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■都市間移動も可能にする航続距離を持つ電動スクーター
どこからでももたつきなく加速! 駆動がアクセル操作に直結するダイレクト感! トルクフルなのに振動なし!
試乗した範囲内でいえば、正直に言って同クラスのどんなエンジン式スクーターよりも魅力的に感じました。試乗した範囲内ではね。問題はその先数10kmの距離にあります。
当然ですが、バッテリー式なので航続距離は短い。そして充電時間もそれなりにかかる。これは大きなデメリットです。でも、航続距離の範囲内で使う分にはほぼ最高なのではないでしょうか。
これは、ヤマハ発動機がこの夏に3ヵ月の期間限定で有償リースする、実証実験用の電動スクーターです。
カーボンニュートラルを実現するために、ヤマハは30年以上前から電動バイクの研究開発を行っていますが、多くのかたがご存じのとおり、電動バイクを含むEVの最大のネックはバッテリーの容量です。
長い航続距離を実現しようとするとバッテリーが大きく重くなり、充電時間も長くなってしまうのです。ヤマハもすでにE-Vinoという50ccクラスの電動スクーターは市販していますが、都市内移動用といったところで航続距離も約29kmと短い(バッテリー1個使用の場合)。
E-Vinoでは着脱式の電池を使っていますが、人が脱着時に片手で持てる重さのバッテリーでは、これくらいの容量が限界になってくるそうです。
いっぽうで固定式電池を採用するなら、もっと重い、容量の大きい電池が使えます。そうすれば航続距離はもう少し長くすることができ、都市間移動までカバーできるようになってきます。
そういう用途を想定したのが、このE01です。しかし、ヤマハとしても、このクラスの電動スクーターがどのような使われかたをするのか、まだニーズを探っている状態で、そのために日本をはじめ、ヨーロッパや東南アジアでデータ収集のための実証実験を行うというわけです。
そして今回、そのE01の試乗会が行われたので行ってきました。
●駆動のダイレクト感の気持ちよさは格別
さて、このE01。エンジン車とは異なりパワーユニットが一直線に並ぶというところをデザイン的にも生かして、少しチューブ状というか円筒を組み込んだような意匠になっています。
このあたりは、電動車らしい新しさを感じるひとも多いのではないでしょうか。
一方で開発に際しては、やたら“電動”をアピールするよりも、125ccスクーターであるN-MAXのユーザーが乗り換えても違和感がないことを目指したということで、またがった感じなどはごく普通です。
シート下にはフルフェイスのヘルメットまで入る収納スペースが確保されています。125ccクラスのスクーターとして十分な容量があるわけです。
スイッチをONに入れたあと、ボタンを押すと走行可能に。停止時はまったくの無音ですが、このへんはもう4輪のハイブリッド車でもおなじみの感覚になってきました。あとはアクセルを開ければ発進します。
これが絶妙! タイムラグなくスムーズに発進するのですが、かといって『グンッ』と飛び出してしまうような唐突さはなく、ごく自然に発進できます。電動車というのは往々にして発進が唐突になってしまうので、そこは違和感がないように意図的にトルクの出かたを抑えたそうです。
そして、アクセル全開にして加速してみると…まぁ、遅くはないけど、特に速くもない。125ccクラスならこんなもんかな、というところです。
電動バイクの場合、ここでもっとパワーを出すことはできるけれど、そうすると電力の消費が激しくなって航続距離がどんどん短くなっちゃうので、あえてここもほどほどで抑えているそうです。
一方で真骨頂は、アクセルのON/OFFを行うパイロンスラロームのような区間です。もう、アクセルを開ければ、まったくもたつきなく、クーンと加速してくれる。アクセルOFF時には回生ブレーキも入るのですが、通常のスクーターのエンジンブレーキと同じくらいの強さにチューニングされているので、ごく自然に走れます。
そしてなにより加速、減速ともにアクセル操作に対するダイレクト感が気持ちいい。この日は比較としてN-MAXにも試乗できたのですが、振動と音がないと、ほかのことに集中できる感じなんですね。
ブレーキはN-MAXもE01もほぼ同等のものがついているそうですが、E01のほうが安定してキレイに効くような気がしたほどです。
