新型フィアット500eと従来型フィアット500の外観デザイン、そっくりだけどどれだけ違うのか比較してみた【クルマはデザインだ】

■従来の個性をさらに磨いて昇華させる手法

新型フィアット「500e」のスタイルが、従来の「500」とほとんど同じだと話題です。ただ、実際には完全な新設計で、従来型との共通パーツはわずか4%だといいます。では、実際にはどこが変わったのか、あらためて比較してみました。

500e・メイン
一見まったく変わっていないように見えるが、パーツの共用はわずか4%に過ぎない

全長3630mm×全幅1685mm×全高1530mmのスリーサイズは、500に比べて60mm長くて広く、かつ15mm高いものの、それでも日本の5ナンバーサイズに収まるボディは「大きい」とは感じさせません。が、その中でもまず最初に感じる違いは「上下二段構造」の明確化でしょう。

500も、ボンネットラインやキャラクターラインによってボディは上下に「分割」されていますが、500eはそれがより強調されたのです。象徴的な例が上下に分けた話題のフロントランプで、形状をより平面的にした上で巧く二分割しました。ちなみに、ボンネットラインの「すき間」が新型車にしては結構広いのですが、これが意図的かどうかは?です。

500e・スケッチ
公開されているイメージスケッチから。上下二分割が明快に読み取れる

サイドに回り込んだボンネットラインには、従来の丸いターンランプがシャープな形状になって埋め込まれ、分割線上のアクセントになっています。さらにリアへ向かうと、従来はグリップタイプだったドアハンドルがフラップ式に変更され、キャラクターラインへ見事に溶け込みました。いずれも、上下二段構造を強調する巧妙な工夫です。

●より乗用車的で「大人な」な面構成に

55e・フロント
平面間が増えたフロント。アンダーグリルのメッシュ模様が近未来的

ふたつ目の変化は面の構成です。まず、スパッと切り落とされたフロントエンドで、これはリアエンジンだった初代のリスペクトだそう。ただ、これによってフロントの平面感が強くなり、いまどきのBEVらしいシンプルさを得ました。同様に、アンダーグリルのメッシュ模様にも近未来感があります。

サイドは、よく見ると全高アップによりベルトラインも高くなっていて、その分ドアパネルが広くなりました。500のドア面は比較的シンプルな凸面ですが、500eではボディ下部に向けて凸面が凹面に変化し、妙な表現ですが、より上級車的な仕上げになっているのです。

500e・サイド
キャラクターラインに溶け込んだドアハンドルと、広くなったドア面

もうひとつ、全幅60mm増によるフェンダーの拡大も忘れてはいけません。まず、500ではほとんど感じられなかったフロントフェンダーの張り出しが明快になりました。また、リアでは張り出し部分の面積が広がって、フェンダー全体が豊かな抑揚を獲得しています。

●リアビューもより乗用車的な表現に

最後はリアスタイルです。ルーフスポイラーがかなり大型になり、スポーティさが増しているといった目立つ変化もありますが、意外なのはリアパネル全体が立体的に変化している点です。

500e・リア
大きくなったスポイラーと、二段構造になったリアパネル

たとえば、ナンバープレートの上部が張り出して2段構造になり、一般的なハッチバック車のスタイルに準じた格好です。また、リアランプはより立体的になって左右に張り出していて、これもまた最近の新型車の傾向です。

新しい500eは、一見従来の500と見分けがつかないほど似ていますが、実際にはボディ全体に渡って進化が見られます。意外なのは、最近のBEVとしてクリーンでフラットな造形に向いたようで、実はより乗用車らしい「大人の」スタイリングが行われたことです。

ですから、この500eのデザインの成長を見ると、BEV専用車にこだわらず、エンジン車も設定した方がいいのでは? などと余計なことまでも考えてしまうのでした。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
続きを見る
閉じる