の各メーカーは、CVCCに続いて独自の技術開発によってこの規制をクリアしました。

●大きな反響を呼んだCVCCエンジンの発表

発表当日、社長の本田宗一郎ほか各役員、開発担当者が出席し、国内外の多くのジャーナリストを前に、CVCCエンジンの開発過程やエンジン性能、燃焼理論が紹介されました。

世界で初めてマスキー法に適合したホンダCVCCエンジン
世界で初めてマスキー法に適合したホンダCVCCエンジン

新開発の低公害エンジンCVCC(Compound Vortex Controlled Combustion:複合過流調整燃焼方式)は、副室付燃焼室を利用した希薄燃焼です。副室で燃焼した火炎がトーチノズルを通して主燃焼室に噴流となって噴出、これにより主燃焼室に強い渦流が起こり、希薄な混合気でも安定した燃焼が成立し、有害成分のNOx、HC、COを低減できるのです。触媒などの特別な浄化装置は不要で、エンジンのシリンダーヘッドの交換のみで対応できることも大きなメリットでした。

この発表を受け、その年の12月には米国EPA(環境保護庁)による立ち合い試験が行われ、マスキー法適合車第1号として認められたのでした。

●CVCCエンジン搭載の初代シビック登場

初代シビックがデビューしたのは、1972年7月ですが、CVCCエンジン搭載モデルの登場は、発表から1年余り経った1973年の12月でした。

1972年に誕生した初代シビック
1972年に誕生した初代シビック

シビックは、当初から世界市場(特に米国市場)で販売することを前提に開発されたコンパクトカーです。2ドアファーストバックながら、前後のホイールベースを長くして室内空間を確保した合理的な構造を採用。発売当初のパワートレインは、1.2L OHCエンジンと4MTの組み合わせ、駆動方式はエンジン横置きFFでした。ハイパワーエンジンではありませんが、車重が600kgと軽量なので低燃費と小気味よい走りを両立させていました。

そしてCVCC搭載モデルは、エンジンの排気量を1.5Lに拡大して登場。これにより、ホンダの技術力とシビックの商品力の高さを世界中に知らしめ、シビックの人気が一気に加速しました。シビックは、その後も長きにわたりコンパクトカーをけん引するモデルとして人気を博します。


自動車後進国であった日本が、排ガス低減と燃費向上技術で米国を追い越した象徴的なモデルとなったCVCCエンジン搭載シビック。日本車が米国で大躍進を遂げる契機となった、日本の自動車史を大きく変えたモデルのひとつです。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかも知れません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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