E01には3段階のパワーモードが設定されています。「エコ」と「スタンダード」と「パワー」です。「エコ」は全体的にパワー抑えめ。最高速も60km/hに抑えてあるそうです。「スタンダード」と「パワー」は、最高速は100km/hで変わらないけれど、「スタンダード」は低速でのパワーを少し抑えているそうです。
乗った印象だと、住宅街や片道1車線の追い越し禁止道路くらいまでなら「エコ」、片道2車線の幹線道路なら「スタンダード」、夜のバイパスなど流れの速い道路なら「パワー」といったところかな、という印象です。「パワー」といってもギャンギャン走るような仕様ではないです。
●やはり航続距離が最大の制約
一方で、電動車最大の制約に関してもお伝えしておかないといけないでしょう。
このE01の航続距離は、エコモードでの60km/h定地走行で104km。実際の市街地走行ではもっと短くなると予想されます。
カラの状態からフル充電までの時間は、急速充電装置(設置場所等は未定)で約1時間(満充電の90%まで)、普通充電装置で5時間(1ヵ月1000円でリース可能だが、工事費約13万円は自己負担)、ポータブル充電装置で約14時間ということなので、ツーリングには向かないです。主な用途は買い物・通勤・通学というところじゃないでしょうか。
とはいえ、試乗した印象としては、すごく快適で乗りやすい。エンジン車のバイクでも、大排気量車って、だいたい振動が少なくてトルクが太いじゃないですか。このE01もそんな感じ。なんか大排気量車みたいな乗り味なんですよ。用途は限定されますが、その範囲内で使うのなら、すごくいいと思います。通勤や通学には最適じゃないでしょうか。
実際に販売されるとしたら価格がどうなるのかわかりませんが、そういう限定された用途に使うとして、燃費も含めて費用的に大きな差がないのならボクは間違いなく電動スクーターを選びます。
ユーザーは一般公募で100台限定(応募者多数の場合は抽選)。1ヵ月2万円の有償リースです。応募期間は2022年5月9日〜5月22日。受け取り期間は2022年7月1日〜7月31日で、リース期間は3ヵ月の限定。その後の販売予定はないそうです。
というわけなので、「次のバイクにどうでしょうか?」というものではないし、「当選したらラッキー」というようなものでもないですが、今後普及すると思われる電動バイクの特性を、いま知っておくというのは、将来のバイク選択において有益かもしれません。
新しモノ好きなかたは、この実証実験に応募してみてはいかがでしょうか?
ところで、個人的に感じたのは、このクラスの電動バイクのパワーユニットを、あえて航続距離を捨ててでも、ギュンギュン加速するパワー特性にチューニングしたら、すっごくスポーティになりそう!ってことです。
そういう小型の電動スポーツバイクにも乗ってみたいな。やっぱりバッテリー容量がネックになるのかなー。
【E01主要諸元】
認定型式/原動機打刻型式:ZAD-SY13J/Y810E
全長/全幅/全高:1,930m/740mm/1,230mm
シート高:755mm
軸間距離:1,380mm
最低地上高:140mm
車両重量(バッテリー装着):158kg
1充電走行距離: 104km※1
最小回転半径:2.1m
原動機種類:交流同期電動機
定格出力:0.98kW
最高出力:8.1kW(11PS)/5000 r/min
最大トルク:30N・m(3.1kgf・m)/1,950 r/min
バッテリー種類/型式:リチウムイオン電池/ESB5
バッテリー電圧/容量:87.6V,56.3Ah(3HR)
満充電時間 急速充電装置:約1時間※2
満充電時間 普通充電装置:約5時間※2
満充電時間 ポータブル充電装置:約14時間※2
駆動方式:ベルト
1次減速比:3.263 (62/19)
フレーム形式:バックボーン
キャスター/トレール:26°30′/90mm
タイヤサイズ(前/後):110/70-13M/C 48P(チューブレス)/130/70-13M/C 63P(チューブレス)
制動装置形式(前/後):油圧式シングルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ:LED/LED
乗車定員:2名
※1 日本仕様車60km/h定地走行テスト値。各国仕様により数値は異なります。また、実航続距離は走行条件により変動します。
※2 環境により変動します。急速充電は残量0%→90%の充電時間です。バッテリー保護のため、残量90%で充電が停止します。
(文:まめ蔵/写真:クリッカー編集長 小林 和久)
【関連リンク】
ヤマハ発動機 E01(リースへの応募方法を含む、E01の情報は下記からどうぞ)